森章

投げられるまで、ボールの軌道は解らない

Side A

 文芸部の扉が勢いよく開かれた。

「勝負しよう!」

 扉の向こうにいた佐々木が叫んでいた。

「とうとう、その時が来たか……」

 俺は溜息交じりに呟いた。

「いいわよ! 何でも受けて立つわ!」

 ハルヒは仁王立ちで答える。すると佐々木は、

「体力勝負で!」

「……なんだって?」

 佐々木の回答に、俺は耳を疑った。

「バッティング対決。負けた方は買った方にドリンク奢るってことで、どう?」

「乗った!」

ハルヒがノリノリで答えるが、俺は遮って言う。

「ちょっと待て! お前、それは……」

「じゃ、ちょっとキョンを借りていくね。彼から伝えてもらうと、いろいろうまくいきそうなんだ。キョン?」

「あ、ああ……」


 俺と佐々木は隣のSF研に入り、佐々木が語る。

「みんな、向こうは快諾――」

「待てって!」

 俺は佐々木を押しとどめた。

「……うん」

「体育の授業の時のお前を時々見てるけどな、まだ辛いんだろ? いろいろと」

「でも、格段に良くなったよ。もう大丈夫。君がいなくてもさ……」

「……でもな」

「この話はやめよう。勝負の取り決めについて話しておきたいんだ」

「……わかった」

「うん。私は、人間ベースの勝負にしたいんだ。こっちは、スパイ的、魔術的、サイボーグ的な力を封じて純粋に体力と技能を競いたい」

「どう考えてもサイボーグが人間と同等とは思えないぞ」

「だから、灯には長門さんと当たってもらうことにする。お互いに力を干渉し合えば、きっと打ち消し合ってくれると思う」

「お前にしては、ずいぶんと行き当たりばったりな考えだな」

「大丈夫です! 私と長門さんは、もはや一心同体ですから!」

「……そうか」

 伊達の答えに俺は脱力した。何とかなりそうな気がしていた。これまでが、どうにかなってきたからな。

「わかった。こっちも、宇宙的、未来的、超能力的な力は極力使わないようにする。それでいいか?」

「OK。ありがとう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る