道を知ることと、歩くことは違う
Side A
6月1日(水)朝
最近、俺の周りは賑やかだ。今までと違うとすれば、佐々木か。そして佐々木を変えたハルヒか。なんだかお互いに影響し合っているようだ。いい事になればいいが…… いや、きっと大丈夫だな。
朝、教室へ向かっていると、上杉さんと遭遇した。
「なによ遭遇って。まるでザコキャラか珍獣を見つけたような表現じゃない。気に入らないわね」
そんなつもりはまるで…… あの、なんで心が読めるの?
「まあ、その、あれよ…… しまった、つい…… 疲れがたまって力の抑制が効かなくなっていたのかしら……」
「疲れって、なんです? そういえば最近朝比奈さんと一緒にいる事が多いですね。何をやっているんですか?」
「まあ、その、あれよ…… 勉強会、かな…… ちょっとした共同作戦ね」
「共同ねえ、ハルヒが知ったらメンバーを盗られると思って怒り出すんじゃないですか?」
「まあ、それもあって秘密なの。でも、その方が返って良いのかもしれないわね。不満を吹き飛ばす力が出たら、また新しいものも見えるかも」
「???」
「きっと部室に顔を出していないことで、お互いのリーダーは不満に思っているんじゃないかしら?」
「まあ、実際その通りです」
一週間ほど前から、部室にから華やかさが消えていた。SIS弾からは長門と朝比奈さんが。SAS団からは、伊達と上杉さんが、ちょくちょく休むようになっていたのだ。残された俺達は取り残された寂しさと、それを発散できないイライラで、入学直後のハルヒの状態になっていた。まあ、時々顔を出して貰えるし、その時に『心配ありません』と言ってもらえたので、このまま居なくなってしまうとは思わないのだが。
「でもきっと、もうすぐ私達、戻れるわ。今日が一つの山だから。重要案件に灯と一緒に向かう事になっているの。最近、ずっと会えなかったのだけど、どんな様子か分かるかしら?」
「伊達なら、長門と一緒に何かやってるみたいですよ。あの二人、いつの間にあんなに仲良くなったのか。でも伊達の方が何だか疲れてるみたいですね」
「疲れてる?」
「長門と部屋に籠って、FPSってジャンルのゲームをやってるみたいです」
「ふぅん?」
「この前聞いた言葉は確か…… こんな初夏の陽気に、部屋に籠って銃を撃ちまくるゲーム三昧なんて、少し前なら幸せと思ったんだろうけど、今はもうちょっと外で体を動かしたい。とか言ってましたね。長門があんまり外に出してくれないみたいです」
「……あたたかい……銃……撃つ……幸せ……!! なんて卑猥な! 許せないわ!」
パシン!と音がして、俺の頬がはたかれた。
「!? な、なにを……??」
「ふがあぁぁぁ!」
上杉さんは走って去って行った。
「な、なんだ、あれ…… 佐々木は本当に大丈夫なんだろうな……」
Side B
6月1日(水)朝
私から見えるのはハルヒの背中。机に張り付いて動かない。時々動くと窓をみて空を見ている。そんな姿をみると私もぼーっとしてきた。なにが見えるか……
キョンがハルヒの後ろに座る。声をかけた。
「憂鬱そうだな。水曜日だからか?」
「何言ってんの?」
軽くあしらうハルヒ。そう、何を言っているのか……うん? え? それは……
私は目が覚めたようだった。でも斜め前方に見える二人はそれ以来黙ってしまった。
昼休み、廊下を歩いていると、前から朝比奈さんが来た。
「あ、こんにちは。なんだか久しぶりだね」
「は、はい。こんにちは……」
朝比奈さんは下を向いてしまった。それから、顔を上げて申し訳なさそうに言った。
「あ、あの…… 私には何も分からないし、何も言えませんが、大丈夫です。佐々木さんならやれます!」
?? 何だろう?
「ごめんなさい。私行きますね」
そう言って朝比奈さんは私の横を通り過ぎた。
部室棟の近くを通った時に、また朝比奈さんを見つけてしまった。望さんと一緒にいて、何か話している。
「あ、あの、これがそうです。スイッチを入れれば、それで機能します」
「うん、ありがとう。朝比奈さん。それじゃ放課後にね」
そう言って望さんに何かを手渡す朝比奈さん。朝比奈さんは心配そうに話し続けて、望さんは大丈夫だと言っている。なんなんだろう?
気になる。気になる!
そして、あっという間に放課後。授業は何をやったか覚えていなかった。廊下が生徒で溢れる中、私は長門さんを見つけた。
「あ、長門さん。長門さんとも久しぶりだね」
「そう、久しぶり」
長門さんは大きなリュックを背負い、片手にも大きな荷物を持っている。
「何だか大変そうだね。大丈夫? 手伝おうか?」
すると長門さんは少し考えてから、
「一つ頼みがある」
「うん、いいよ。やる」
「部室棟の前、渡り廊下付近の木陰に灯がいる。灯にこれを渡して欲しい」
私は頷き、手荷物を受け取った。
「それだけで良いの? そのリュックは?」
「これは私が。そうでないと、危険。……それと、気を付けて」
あれ、そういえば……
「長門さん、眼鏡は?」
「素材が不足していたため、彼女に託した。しばらくはこれで……」
そう言いながら、長門さんは去って行った。
ハルヒと話した場所。走り出してしまったところだよね。そして見つけた。
「おお! マスター!」
灯は私に気付いて手を振った。
「長門さんから頼まれたの。これを渡してって」
「おお!? これが! ふ、ふぅむ。緊張します」
そう言うと灯は、何処からともなく木刀を取り出した。
「ちょ、ちょっと、どこからそんなものを? 木刀でも持ち歩くといろいろと……」
「大丈夫です。いつもは私の背中に装着し、周囲の空間の情報を集めてカムフラージュで覆っております。それに、これは木刀ではありますが、私が『オベリスク』と共に作り上げたマルチデバイスなのです。その名も『ブレイズ・ブレイド』
カードリーダは全種類を完備しています!
私はもうSDカードしか使いませんけど!
私との接続用に有線各種ケーブルを完備、そしてその中継機の役割も果たします!
私は無線接続とクラウドストレージで、ほとんどを済ませちゃってますけど!
当然武器としても強力です。高周波を流し、岩をも切断する。そして研究の末、微妙な力の調整まで可能にしました。ムダ毛の処理もできるほどに!
私、生えてきませんけど!」
「ふ、ふーん。それでなんで今それを?」
「えーと、これをですね、よっと!」
灯は地面に突き立てて、半分ほど地面に埋める。なんだか刀が自分で位置を調整しているみたいだ。
「そして、これか……」
私が長門さんから託された荷物。一辺が30cmほどの立方体。どんなものなんだろう。そう思って、灯が開けた中をのぞくと、マイクロSDカードのようなものが一つだけあった。
「え? それだけのために、こんなに大きいものを?」
「ま、まあ、そうなのです。これを……」
灯がブレイズ・ブレイドの柄のあたりにそれを持って行くと、何かが飛び出して、それを掴み刀に引っ張り込んだ。その後、刀が全て地面の中に入り、その上には何事も無かったかのように土や草で覆われた。
「な、なに? これ?」
「えーと、その、大丈夫です! 私が命を懸けてお守りしますから!」
そういうと灯は、私を抱きしめ、やや強い力で締め付け、背中をバシバシ叩いて去って行った。
うーん、わからない。
あれ、そういえば、灯の眼鏡、いつもと違った。変わったデザインだったな。つるの所が。
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