Chapter : Systematic Orbit Specter

全てを失ったものだけが、本当の自由を得る

Side A

 パソコンとネット環境が手に入ったものの、だからどうしようと考えていたわけでは無かった。ハルヒも俺達も。で、ハルヒはSIS弾のWebサイトを作れ、と俺に命じた。まったく……でも、人の事は言えないな。


 パソコンは実に快適に動いた。設定も全部佐々木がやってくれた。とは言うものの、佐々木は『設定なんてものはしていない』と語った。

 いろいろいじり倒したうえでの結論は、メーカー製でもカスタム可能なものでも、出荷に際してお店の人がパーツや構成を見て最適な設定をしてくれているため、それは動かさない方が良い。動かしても結局、最初の設定が一番良いというところに戻る。という事だった。そんなわけで、ただOSを入れただけ。まあ、そこまでやるのに四苦八苦する人もいるだろうから、立派な方だと思うぜ? 俺は。


 Webサイトというのは、ブログサービスがほぼ自動的に作ってくるようなので、それにしようと思ったが、ハルヒが『一から自分で作らないとダメ』と言い張って却下された。使いやすそうなWordPressというのもダメだと。で、HTMLとやらを必死ににらみつけ、良く分からないまま入門書に書いてあることを入力し、表紙だけ出来た。一応メールのリンクを張っておいたから、これで良いだろう。


 それからしばらく経ったある日の事だった。

「ちょっとキョン! どういうこと!?」

 朝比奈さんとババ抜きをしていた俺を、ハルヒが無理やり立たせて睨みつける。

「どういうって、なんだよ?」

「サイトよ、Webサイト! 私達の!」

「ああ、あれか。ちゃんと出来たぞ。あれで良いだろ? 宣言文も乗せたし」

 我がSIS弾はこの世の不思議を広く募集します。みたいなあれ。

「ダメに決まってるでしょ! それに…… ちょっとこっち来なさい!」

 そう言ってハルヒは、パソコンのある机に俺を座らせた。机には『団長』と書かれた三角錐がある。結局肩書はそれかよ。無理やり首を動かされ、視線はモニターへ。

「これ見なさい!」

 ハルヒは横からキーボードを叩き、あるサイトを見せた。そこには『SAS団』と書かれた実によくできたページが多数存在していた。


 一昨日、俺達は敵対関係の中、再びティータイムに突入し、実に和気藹々とした時間を過ごしたのだった。そして、上杉さんと朝比奈さんは再会、二人にしかわからないやり取りをいくつか交わした後、握手をした。で、まあ、何だかんだ言って二人は仲が良いようだ。お茶やらお菓子やら、食器に関してあれこれと意見を交わしては笑顔になっていた。そんなわけで、俺達もお互いの集団について語り合っていたわけだ。


「隣がこんなにすごいのを作れるんだから、私達も出来る筈でしょ!? とにかく、あんなもんじゃダメよ! ブログだか、ワードプレッシャーだか知らないけど、使えるものは何でも使って、これに負けないのを作るのよ! 私も、いや、私がやるわ!!」

 目に炎が宿っている。まあ、そうだな。うん、俺もなんだかやる気が出てきた。

 そう思って動き出そうとしていると、長門と朝比奈さんからも何かメラっとしたものが見えた。『SAS団』のサイト内にある小説レビューのページ。特にSF系のあたりを食い入るように見つめ、そして俺の方をじっと見た。

「……」

「長門、何か書きたいこと、あるか?」

「ある」

 長門は、書評コーナーを担当することになった。というより、サイトの作成全般はこいつが引き受けてくれた。俺達にはさりげなくヒントを送ってくれるそうだ。


 朝比奈さんは、怪しげな幾何学模様が多数存在するページを見ていた。見た目とは裏腹に書かれていることは実にファンシーなものが多く、マスコットのデザインや、メモ用紙のアクセントに使えそうなフリーのイラストなんかを多数掲載。花やハーブに関するものも結構ある。

「……」

「朝比奈さん、何か書きたいこと、あります?」

「あ、あります……」

 朝比奈さんは、日々の活動記録を暖かな視点で記録してくださることになった。そんなわけで俺達は、その日の下校時刻までかつてないほどに集中した。接続時間が限られている事もあって、内容をじっくりオフラインで練ったのが効果的だったのか。


 次の日、俺は、佐々木とそのことについて話していた。

「ええ!? あれでやる気が出たの?」

「あれって、お前…… 長門に説明受けても俺にはまるで理解できなかったぞ。どうやってあんな知識を得たんだよ。情報化の波を受けても、中学でやったことなんて、文字の打ち方くらいしか覚えてないぞ」

「ああ、ごめんね…… いや、なんか作れば作るほど、見直せば見直すほど、中途半端なところが見えてきちゃって、これじゃまずいなーって思ってたんだよね。でも、やる気を出してくれたんならいいか。うん。良かったんだよね。きっと」

 まったくこいつは…… 相変わらず、すごい。

 佐々木は、お互いのサイトに掲示板や交流可能なコメント欄をつけ、長門と小説について匿名で語り合い、映画やゲームにまで範囲を広げていった。時々、長門のハンドルネームで書かれる文体が大幅に変化し、別人であることが明らかなのもあったな。その後、上杉さんも、朝比奈さんに対抗意識を燃やし、お互いのサイトは充実していった。結城さんはスパイであるがゆえに、大した事を書かない、ということにしたらしい。時々サイトをいじって、世の人々の頭を揺さぶるそうだ。現実世界の出来事や、コンテンツの進み具合に合わせて、サイトに仕掛けを施すんだと。何を言っているか分からなかったな。


Side B

 ある日の昼休み。私はまた、ハルヒに引っ張られていた。

「ついに来たわよ! 謎の転校生!」

「今の時代、時期に関わらず転校や編入はもう珍しくないと思うけど……」

「私に都合よく来てくれるところが謎なの! しかも二人もよ! ますます状況が良いわ。またどっちか選べるじゃない!」

「そ、そうだね……」

 そして、私達は一年九組についた。例の如く入口から覗く。

「私の情報によると、あの男子ね。なんだか頭の良さそうな美形のあいつ。もう一人は女子だけど、そっちの情報は……」

 ハルヒがメモを取り出そうとしていた時、私の左手がガシッと握られた。

「え?」

 私は振り向いた。そこには眼鏡の少女が立っていた。

「あ、あの、あなたは……」

「マスター。今度は私が守ります」

「へ?」

「この学校には未知の勢力が多数アンブッシュしています。敵の気配を察知しつつ突破します。我々はハンターであると同時に、獲物でもあるのです」

「あ、あの……」

「最適なルートを探る方法、それはアウェアネスとトラッキングです。人が多く通る道には理由がある。そこを基点に、今進むべき道を作り出します」

 そういってその娘は私をハルヒから引きはがし、私の手を取って歩き出した。ハルヒが呆然としている。私はそのまま、来た方向へ引っ張られて行く。何なんだろう、これ?

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