Chapter : Soldiers with Oath Sign

いつか必ず、自分が死ぬってことを刻み込め

Side B

 キョンといろいろ話した日の放課後。私は自分の同好会が隣に出来たことをハルヒに伝えた。ハルヒは目を爛々と輝かせ、キョンは私の隣の結城さんをギロリと睨みつけていた。そこで私も勢力拡大を図る旨を伝え、敵対しつつも友好的関係で行きたいというと、ハルヒは『望むところよ!』と言って応じた。


 そして、翌日から私たちの敵対的友好関係は、魚に水を与えるように私たちを活発にさせた。ハルヒは『この情報化社会において、パソコンの一台も無いなんてあり得ない』と言って、右隣のコンピュータ研究会に乗り込み、機材を強奪する計画を立てていた。そんな無茶苦茶をやらせてはいけない、とキョンがSF研に相談に来た。

「どうすりゃ良い? あいつなら本当にやりかねないぞ」

 うーん、そうだなぁ。まあ、それも良いのか…… イヤ、ダメだって! うん。

 あ、そうだ。

「ねえ、キョン。私まだ長門さんとしっかり話したこと無かった。お茶でも飲みながら少しみんなで話してもいいかな?」


 そんなわけで、文芸部にて、ティータイム。敵対関係のはずなのに非常に和気あいあいとした時間となった。私は長門さんに話しかけ、長門さんは時々うなずく。もっと大事な話があるはずなんだけど、雑談ばっかりしていた。

 ハルヒは強奪プランを幾つか披露し、私たちはなだめる構図になった。それにしても、私たちの状況をハルヒだけが知らないんだよね。これっていいのかな? 伝えるべきだろうか? すると、隣に座っている長門さんが小声でささやいた。

「あなたを通してなら、私の行動に制限は無くなる。もしも伝えたいと思うなら、私も一緒に伝えようと思う。今回は判断をあなたに委ねたい」

 うん。それは良いけどね。長門さんは、私の心が読めちゃうの? どうして?

「気付いていないようだが、あなたは考えていることを観測困難なレベルの音で声に出している。私はそれを拾う事が出来る。それを使ってのコミュニケーションを図ろうとしたが、あなたから驚きと共に、わずかだが、恐怖や嫌悪の感覚が見える。今後は控える」

 私も気を付けるね。ありがとう。考えすぎの時に喉が痛くなるのは、こういうことだったのか…… うん? ちょっと待って?

 私は長門さんを見て、喉を二回ほど指で触り、親指と人差し指で丸を作って、考え始めた。


 しばし後、長門さんから発言。

「私にもプランがある」

「へえ! 聞かせて!」

「コンピュータ研究会は、自作PCを制作し、パーツを揃え、徐々にグレードアップを計るのが伝統のよう。年々それを受け継いできているため、処分できていないパーツが相当数存在する。部室の清掃と共にその回収を我々で請け負い、回収したパーツを組み合わせれば、現行の標準マシンよりもスペックは落ちるが、文書作成やネットサーフィンには十分な機能のPCを組み上げることが出来る」

「おおお!?」


 そして、結城さんからも発言。

「それと俺からも一つある」

「!? いいわ! 敵の塩を貰ってあげる!」

「今、俺のクラスで総合的な学習の時間という授業があってな。大雑把に言うと、外に出て何かやって来い、ということなんだがね。ちょうど煮詰まっていたところなんだ。そこで、この部室棟全体にWi-Fi環境を設置しようと思う。各部の代表や、電気屋なんかと話し合う必要はあるだろうが、一日三時間ほどの接続にすれば、学校の回線と繋げてもらえるはずだ。ファイヤーウォールやらフィルタリングやらは俺がやる。その辺の知識はあるんだ」

「どおお!?」


 ハルヒは快諾した。

「いや助かったよ。こんなに見事にやってもらえるとは思わなかった。長門や結城さんにそんな知識や能力があったとは驚きだ」

「実は、全部私の作戦だったんだ……」

「は?」

 私は長門さんの力を頼って、私の考えを長門さんに語ってもらった。その隙に結城さんにメモを渡し、同じく語ってもらう。パソコンやネットの知識は全部私が伝えたもの。実際そんなにうまくいくとは思えなかった。ただ、一緒に何かやっていれば程よく体も動かせてスッキリするんじゃないかって思ったんだよね。

「お前は全く…… でも、やっぱりお前のままだったな」

 でへへ…… じゃなくて! とにかく準備にかからなきゃ。


 次の日、私たちはコンピュータ研究会に行って提案を行い、結城さんには授業で私のプランを実行してもらうようにお願いした。コンピュータ研は喜んで承諾してくれた。電子機器の廃棄やリサイクルなどが厳しくなってから処分が面倒になってしまい、溜まりに溜まっていたそうだ。実は使われていない部室を倉庫代わりにしてしまい、そこにも相当な量が溜まっている。お厳しい方々に見つかったら危ないところだったと……

 私達は、使えそうなパーツを見つけて、残りを近くのPCショップに持っていき、お安めのリサイクル料で引き取ってもらうことを期待していた。


 私は経験が無いんだけど、ジャンクパーツの中には時々お宝が眠っているらしい。

パーツの山の中から見つけたものは


 三次キャッシュまであるCPU

 それが装着できるマザーボード

 8GBのメモリ

 なんだかすごそうなグラフィックボード

 1TBのハードディスク

 スーパーマルチDVDドライブ

 嘘のように全てがぴったり収まる電源付きPCケース

 4:3だけどしっかり映る液晶モニター


 それらが全部二つずつ。


 ケーブルやネジの類は山ほど転がっていたので、不足することは無かった。そして、残りの要らないパーツは無料で引き取ってもらえた。


「……長門さん、何か仕組んだりした?」

「何もしていない」

「しっかり二台分揃っちゃったよ…… それにこれ、買ったとしたら相当な……」

 何にしても見つかってしまったものはしょうがない。次の日からみんなで組み立てていった。ハルヒはこういう作業をやったことが無かったみたい。それにみんなで一緒に何かをするのもあんまり経験が無いようで、ノリノリで組み上げていた。


 結城さんはほぼ一日で、部室棟全てと話をつけ、計画を文書にして取りまとめてくれた。それがどういうわけか、市役所の職員の目に留まり、観光客向けの無料Wi-Fi設置事業のテストケースにして貰えたらしい。異常に速い手続きで、業者との連携が決まり、市の決済が通り、部室棟には超特急で機材が設置され、あっという間にネット環境が整った。私たちは一円も使わずに。


「……結城さん、スパイの力で何かした?」

「何もしていないぞ」

「こんなに早く、しかも完璧に…… いったいどうして……」

 こんなにうまくいくとは想像していなかった。ハルヒと一緒に何かやれたら面白いかも、くらいに考えてやったことなのに……


 その後、PCショップから電話があり、持っていったパーツの中に、新品のまま使われていないOSのライセンスが二つ紛れ込んでいるのが見つかり、親切にも私たちに返してくれた。そして、コンピュータ研から、掃除のお礼として、キーボードとマウスをそれぞれ二つ貰った。

 私たちは無料でパソコン二台とネット環境を手に入れてしまった。


 ハルヒの機嫌はすこぶる良くなった。

 周囲の環境を自分の都合のいいようにコントロール

 これが、ハルヒの力なのかな……


 数日後、私はハルヒに連れられて学校中を歩き回っていた。

 何をしているかと言うと、部員の物色。面白い人材を集めようという事なんだけどね。まるで戦う相手を見つけようとするファイターの顔だよ。私も、なのかな?

「でも、なんで私と一緒に?」

「フェアに行かないと強敵に失礼じゃない。目を着けた生徒には、どちらに入るか選択肢を与えるのよ」

「ふ、ふーん……」

 二年生の教室に来ると、ハルヒが私の袖を引っ張った。

「ねえ! あの娘いいんじゃない?」

「うん?」

 ハルヒが指差す先には、ずいぶんと幼い顔立ちの生徒。ハルヒが言うには胸の部分が憎たらしいほどかわいい、と。いやいやいや…… それは、ちょっと。

 言葉にする暇もなく、ハルヒはその生徒に向かって私を引っ張っていった。

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