失敗した失敗した失敗した、でも諦めてない
Side A
放課後、俺は文芸部室に居た。ほんの少し前に来たはずなのに、なんだか居心地が良くなってしまった。ハルヒが何処かへ行ってしまい、俺は長門と二人で静かに座っていた。長門は今日も分厚い本を読んでいる。
「何、読んでるんだ?」
「ダークソウル ザ・コンプリートガイド」
「攻略本かよ!」
そういやこいつの家にはゲームがたくさんあったな。宇宙人もゲームやるのか。まあ、いいけどな。
「私は、それほど苦も無くクリアできたが、情報によると、このゲームはクリアできないまま投げ出すものが続出しているらしい。にも関わらず相当な人気を誇る作品。心が折れても、何度もやり直し、長く続けることが出来る要素を探っている。私の予測では今後重要なファクターとなる」
へえぇ。まあ、何でゲームは長続きして、勉強は続かないのかは疑問に思うところだよな。
その時勢いよくドアが開いた。
「やあ、ごめんごめん! 遅れちゃった! 捕まえるのに手間取っちゃって!」
そう言いながら、ハルヒは誰かを引っ張りながら入ってきた。怯えながら引っ張られるその少女の様子から見て、無理やり連れてきたんだろう。小柄な美少女は震えながら戸惑っている。
「なんなんですか? ここ、どこなんですか? 何で私は連れてこられたんですか? な、なんで部室に指紋認証のロックがついてるんですかぁ?」
「お隣にそういうのに詳しい人がいて、この前の一件以来、仲良く……じゃなくて、手の内を晒しつつ、けん制し合うようになったの。これも……その一環よ。こんなの付けても返って不便そうだと思ったけど。まあ、今は丁度いいわね」
ハルヒは指紋認証装置を操作し、扉をロックした。
「はわわ……」
震える肩を掴んでハルヒは俺たちに向かって言った。
「紹介するわ、朝比奈みくるちゃんよ!」
そして沈黙。紹介終わりかよ。
「どこから拉致してきたんだ?」
「拉致じゃないわ。ちゃんと私を選んだのよ。だから連れてきたの。心変わりしないうちにこっちのものにしておかないと!」
なんだか嫌な予感がしてきた。さっき隣に乗り込んで、出ていった時には足音が多かった気がする。あいつを巻き込んだのか……
「二年生なのにこんなに可愛いのよ。胸も大きいし」
そう言ってハルヒは朝比奈さんの胸をもみ、朝比奈さんは悲鳴を上げた。おもわず俺は目をそらすが…… うん?
「てことは、この人は上級生じゃないか!」
「そうよ!」
そんなに堂々とされても…… まあ、今に始まったことじゃないか。
「それで、なんでこの人なんだ?」
「アンチテーゼのためよ!」
なんだって? アンチテーゼ? 何かに反対するためってことか?
「最近の世の中は、ロリとエロを押し出して、やたらと露出が多くて、何かっていうとゆるキャラやらマスコットやらにして、ほんわかとした雰囲気でどうにか押し通そうとしているわ。でも、もうそれも飽和状態で大衆は新しいものを求め始めるころよ。私達はその先駆けとなるべきなの! だから、このロリで巨乳な少女の素材はそのままに、クールビューティキャラに仕立て上げる! そのギャップ萌えで世の中の注目を集めるのよ!」
萌えは狙ってるんじゃないか。言ってることが滅茶苦茶だ。しかし、一理あるようにも思う。どうすればいいんだ……じゃなくてだな……
「みくるちゃん、あなた他に何かクラブ活動してる?」
「あの…… 書道部に……」
「じゃあ、そこ辞めて。我が部の活動の邪魔だから」
朝比奈さんはおろおろしながら、助けを求めるように俺を見る。俺もどうすれば良いか分からない表情なんだろう。朝比奈さんは再び、視線を泳がせた。そして、長門の方を向くと驚愕の表情を見せた。
「えっ…… えっ……」
そして今度はドアについている指紋認証ロックシステムを見た。
「あれっ…… どうして……」
その後、本棚のある壁の方を見た。
「そんな…… どうしてまた……」
その後少し俯いて、考え事を始めた。
「さっきの…… まさか…… そ、そうだったの…… 解りました。書道部は辞めてこっちに入部します。きっと彼女もそうするはずです……」
悲愴な声で呟いた。彼女って、誰の事だ?
「ところで、文芸部はどういう活動をするんですか?」
「我が部は文芸部じゃないわよ。活動内容は……その、まだ秘密だけど。偽名……じゃない、名前は考えておいたから」
そう言ってハルヒは誇らしげに、自らのクラブの名前を発表した。
その名はSIS弾。
世界にいくつもの心地よい風穴を開ける涼宮ハルヒの弾。
略してSIS弾である。
大丈夫だ、みんな。おかしいのは分かってる。これから聞くところだ。『同好会』とすべきところだ、というのが前提だよな。その上で考えて『団』にするならまだしも、『弾』とは何だ? 集団を表していないぞ? まさか、俺達を何処かへ突撃させるつもりじゃないだろうな? どういうことなんだ?
「いいじゃない別に。音で聴けば変わらないんだし。それにこれは、意味で言ったら『バレット』じゃなくて『バウンド』なんだからいいの!」
何がいいのかわからない。説明になっていたんだろうか…… いや、もう、いいか。
肩を落として、廊下を歩いている朝比奈さんを、俺は追いかけ、話しかけた。
「別に入らなくていいですよ。俺がなんとかハルヒを言いくるめますから」
「いえ、いいんです。私、入ります。これはきっと、時間だけでは測れない何かが動いているんです」
何のことです?
「うーんと……」
少し考えるそぶりを見せてから、朝比奈さんは俺の顔をじっと見つめた。
「キョン君、ふつつか者ですが、よろしくお願いします。そして、不躾ですが、アドレス交換お願いします!」
なんだかいきなりすごい展開だ。どぎまぎしながら、アドレス交換をした。まあ、考えてみれば長門やハルヒともやっていたな。
「それからあたしのことでしたら、どうぞ、みくるちゃんとお呼びください」
朝比奈さんは、にっこり微笑んだ。
次の日の朝、さっそくメールが届いた。
おはようございます。朝早くすみません。
どうしてもお伝えしておきたいことがあってメールしました。
学校に行く前に、どこかで会えませんか?
という内容。ますます、すごい展開だ。すご過ぎて怪しい。そして少し前に似た展開があったような気がする……
俺は何時もより一時間早く家を出て、朝比奈さんと会った。
そして、言われたのは、
「わたしは、この時代の人間ではありません。もっと未来から来ました。」
というものだった。
その後の説明は大体こんな感じだったかな
いつ、どこの時間平面から来たかは言えない。ここに来る前に精神操作を受け、強制的に暗示にかかっているので言おうとしても言えない。
時間と言うのは、連続性がある流れのようなものではなく、その時間ごとに区切られた一つの平面を積み重ねたものである。
時間と時間との間にはわずかな断交がある。だから時間には連続性がなく、積み重なった時間平面を三次元方向に移動すれば時間移動が出来る。時間はアナログではなく、デジタルな現象。
そして、いつかどこかの時点で強烈な時空震動が発生し、その観測ポイントより前の時間へ戻ることが出来なくなった。この事態の中心にいたのが『涼宮ハルヒ』だった。
朝比奈さんたちの組織は、『涼宮ハルヒ』を観測することで、事態の打開とさらなる可能性に繋がると見て、この時間平面に朝比奈さんを送り込んだ。
ハルヒに自分から伝えることや、大きな影響を与える事は『禁則事項』にかかって行う事が出来ず、言葉にすることも出来ない。
俺に伝えるのは、俺がハルヒに選ばれたからだ、と。
そこから先を話すとき、朝比奈さんは少し興奮気味だったように思う。
―――――
それが、私が受けた指令と、聞かされた全てです。そのはずでした。
でも、ここに来て、何だかおかしなことになってきたんです。
この時間平面から、およそ三年前より先には時間遡行できない。でも、私がこの時間平面にきてから『TPDD』のメンテナンスなんかをしている時に、それ以前の時間平面の情報が混ざっているのを見つけたんです。変に思って、上層部にそのことを報告すると、上の人たちが調査に乗り出しました。そして分かったことは、一旦、今年の4月7日の時間平面に来ると、どういうわけか三年前より先に時間遡行することが出来たんです。
私達は一瞬にして、とてつもない可能性と、大きな力を手にしました。今でも調査は続いている筈です。でも、私に来る指令は全く変わりません。『涼宮ハルヒの観測を続けよ』というもの。
私は、安心したところもあります。でも、疑問に思う事が日に日に多くなっていきました。そして昨日、涼宮さんが私を見つけた時の事。涼宮さんと一緒に私の教室に来た『佐々木真実』さん。彼女を見た時に、何かが頭に走ったように感じたんです。そしてあの文芸部室――今はSIS弾の部室でしたね――そこで見た事、感じた事を合わせると、きっと彼女こそが新たな震源なのだ、と思いました。
昨日、そのことを報告し、私はどうするべきかを尋ねました。あの、特殊な通信方法なんですけどね。すると、回答はこう
指令には変更無し。
ただし、『佐々木真実』に関わる際の禁則に関して、特別権限を付与する。
言葉で説明することは以前通りの禁則事項。
ただし、行動に際しては、『アンリミテッド3』とする。
ということでした。
アンリミテッド3というのは、制限項目無し、停止条件無し、期限無し、というほとんど何でもありの、タイムトラベラーのパスポートみたいなものなんです。私なんかが貰えるはずのないものです。これでは、私は佐々木さんに関して行う理由をつければ、どんなことをしても良い、という事になってしまいます。涼宮さんに関わることさえも…… いったいどうすれば良いのか……
―――――
そんな感じだったか、おれも分からなくなってきましたよ……
でも、少し前に同じようなことがあったんで、もしかしたら、もう一人、同じような状態にあるかもしれない。
そう思って俺は教室に向かった。
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