闘章
Theater : Scars Of Sweetie
何もかもがコピーのコピーのコピーのよう、だった
Side A
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところまで来なさい。以上」
自己紹介の時に、俺の後ろに座った女『涼宮ハルヒ』はこう言い放った。一体こいつは何なんだ。そして、その隣の俺の友人もどうしてしまったというんだ? 涼宮ハルヒの自己紹介が終わった途端に手を挙げて、『さっきの取り消し! もう一回やります!』と言い放ち、こう語った。
「ただの人間に興味津々です。この中にスパイ、魔術師、サイボーグ、ミュータント、ドッペルゲンガー、ネクロマンサーがいたら、私の許に来てください!」
教室はもう、静寂と混沌が入り乱れ、訳の分からぬパワーで満ち溢れたようだった。一触即発の臨界状態か? 涼宮ハルヒと佐々木真実は睨みあっていた。目から火花が出ているかのようだ。その後俺は、大火傷を覚悟でその中に一歩だけ踏み出した。
「なあ、お前ら…… 何やってるんだ? さっきから……」
「あんた、宇宙人かなんか?」
「いや…… 違うけど……」
「だったら話しかけないで。時間の無駄だから」
「あ、そ……」
やっぱり止めるべきだった。そう思った時だ。
「キョン。君は実はミュータントなんじゃない? 私に黙って何か特別な任務を負っているんだよね? 腕に強力な爪が仕込まれているんだよね!?」
「な、何を言ってるんだ? キャラが違うぞ? 三年間で一度も聞いたことが無いセリフだぞ! ……多分だけど」
「……っ」
俺が混乱していると、涼宮ハルヒから少し熱気を感じた、ような気がした。そんなわけで俺達三人は入学早々に『妙な奴ら』というレッテルを貼られてしまったようだ。ただ、俺は同情の目で見られているようだ。あの二人が強烈すぎるんだな。きっと。
「あいつはやめとけ」
涼宮と同じ中学だった谷口と話して、涼宮ハルヒの奇人変人ぶりを聞きだした。校庭に落書きをする。教室の机を全部外へ出す。学校中に何かを貼って回る。そんなことをたくさん。
「でも、あいつモテるんだよな」
そんな事まで聞き出してしまった。一緒に居た同じ中学の国木田が言うには
「佐々木さんと同じような人だね」
何を言ってるんだ、お前は? まるっきり正反対じゃないか?
「何だか興味深い話ね」
背後から高くて柔らかい声がした。振り返ると、えらい美人がいた。
「ええと、確か、朝倉さん?」
「ええ、そう」
興味深いってあの二人の話か? クラスの人気者が厄介事に首を突っ込もうとしている? そりゃ、何にでも興味を持つのはいい事だけどな。
「私も関わらせてもらうわ。いろいろとね」
??? 不敵な笑み。なんだか、こう、エ…… いや、何でもない。谷口と国木田に向き直ると、二人とも変な顔をしていた。もしかして、俺もか?
涼宮ハルヒは常軌を逸した行動を取り、周りはそれに振り回される。中学の頃からずっとそうだったらしい。そして、今俺達がその最も強い影響下にあるわけだ。だが、佐々木はまるで違ったよな。俺はこいつと一緒に居てすごく良かったって思えていたんだ。だが、涼宮ハルヒの影響により、少しおかしくなっているように思う。国木田によれば、全然変わっていないそうだが、俺の危機感は日に日に増していった。
「ミステリーサークルを作るには、あらかじめ地面に図を描いて穴を掘り、水の量を調整するべきか……」
「酸素と二酸化炭素の量の調整も必要かも……つまり、人を誘導してみるとか……」
顔をそらしながら恐ろしげな会話をする二人。何を物騒なことを言っているんだ? 俺達はもう補導だけじゃすまない歳なんだぞ?
「処分する机という事にして、ある教室に集める。そうすれば自分で動く必要はない。間違いに気づいた者が取りに戻ると裏に張り紙が……」
「指令を実行しなければ、不幸になる道への招待状に……」
それはもう完全に犯罪だからな? 俺を巻き込むなよ? というか、やるなよ。
「あらかじめ張り紙をしておき、その上を壁紙でカムフラージュ。時が経つにつれて少しずつ剥がす。だんだん増えていく……」
「! その手があったか!」
息が合ってきたな…… 俺はそろそろ退散した方が良いか?
「あんたも何かアイディア出しなさいよ」
冗談じゃない。俺は精々聞き流させてもらうよ。でも、俺を巻き込まないように、今の話を覚えておくのも良いかもな。俺の身に危険が及んだら小説で発表して、世間に危機を訴えるとか?
「「!!」」
活き活きとするな!
「そう言えばお前、髪形を曜日によって変えるのは宇宙人対策か?」
「何で分かったの?」
ハルヒの髪形について話してみた。今更な気もするが、つい言ってしまった感じだ。何だか気心が知れてきたしな。
「前に聞いた言葉を思い出したんだ。数はこの宇宙の共通言語になるだろうって」
「……ぉぉ」
「何それ? それと髪形と何の関係があるの?」
「曜日ごとに結ぶ場所を決めて、それを繰り返すなら、それはどこかに向けてのメッセージなんじゃないかって思っただけさ。気付いた誰かが話しかければよかったんだろうが、すまないな俺で」
「……ふん」
「……ぇぅ」
ハルヒは髪を一通りいじってから言った。
「もういいわ。明日からは別のにする」
「ふぅん。今日はツインテールだから水曜日だって分かったのにな」
すると、佐々木が妙な声を出した。
「ナレーターの立ち位置に!?」
何を言っているのか良く分からなかった。次の日ハルヒは髪をバッサリ切ってきた。今度は何を仕込んでいるのか、俺は見抜けなかった。
俺達三人は、妙なパワーで特殊フィールドを形成しているのか、周りの連中が近寄りがたい雰囲気を出してしまっているらしい。まあ、そりゃそうだ。俺だって近寄りたくはない。トンデモ病原体に感染して非常識な人になったら生き辛いだろう。だが、ある日俺達は引き離された。ちょっと大げさだな。席替えがあったんだ。
俺は窓際の列、前から二番目の席になった。授業中に眠ったらすぐにばれるポジションだ。そして俺の前には涼宮ハルヒ。何の因果だ? そして、佐々木はと言うと、廊下側の列の一番後ろ。
ただ、席が遠くになっただけなんだが、それ以来、俺は佐々木と距離が離れたような気になってしまった。とても遠くに感じる。変だな。そしてその分、涼宮ハルヒとの距離が縮んだ。こいつと前にもまして頻繁に話すようになっていた。
「あーもう、つまんない! どうしてこの学校にはもっとマシな部活動が無いの?」
「無いもんはしょうがないだろ」
涼宮ハルヒはあらゆる部活に仮入部していた。そして、そのどこにも面白いところが無い、と嘆いていたのだ。そんな話をしていると、俺達と対極に位置する佐々木が筆箱の中身を床にぶちまけてしまった。聞いているのか? あの位置から? 周りのみんながペンを拾ってくれている。この辺は昔と変わらないみたいだ。うん。
「ちょっと!? 聞いてるの!?」
「ああ、悪いな…… ええと、何だっけ?」
「だから、どこもかしこも普通だって話!」
「そうか……」
俺達の周りには微量な雷でも発生しているのか、誰も近寄らない。それに比べてあいつの周辺は何と穏やかなことか。まるで、妖精が舞っているかのようにみんなの顔も和らいでいる。ハルヒには悪かったが、話半分で適当に相槌を打っているだけだった。そして……
「じゃあ、普通じゃないのを作ってみればいいんじゃないか?」
そんな言葉が口から出ていた。
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