Chapter : Special Observer Strikes

傷が無いまま死ねるか!

Side B

 文芸部室の床に倒れ込んでしまいそうだった。

「お前、ついて来てたのか?」

「う、うん……」

 キョンに問われて、顔が熱くなる。きっと赤くなっちゃてるんだろうな……

「マコトにもお披露目するわ! ここが我が部室よ!」


「えーと…… 文芸部って書いてあったけど?」

「部員はあの娘だけなの。それで、私の活動に使わせてっていったら、快く承諾してくれたわ。だから、私の部なの!」


「えーと……」

 キョンが眼鏡の少女に語り掛ける。何を聞きたいのか察したようで、本を膝の上に置いて答えた。

「長門有希」

「……長門さんとやら。こいつは、文芸部を自分の好きなように作り変えてしまうらしいぞ。それでもいいのか?」

「いい」

「多分、物凄く迷惑をかけると思うぞ」

「別に」

「ことによると追い出されるかもしれないぜ」

「どうぞ」


 キョンがあきれ、ハルヒが騒ぎ、二人は時々言い争う。騒々しくもお互いにいい顔をしている。それを眺めていると椅子の少女の方から声がした。

「あなたが、佐々木真実……」

 長門さんが、じっと私を見つめている。その後の言葉は、眼鏡の奥の瞳が私の頭に語りかけたようだった。

「あなたは自分が何を成すべきか、すでに答えを出しているはず。何をためらっているのか?」

 ……!

「今ここに集った我々は、あなたが呼び込んだようなもの。あなたは再び傍観者に戻るのか?」


 お腹のあたりに何かが燃えるのを感じた。でも、これで良い。

 少しだけ考える。私を燃やすものは――

「私は、ジャックの復讐心です」

 小声で呟く。そして目に力を込めて文芸部室の皆に向かって言った。


「ねえ! 私は、私の部活を作る。だからその時きっと、勝負しよう!」


 言い終わると、返事も聞かずに、私は部屋から出ていった。

 扉を閉める時に思った。自分で飛び込めなかった。でも、引っ張られてしまった。これは、きっと開戦の狼煙…… いや、それですらない。私をあざ笑っている挑発だ。なら、私は乗る。どこまでも…… そう思いながら扉を閉めた。ガシャリという音がすると、そのまま崩れ落ちそうだった。でも、なんだか指先が熱い。

「また一つ、戻った……? それとも生まれた……? 私が創ったの……?」

 自分でも何を言っているか分からない。時々起こるんだ。ホールデンの真似でもない何か。


 閉めた扉の向こうから、何かが伝わってきた。


  私は何を……? 私は彼女の何を知っている?

  どこにそんな記録が……? 記録有り……記録者は……私?


 聞こえているのはハルヒが騒ぐ声だけだったはずなんだけど……

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