バカは死ぬまで治らないわっ!(嬉)
Side A
タイラーンが移動を始めた。グラウンドから外へ出ようとしているのか…… その進路上に伊達が躍り出た。
「こ、こっちですよ! い、いや、私はここだぁ!」
タイラーンが伊達を見る。伊達に向かって足を踏み出し、腕でつかもうとした。伊達はするっと避けるが、足がもつれているようだ。
「ひぃや! マ、マスター。操作してください! お願いします!」
「う、うん」
伊達は走り出した。
「これ、結構久しぶりなんだ……よし!」
佐々木が気合を入れて、目の前の景色を睨んだ。それを見たら俺にも力がみなぎってきたようだ。体が熱い。そして、俺は朝比奈さんに連れられて一輪車を指定のポイントまで押してきた。
「ここでいいんですか? さっきの場所からたいして離れてないし、何も無いじゃないですか」
「ええと…… こ、ここです」
朝比奈さんが、草むらにカードのようなものをかざした。すると草むらだった場所が変化して、大きめのスーツケースのようなものが現れ、朝比奈さんがそれを開ける。
「こ、これです。キョン君。これを灯さんのところまで運んでください。お願いします」
「解りました!」
俺は、ケースのなかにあった、四角い物体二つを一輪車に乗せ、伊達に向け走り出す。
<<聞こえる?>>
「!? 長門か?」
<<そう、急を要する事態だったため説明を省いたが、先ほどの作戦を説明する際、全員に双方向通信可能なイヤホンとマイクを仕掛けさせてもらった。操作はこちらで行う。あなたたちは、ただ会話するだけで良い>>
「そうなのか。それで?」
<<状況の説明をその都度行う。わからないことがあったら、聞いて>>
「ありがたいぜ。ほんとに」
俺達は伊達の所へ向かう。彼女もこっちへ走って来た。いつの間にか、伊達はバンダナを巻いていた。額の部分に『∞』が描かれている。
「助かりました! それがなければ始まらない!」
「おい、どうするんだ?。刀なしで……」
すると伊達は、少し困ったような顔をした。
「えーと…… そのセリフはあのタイラーンというのから言ってもらう事を予定していたのですが、まあ喋る感じじゃないですしね…… まあ、いいか。キョン殿、すみませぬ!」
伊達は、タイラーンに向かって、こう叫んだ。
「はっ! か、刀だって? こいつをくらいな!」
叫ぶと同時に、伊達の両手にサブマシンガンのようなものが出現した。ただし、現実に存在するものの三倍はありそうな大きさだった。そして肩から背中にかけて、重々しい装備が出現、その装備とサブマシンガンが何本かの線で結ばれていた。
「キ、キョン殿、早く装填してください! 場が持ちません!」
「そ、装填って!?」
「背中の装備に四角い穴が二つありますよね。そこに先ほど持ってきていただいたものを押し込んでください。お願いします」
「わ、わかった」
俺は、言われたとおりに押し込んだ。
「いよっしゃ!」
掛け声と共に、がしゃり、という音がした次の瞬間、ズドドドドッという音と共に銃弾が発射された。
「どわわっ!」「ひゃぁぁ!」
俺達は驚いて地面に伏せる。そして伊達は移動しつつタイラーンへの攻撃に移り、走って俺達から離れて行った。
「お二人とも! 次回の弾薬の捜索と装填、よろしくお願いしますっ!」
「い、いったい何が…… 長門、いいか?」
<<説明する>>
俺は、長門と上杉さんのいる方向を見た。二人は地面に座って向かい合い、何かを埋めている。
<<
上杉望の魔力を、私が生み出す特殊素材でコーティングしている。これは、包んだものを常に高速で回転させることができる。
そしてこれが一定時間経過すると、魔力弾丸へと加工可能な素材になる。
これを地面に埋め、朝比奈みくるの所属する組織が未来においてこれを掘り出し、弾丸に加工。それを過去へ送り、周囲の環境に合わせて偽装、隠ぺい。
今日この時の朝比奈みくるに、その場所を指示し、発見させる>>
「キ、キョン君、あ、あっちです!」
「わ、わかりました!」
俺は朝比奈さんと走りながら、長門の声を聞いていた。
<<
先日に張られた魔術結界は、タイラーンをその中に閉じ込め、力を最小限に弱めるとともに、上杉望の魔力を最大限に高める効果を持っている。
状況は限定されるが、今この結界内で、無限に弾薬を生成することが出来る>>
「じゃ、じゃあ、あいつの巻いているバンダナは、どんな効果が……?」
<<あれは、ただのバンダナ。灯に事前に作戦を説明したところ、彼女が市販のバンダナを購入し、そこに油性マジックで『∞』を描きこんだ。彼女が言うには、気分を出すため>>
「そ、そいつは、大事だぜ! じゃあ、古泉たちは?」
<<
この弾丸を撃ち続けるだけでもタイラーンを倒すことは可能であるが、相当な時間を要する。そして、朝倉涼子の力をわずかながら得た事で、タイラーンも自身の力を回復させることを覚えた模様。
全員の体力と魔術結界の限界を超えることも予想される。そのため、コアとなる部分を破壊する必要がある。そのためには、ある程度弱まった時に、頭部を切り裂き、そこに存在するコアを破壊する。
そして、残りの部分を暴走させずに消滅させるための魔力爆弾を埋め込む。
タイラーンは、自らの表面を、触れる者を攻撃する防壁で覆っている。
弾丸ならば問題ないが、長く接触するためには備えがいる。
灯が接触するために、多少なりとも超能力者の力が必要。
そうしなければ、彼女が危険。>>
「つ、つまり、どういう…?」
<<
魔力爆弾は弾丸素材と並行して、上杉望と共に素材を作成中。
私が先ほど古泉一樹と結城鎧に差し出した球体は、朝倉涼子の残留思念が神人と融合する一瞬に、私に残る彼女との繋がりを通じ、その情報を取り出し、閉じ込めたもの。
あれが近くにあれば、古泉一樹をはじめとする『機関』の超能力者達は、わずかながら力を使う事が出来る。
その力を灯のブレイズ・ブレイドに宿すよう頼んだ。ブレイズ・ブレイドには、このコーティング素材とほぼ同質の仕掛けを施してある。
超能力者たちは力を込めるだけで良い。
そしてそれは、タイラーンへ攻撃可能な刀となる。
古泉一樹『機関』と結城鎧の『組織』、そして一部の未来人たちの力を借りて、あの後、ブレイズ・ブレイドは世界中、あらゆる地点の過去と未来を行き来している>>
「ほ、ほぉう……」
「キョン君、あ、あそこです!」
「わ、わかりました」
俺達は走り続けた。
Side B
「あ、灯、私はうまく動かせてる!?」
「大丈夫です! マスター! お気になさらず、自分の好きなように動かしてくださいっ!」
「う、うん」
「あ、た、弾切れです! リロードを!」
「リロードって、どうやるの!?」
「と、とりあえず、そういう風に思ってください! 声に出すとか!」
「え、えっと、リロード!!」
その時、弾薬を見つけたキョンと朝比奈さんが、灯のもとに駆け寄ってきた。
「持ってきた! よし、入れるぞ!」
「オーケーです! 私のリローデッドはレボリューションずだだっどっだっ!」
「無理に喋るなって。入ったぞ!」
「かたじけない!」
がしゃり、という音と共に、再び弾丸が発射され、灯は移動しながら攻撃する。
「よしっ! 朝比奈さん! 次のポイントはっ!?」
「は、はいっ! 来てます! あ、あっちです!」
「行きましょう!」
二人は一輪車を押しながら走っていった。
「……? 何か変……」
私が呟くと、通信でキョンが答えた。
<<どうした? 佐々木……>>
「さっきの動きと何かが違う…… 灯、ちょっとあいつから離れて!」
「了解です!」
灯はタイラーンから距離を取った。そして、タイラーンは少しだけ体を縮める。次の瞬間、体から直径1mほどの球体が大量に出現した。
Side A
「な、なんだ!?」
<<私たちの動きを見て、こちらの戦略をおぼろげながら見抜いた模様。灯への攻撃は自身で行うものの、周辺への無差別攻撃と防御を兼ねた機雷を作成、展開させた>>
「ど、どうなるんだ!?」
<<タイラーンの近くで動くものは、機雷に追尾され爆破される>>
「冷静に言うなっ!!」
<<私が機雷の妨害に移ることもできるが、そうなると、弾丸素材の生成作業が止まる。灯の射撃が止まれば、あなたたちの危険が増す>>
「どうすればいい!?」
<<私が全部撃ち落とす!>>
「佐々木?」
<<キョンと朝比奈さんは、弾薬を運んで! 攻撃は全部、私と灯で防ぐから!>>
「わかった! 任せる!」
<<灯! いける!?>>
「できますともっ! このために散々撃ちまくってきましたものっ!」
伊達は、機雷に向けて射撃を開始。爆発音が連続で響く。
「ひぃやぁーーー!」
「くぅっ!」
俺達は叫びながら走っていく。
<<タイラーンの動きは私が見る! 灯は機雷を撃ち続けて! あいつの隙を見たら私が――>>
「思って下さるだけで結構! すぐにターゲットを変更しますっ!」
<<オッケー…… それで、大丈夫、絶対>>
伊達は次々と機雷を撃ち落としていき、タイラーンの攻撃もかわす。相手の攻撃を誘っては逃げる。
朝比奈さんが走りながら、俺に話しかけた。
「キョン君。どうにかなってますね!」
「ええ、あいつなら出来ると思ってましたよ!」
「やっぱり、佐々木さんってすごい……」
「いや! あいつ、ゲームは下手でした! 俺の方が上手いくらいでしたね!」
「ええぇ!」
「ゲームは好きな方でしたよ! でも、ボス戦とかになると、キャラクターの造形のあっちこっちが気になって戦闘どころじゃないみたいでしたね! そこに角が生えているのはなぜなのか、とか、そんなことばっかり考えてましたよ!」
「ひぃえぇぇ!」
Side B
私は、タイラーンを見ながら話す。
「何かが動くときには必ず前兆がある。腕を動かすなら足が動いて体が傾く。どこかに力を込めれば、どこかの力が抜ける。タイラーンもその機雷も、人間の常識は通用しないけど、生み出すまでに人の意識が関わったのなら、必ずどこかに人間らしさが現れるはず」
「さ、さすがです、マスター!」
灯は、機雷を引き付ける為に動き続け、キョンと朝比奈さんに向かう機雷を撃ち落とす。そして再び動き、攻撃を続けた。
Battle on the Room overlooking huge somethings.―――――
聞こえる気がする…。
キョン:あいつに、ダメージを与えられてるのか!?
長門://機雷を出現させた分、タイラーン本体のエネルギーはおよそ半分に減少。機雷を破壊し続ければさらに減らすことが出来る//
伊達:身を守るために身を削るわけですか…… なら、撃ちまくるしかないですねぇ!
私の心は何処に…。 私の心は何処に…。 私の心は何処に…。
ドガガガガ!
朝比奈:ひぃや! た、助かりました!
キョン:ゲームだけでここまでの射撃を身に着けるって…… 見事なもんだぜ、まったく!
伊達:ふほぉはぁ! 天才シューターと呼んでくださって結構!
長門://天才シューター//
伊達:!? 本当に言われると照れます!
でも、きっと、私はハルヒの考えを知ってる。思い描ける。そして自分のモノにできる。
朝比奈:キョン君! 指示が来ました! たくさんありますっ!
キョン:やってやる! 頑張れよ! 忙しくなるぞ! お互いな!
伊達:楽しすぎて、狂っちまいそうですぜっ!
世界が私の望みを叶えるというなら、今、私が観ているものはすべて幻覚で、すべては私のマッチポンプであるのかも……
ドオォン!
キョン:うぉっ! 今のはヒヤッとしたぜ!
長門://灯に疲労が溜まっている。本来は一時間程度の休憩を推奨するが、状況が状況。瞼の裏から緊張をほぐす物質を投与する。灯、時々長めに目を閉じて//
伊達:助かります!
長門://意識的に瞬きをして、眼球を動かすとさらに効果が高まる//
ドガン! ドガガ! ドドド!
伊達:私は、ここしばらく、大変な日々でしてね! 程よく理性が飛んでいる! 運が悪かったんですよ、あなたはぁ!
……責任はとらないと……
長門://古泉一樹の仲間が運転する車が接近中。間もなくブレイズ・ブレイドが到着する。//
キョン:朝比奈さん! もうしばらく、頑張ってください!
朝比奈:はいぃぃ!
長門://今この時においてタイラーンは、異種ではあるが同質の部分を持つ三つが、一つになった唯一無二の存在。しかし、分かたれた要素が他にもあるなら、ここに集った我々に倒せないはずはない。//
伊達:唯一無二の我がマスターが居なければ、世界は誰が救うのかぁ!? 観測者とプレイヤーは一体となり、命に代えても役目を果たす! 即ち、私が終わらせるのですっ!!
ハルヒの攻撃衝動を『銃』と仮定する…… 『銃』は彼女の手にない。私が持ってる……
古泉:お待たせしました。お望みのものです。
長門:了解。では、上杉望、魔力爆弾素材に最後の魔力を。
上杉:ふぅぅ。さ、さすがに疲労が…… はあぁ……
長門:刀と魔力爆弾は揃った。準備万端。それでは、これを……
上杉:少し大きめにしないと、収まらないわね……
伊達:どりゃあぁぁ! おお!? よろめいた! 終わりが近い!?
朝比奈:キョン君、次、あそこです! あれで最後みたいです!
キョン:ぬおぉ!
伊達:神か悪魔かわからないぃ! 超絶射撃を身に付けたぁ!
自分には向けない。でも、アレはきっと私たちの生み出した何か。だから、アレに向けて放つ。ごめんね、ハルヒ。
伊達:この体になった時、自分も世界も変わると思った。でも変わらなかった。何かを呪ってしまった。でも、今わかりました! この体は、お前をぶちのめすためにあるってことだあぁ!
朝比奈:ここのはずです…。あった!
キョン:形が違うな…… おっ!?
伊達:これで、終わりだあぁぁ!
カチッ
伊達:って、弾丸も終わったあぁぁ! ちょっと待ってぇ!
キョン:おい、持ってきたぞ! これで良いんだろ!
伊達:おお! それは、魔力爆弾! そ、そうか、ようやく…… ふぅ、やっと外せる。重かったぁ。
ハルヒ…… 私は目を開けてる。
キョン:ほら、これもだ! やっちまえ!
伊達:ちょ、ちょっと待って! もう一つ用意して来たんですって! バンダナも外してっと……
伊達灯は、刀を鞘から抜くように動く。ただし鞘は無い。
伊達:私にInnocenceのInfinityはもう無い。あるのは、Imagineの先にあるUnlimitedだ。ならば――
タイラーンの額に向けて跳躍する。
伊達:その、ふざけた幻想で、遊んでも良いよね!
タイラーンの頭に乗り、刀を構える。
伊達:斬って!
頭を切り裂く。
伊達:奪って!
コアを取り出し、砕く。
伊達:与える!
魔力爆弾を埋め込み、再び跳ぶ。
そしてタイラーンが強力な光を放つ。
―――――Explosion.
「や、やったの……?」
<<タイラーンの消滅を確認。ミッション・コンプリート>>
私をはじめ、全員が脱力し、その場に座り込んだ。
「これで良かったんだよね…。でも、彼女とも正面から当たらないと…」
なんでだろう…… 私はただコントローラで操作していただけなのに、すごく疲れた。でも、すごく気持ちいい。こんな感覚、いつ以来だろう……
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