普通の人間は凄く怖い。でも、それぞれ違った

Side A

 ハルヒが謎の転校生を捕まえてくると昼休み出ていったのだが、戻ってくるとなんだか元気がなかった。まあ、ほんの少しだけど。そして、放課後再び出ていった。その際に自分の顔をバシバシと叩き、気合を込めていたようだ。なんなんだろうな?


 それで現在の俺たちはというと、文芸部室でスゴロクゲームをしていた。

 長門は佐々木と数々のレビューと共に語り合った後、俺達に聞いてきた。最も公平な勝負は運の絡むものではないか、と。

 いきなり何を言ってるんだ? と聞くとこう答えた。


「佐々木真実は自らの力を自覚し始めている。


 涼宮ハルヒと同じ力である、ということも。


 そして、自らが望みを持った場合、それに向けて周囲の環境を操作してしまうのではないか、と不安と戸惑いを持っている。


 そして最初に宣言した勝負のことが気にかかっている様子。自分の望み通りになってしまうのなら、勝負も何もあったものでは無い。


 何より涼宮ハルヒは自分の力のことを知らない。それではあまりに不公平だと」


 そうだな。その通りだよ。でもな、だから何だっていうんだよ。そいつが…… あまり好きな言葉じゃないが…… 『才能』ってやつなんじゃないのか? それがあいつの、あいつだけの力なんじゃないのか? だったらそれを使って何が悪いんだ?

 少し興奮して、叫び出しそうになってしまった。朝比奈さんが雰囲気でそれを察知したのか、肩に手を置いてくれた。ありがたいですよ。ほんとに。

 そして、朝比奈さんはスゴロクを提案すると同時に言った。

「未来の事は、誰にも解りません」と。


 そんなわけで俺達はそれで遊んでいるというわけだ。でも、これで白黒ってのは味気ないような気もするが……

「映画の中に、止まったマスによって世界が変化し、非日常へと誘われるものがあった」

 長門が恐ろしい事を言った。俺はもう、そうなることは必然だと信じられる状態だから、なおのこと恐ろしい。


 その時、ドアが静かに開かれた。

「ま、ま、待たせたわね!」

 ハルヒが誰かを伴って入ってきた。やっぱりちょっと変だな。いつもが変だから今はまともなのか?

「えーと、こちら転校生の……」

「古泉一樹です。よろしくお願いします」


 展開を端折り過ぎだとは思うが、古泉はSIS弾に入ることになった。これで五人そろい同好会としても認められる。活動もこれから始まる。だが、やはりハルヒの元気が無かった。俺達も調子が狂ってしまうほどに。その後ハルヒは下校時刻を待たずに帰って行った。


 ハルヒが帰った後、俺達は秘密会談を持った。まず自己紹介をしたうえで言った。

「古泉。お前にも聞きたいことはいろいろあるが、ちょっと事情があってな。隣の奴らと相談しながら、休戦と、お互いの健闘を称える場を持ちたいと思う。いいか?」

「ええ、もちろん。お隣にも知り合っておきたい方はたくさんいますから」

 長門と朝比奈さんも承諾してくれた。俺はそのことを伝えに隣にお邪魔する。


「ちょっといいか?」

 ノックをして扉を開く。

「やあ、いらっしゃい」

 佐々木が応えてくれた。ところで、一人増えていないか?

「うん、こちら転校生の……」

「ディープスロートとでも、呼んで…… くっ、やっぱり恥ずかしい……」

 新しく増えた眼鏡の少女は、顔を赤くして俯いた、そしてしばらくすると、さっきの無表情とは打って変わって、明るい笑顔で話し始めた。

「伊達灯(だて あかり)と申します! よろしくお願いしますぞ、キョン殿!」

 また変わった奴が来たもんだ…… まあ、こっちもだけどな。

「よろしくな。伊達さん」

「そんな堅苦しくならずとも、私の事なら『あかりちゃん』とお呼び下され!」

「……えーと、間を取って伊達と呼び捨てで良いかな?」

 どう間を取ったのか自分でもわからないが、快く承諾してくれた。


 俺はハルヒに元気が無い事を伝え、強制的に第三次ティータイムに突入することを提案。全員賛成で開催が決定された。とにかくその場で盛り上がれば、少しは元気も出るだろう、という、行き当たりばったりなものだが。

 話しているうちに、伊達が「自分はサイボーグである」ということを述べた。最近の非日常の異常事態に慣れていたうえ、あまりにもさりげなく伝えられたので反応が相当遅くなってしまった。伊達は「ぐふぉふぁあ」と良く分からない笑い声をあげていたな。


 翌日の放課後、文芸部室にてティータイムとなった。ハルヒには佐々木が説明していたようで、不意を突かれて暴れ出すという事はなかった。俺達は自分の好きなようにする、をモットーに時間を過ごしていた。つまり俺は状況を見守る、ということだな。何故か、初対面のはずの長門と伊達がやたらと仲が良い。サイボーグと宇宙人はまだ戦っていなかったっけ? いや、あるよな? どこかに。そして朝比奈さんと上杉さんも非常に微笑ましい会話をしている。未来の世界では魔術が普通に存在してたりするのか? そして、こちらも初対面のはずだが、意味深な会話の後、古泉と結城さんは、敵のアジトでくつろげと言われた諜報員のように、不敵な笑みを浮かべている。でも、なんだか嫌な感じはしないな。そして、ハルヒと佐々木は……

 なんだろうな、この感じ。いつか見たような気がする。笑顔が、つらそうだ……でも、これも悪い感じがしない。それがまた、つらい……


 ここまで言っておいて、信じてもらえないかもしれないが、俺は楽しかったんだ。本当だぜ。でも、今のうちに聞いておかないといけないと思ったんだ。だから、適当なところで古泉を連れて外へ出ていった。最近よく来る、自動販売機の傍のベンチ。



「聞くまでも無いでしょうが、もう何らかのアプローチを受けているようですね。実に様々な方から」

 ああ、その通りだ。

「では、僕は何だと?」

 超能力者じゃないだろうな?

「その通りです。実は、超能力者なんですよ。先に言わないで欲しいですね」

 その後の古泉の語るところは、こんな感じだった。


 三年前のある時、自分には超能力が宿った。何故かそれが超能力だと分かり、その使い方、そしてその力が宿った理由も分かってしまったと。

 世界中に同じ力を持つ仲間がおり、彼らと共に活動する『機関』を作ったという。

 で、その『機関』の見るところ、超能力が発生した理由は『涼宮ハルヒ』である。

 この世界は、ある存在が見ている夢のようなものでは無いか、という仮説のもと、世界の破滅を防ぐべく超能力を使って活動をしている。

 『機関』はある説を捨てきれないでいる。『涼宮ハルヒ』が三年前に世界を創造した。人類の全ては、その際にそれぞれの記憶を植え付けられて想像されたのではないかと。『機関』は干渉することはせず、ただ見守るのみ。


 そして俺は尋ねた。

「今ならもう疑う気はない。でも、興味が湧いたからちょっと力を見せてくれないか?」

「できればお見せしたいとこですが、僕の能力は解りやすいものじゃないんです。それに発動条件がある。それを満たした時にのみ、超能力者となるんです」

「発動条件ってのは?」

「それも説明が難しくて、そうですね、時期が来れば、というところ……で……!? な、なぜ……」

「どうした?」

「どうして…… 感知できなかった…… それに、これは今までと違う? 完全ではない……? だが、これは……」

 さっきまでの笑顔が遥か彼方に飛んで行ってしまい、古泉は眉間にしわを寄せて険しい顔をしている。どれくらい時間が経ったかわからない。また古泉が驚いたようだ。

「消えた……!? 今度は一体何が……」

 また、動揺している。もう俺は何を言っていいのかわからないぞ。

「申し訳ありません。ちょっとした、その、異常事態が発生しまして、ちょっと失礼します。ああ、明日から必ず参加しますので、その点はご心配なく。それでは」

 そう言って古泉は去って行った。俺はしばらくの間、ベンチに座っていた。何故か立ち上がれなかった。

 なんだろう…… 腕が震えているような……

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