私は、正義の味方になりたかったんだ…… そして成った

Side B

「ねえ、朝比奈さん。そろそろ観念して私の仲間になってよ。私が見つけられないのはトンデモ行動が少ないからだって気付いてしまったの。だから、自分から動き回って目立たなくてはならないの。わかるでしょ?」

「あ、あの…… 私は、その、目立つわけにはいかないんです。私はこっそり探らないと……」

「相変わらず君達は訳が分からないねえ! いい事だ! 愉快愉快!」


 ハルヒが目を付けたのがあの三人の中の一人。朝比奈さんと呼ばれた先輩みたい。

「行くわよ、マコト! 私達も負けてられないわ!」

 そう言って私を引っ張ってその三人の許に向かう。

「ちょっと失礼」

「あら?」 「はい?」 「おんや?」

 三人がこっちを向いて返事をした。真ん中の朝比奈さんの肩をハルヒがガシリと掴む。

「ひぃっ!」

「ねえ、あなた。私とこの娘、どっちが良い?」

「へ、へえぇ?」

「どっちか言いなさい。さあ、早く!」

「す、涼宮さん…… なんで、ここに……!?」

「よっしゃ! 私ね! じゃあ私が貰って行くわ! またね!」

 そう言ってハルヒは朝比奈さんを連れて行ってしまった。


「のぞみん、みくるが連れていかれちゃったよ。何だったんだろうね、あの娘」

「あれは、おそらく…… うーん。わからないけど。私の獲物をさらって行くなんて……お仕置きが必要かしら……」

 何だか怪しげな会話が始まってしまった。なんだか長くいるとまずい気がしてたので退散しようと後ずさりをした時だった。

「うん?」

 のぞみんと呼ばれた先輩が私を見た。

「……っか ……っこ ……きぃぁぁああ!」

 私に駆け寄ってきて、両手をガシッと掴まれた。

「あ、あの…… 何を……!?」

「み、み、見つけた、ついに、ついにいぃぃー!」

 教室の先輩方は静まり返り、私たちから距離を取っていく。なんだか少し前に見たような光景だよ。どうしよう。

 私はどうにか『のぞみん先輩』を教室から引っ張り出せた。もう一人の先輩が大笑いで私達を送り出し、周りの先輩達は何も見えないかのように明後日の方を見ている。その場から抜け出て人気のない場所に来ると、そこでようやく両手を離してもらえた。良く考えればここは、キョンと近況を語り合ったベンチの傍だね……


「ふ、ふぅう、ふほぉお……あ、ああ、失礼しました。えーと、私、上杉望(うえすぎ のぞみ)と言います。よろしく」

「あ、ど、どうも、佐々木真実です」

 上杉さんは、息を整えると自己紹介して、私と握手した。そしてその手を恍惚の表情で眺めたり、摩ったりしている。

「う、うん! えーと、大丈夫。私、変じゃないから」

 ちょっと変かな? 私が言えることでもないけど。そして上杉さんは、さらにとんでもない発言をした。

「私は魔術師よ。あなたをずっと探していたの」

 ま、まじゅ、まじゅちゅ…… え、ええぇ?


「魔術結社『満天』に所属し、そこから派遣されてきた者よ。まだ見習いのレベルだけど。


 私達は太古から続く魔術体系を学び、究め、信頼のおけるものに託し、伝えていくことを目的としているの。時々、人々や自然のために力を使いながらね。


 ある時、高位の魔術師が予言をしたの。


 我らを導く強力な存在が現れる。その者は我らを導き、引いては世界の人々を正しき道へと誘うであろう。その過程は、黄金のライ麦畑に降り立ち、カッコーの巣の上を通り過ぎ、22番目の穴を通り抜け、愚かな心と共にひょこひょこ歩いていく、と。


 えーと、つまりその…… あまり言いたくはないけど、しょうがないわね。実は同じような目的を持つスパイから情報の提供を受けたのよ。屈辱的なことだけどね。


 で、貰った情報を穴が開くほど読み。じっくりと頭で考え。天の啓示を待った。つまり勘でここを選んだの。


 情報っていうのは、つまり、学校に嫌気が差して、精神病院の中に居るような心持で、自分が病気と言えることは病気じゃないのかと思い悩み、いい子だったのかどうか過去を探り続けて、結局何もわからなかった、と思っている人を探したわけ。


 でも、そう考えてみると、周りにそう言う人が結構いたもので、この学校に入って一年間周りに溶け込みつつ網を張っていたの。ただ、この学校、妙なオーラをまとった人がたくさんいて、場所の選択は間違ってなかったんじゃないかって思えたわ。そして、あの憎たらしい胸を持つ娘を取り込んで、私と共に『薔薇と銃と未来の団』を結成しようと持ち掛けていたのよ。


 そんな時にあなたが目に入ったの。一瞬で分かったわ。あなただって。まるで主を選ぶ麒麟の如く…… いや、それはそれとして…… つまり、あなたこそ私達が待ち望んだ救世主! 本物の魔法使い! 待っていましたマイスター!」


 私はポカンと口を開けてしまっていた。マイスターって? つまり、私も魔術師の素質があるってこと?

「もちろんよ! 素質がどうこうなんてものでは無くて、実はあなたこそがこの世界の魔術体系の創始者かもしれない、っていう意見すらあるくらいなんだから!」

 ?? え? ふぇ? 創始者ってなに? 昔の人じゃないの?

「魔術を極めた者は、その力を信頼のおける後継者に託すものだけど、一説にはその力を人の血に封じ込めることができるとされているわ。その創始者の力が現代のあなたに受け継がれ、目覚めた。そんな感じね」

 そんなこと言われても…… 私、魔術なんて使えないよ……

「いいえ。あなたは使っています。その力の秘密にもうすうす気づいている筈です。そして、どうすればいいか戸惑っている。それで良いんです! 私は傍であなたを見守ります!」

「……そうかな…… ところで、上杉さんは……」

「ああ、ちょっと待って、そんな堅苦しい呼び方はやめて、どうぞ『のぞみん』と呼んでね」

「えーと…… それは、その……望さん……」

 私はそう呼んで望さんの全身を眺めた。背が高い。170cmはある。そして全身から漂うクールなオーラ。ただし胸が少々…… い、いや、そうじゃなくて……

「その雰囲気で『のぞみん』はちょっと合わないんじゃないですか?」

「ギャップ萌えよ! この外見で、中身は幼さを醸し出す。そうすればいろいろ集まってくると思ったの。ツンデレとか不思議系もやってみようかと思ったけど、ちょっと体に合わなかったのかしらね。多分一番敬遠している異常系変態キャラに近づいてしまわぬように、体が拒絶反応を起こしたのね」

 へ、へえぇ……

「あの、もしよろしければ、魔術というのを見せてもらえないでしょうか……」

「う、うん、実はその、私、あんまりそういうの得意じゃ無い方なの…… 上級者には程遠くて…… でも、ちょっと見ててね」

 そういうと、望さんは近くに落ちていた空き缶に向けて、両手を伸ばし何やら力を込める。

「………ーーっかあぉ~……」

 すると、望さんの手から1mほど離れている空き缶がわずかに空中に、浮いた。

「ぶふぇぃえぁ~~……」

 そういって、望さんは脱力し、地面にへばりついた。

「わ、私の力は、その、解りやすい形のものは、こ、これが、今の限界ね…… あの、感覚としては『スターウォーズ』に出てきた『フォース』というのが一番近いかもしれないわ…… もしかして、ジョージ・ルーカスも魔術師では? とか疑ったくらいよ……」

 ふ、ふーん…… いや、十分凄いよ…… ほんとうに、目の当たりにしてしまった…… ジェダイの騎士の力…… これは、いったい……


 私は平静を装っていたけど、心は興奮しっぱなしだった。鼓動が強くて速い……

 そして、私は望さんをSF研究会の部室に案内した。

「こ、こんにちは。結城さん、今日はお客さんがいて……」

「あ、あの、よろしくおねが…… な!? なんで、貴様がぁ!? い、いや、そうじゃなくて、あれ、どうすればいいんだっけ…… と、とにかく、よろしく」

「よろしく。見習いの(おじゃ)魔術師さん」

 結城さんは口の形を変えたまま声は出さないで、何か示したようだ。

「ぐぬぅ……」


 想像するに、望さんが私を探すために力を借りたのが結城さんの組織なんだろうね。それが気に入らなかったのか、二人は闘志をぶつけ合っているように見えた。でも、なんだかいい感じだな。私の所に二人も集まってくれるなんてね。

「えーと、その、私はこの部活の名称を変えたいんだけど……」

「ああ、好きにしてくれ。新しい生徒会への申請なんかは、全部俺がやるから」

「くっ、偉そうに……」

 一つだけ考えているものがあった。そして、それを隠すものもね。

「ありがとう。えー、私の部の名前はSAS団にします!」

 それほど衝撃は無かったみたいだけど、二人の頭に『?』が浮かんでいるようだった。

「SAS…… おれにはぴったりだと思うが、なんでそんな名前に?」

「えーと、これは略語なんだ。正式な名前は、


 世界に新しい風を吹き込む佐々木真実の団

 

 ということでSAS団です」

 望さんが口を縦に大きく開いたまま、拍手をしている。うん、ちょっとよだれが出てきそうだから、その辺でね。

「でも、なんで『団』なんだ? いっそのことSASだけにして、世界に打って出たらどうだ?」

「えーとね、これは、昔の人の知恵を借りたものなんだ。

 目に見える姿と、目に見えない姿でここに居る。

 つまり、あなたは一人じゃないから、苦しい時はここに来ていいよっていう意味にしたかった。だからその、その人たちの考えとは違ってしまうかもしれないけど、名前を拝借したくて『団』かな」

 望さんが奇声を上げながら拍手をしている。うん、あんまり騒がしいと隣に嗅ぎつけられちゃうから、その辺でね。

 それから私は、二人としばらくおしゃべりしていた。私の呼び方をどうするか、とか。結城さんはMしかないだろうと言っていたけど、望さんは恐れ多いと言ってマイスターにすべきだ、とかそんな感じでね。


 次の日の昼休み。昨日、望さんと話していたベンチに向かった。もしかしたら向こうも私を待っているかもしれない。

「よう、佐々木」

「やあ、キョン」

 顔を見合わせて、お互いに何かを悟る。やっぱりかな?

「俺はまた、すごいことを聞いてきた」

「実は私も」

 そういって、私たちは話し始めた。

 ハルヒが付けた名前、すごくおもしろいね。私のと似ているのは偶然だよね。

 朝比奈さん…… 昨日のあの人か…… 未来人、そうなんだ……

 そして、新たな可能性、それがあの入学式の日……

 私とハルヒが会った日か……


 私も望さんのことを話した。

 私達は笑っていたね。

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