Ⅹ 再出発
Ⅹ-1
桜が盛りを少し過ぎて、緩やかな春風にはらはらと花びらを舞い散らせた日。幸也は中学生になった。
一面に散り敷かれた薄紅色の絨毯の上を初々しい新入生たちが歩いていく。
新しく始まる人間関係に幸也は少し緊張していた。同じ小学校からあがるのはたったの二十人ほどで、一学年三百人を超える中学校では少数派だ。
何度も通っている慣れたはずの校門も、着慣れない制服で入るとなんだか違う感じがする。そこかしこには幸也と同じ真新しい制服をきた新入生たちが群れている。
さーっと吹いた風に桜吹雪が舞い散ったその先に、見慣れた顔を見つけた。向こうも幸也に気づき駆け寄ってくる。
「おはよう。幸也! 同じクラスになれるかな!?」
珍しく朝からテンションが高いのは太一も緊張しているのだろうか。
「おはよう。太一」
顔を綻ばせて返事をする。
「三年間、よろしく」
「おう。部活、今日から行くだろ?」
「うん」
二階の教室の窓から真由美と朱里がそんな二人の様子を見ていた。
「来た来た。制服、似合ってるじゃん」
「二人とも仲良くなったよね」
朱里が校門近くにいる一年生をぐるりと眺めまわした。
「さて、この中から何人新入部員入るかな」
「楽しみだね」
同じように新入生を観察していた真由美は、校門の先の信号の所に立っている初老の男に目を止めた。
誰かの保護者なんだろうけど、少し違和感。
まだ保護者の来る時間ではない。早く来すぎたにしても学校へ近づいてくる様子もない。信号が変わってもそこに立ち続けている。
真由美は目を凝らして男の顔を見た。少し遠いが顔立ちはわかる距離だ。
新入生たちを見つめている優しい笑顔に見覚えがあるようなないような?
真由美は立ち上がって窓から少し身を乗り出し、男が誰なのか判別しようとした。
「何してんの。危ないよ」
隣で朱里が言ったとき、男がこっちを見た。
真由美に気づくとその男は片手をあげて軽く振った。真由美は思わず振り返して……。
で、誰?
「知り合い?」
朱里が訊いてくる。
真由美は椅子に座りなおし、朱里の顔を見た。
「誰だろう?」
「はぁ? あんた、今手振ってたじゃない」
呆れたように言うあかりに返す言葉もなく、首を傾げる。
見覚えがある……知っている人のはず。向こうも手を振ってきた。でも誰だか思い当たらない。
結局思い出すことのできなかった真由美は、もやもやした気分のまま入学式の一日をすごした。
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