Ⅹ-3

 ゴールデンウイークも終わり、佳代のお腹がかなり大きくなってきた。


 買い物や家事も大変そうなので、幸也はできるだけ手伝いをするようになった。入院中や退院後のことを考えて、家事全般も一通り教えてもらい、自分のことは自分でして佳代に負担をかけないようにした。


 ところが、もうすぐ臨月という頃に切迫早産で二週間ほど入院することになってしまった。

 

 知らせを受けて幸也は慌てて病院へとんでいったが、佳代は拍子抜けするほど元気だった。


「二人分だからね。ちょっと負担が大きいんだって。でも、安静にしていたら大丈夫だから」

「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫よ。動きまわったら駄目なだけで、病気じゃないんだから」


 幸也にはよくわからないが、そうらしい。顔色も悪くないし、本当に元気そうなので安心した。


「淋しかったら、真由美ちゃんの所に行っててもいいわよ。さっき、八重子さんが来たから言っておいたわ」

「心配しなくても大丈夫だよ。それより、持ってくるものとかないの?」


 ベッドの側に椅子を持ってきてメモを取る幸也の成長を佳代は頼もしく思った。


 つい半年前まで、佳代の眼からみても”お人形さん”のようだった幸也。

 ほとんど会話していなかったとはいえ、佳代が町中で幸也を見かけたこともあるし、幸也には内緒にしていたが何度か見つからないように参観に行ったこともあったのだ。どこにいても覇気がなく一人違う世界にいるようだった。


 それがこの半年間でなんと成長したことか……!


 彼の成長を止めてしまっていた、自分のしてきたことは胸に刻んで忘れない。だけど、それを悔い続けて前に進めないのでは意味がない。佳代はこれからの幸也の成長を、しっかりと支えていける自分になろうと改めて思った。


 窓外の新緑を揺らし五月の風が吹き抜けていく。

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