episode5―13
“…何やってるんだよ、レヴァンっ…”
ロウの視線とその先のレヴァンを見比べ
慌てるズィマ。
口から出そうになる言葉をなんとか飲み
込み、改めてレヴァンに目をやるが
どう見ても、これ見よがしに血を飲んで
いるようにしか見えず、こうなると
誤魔化しようが無い。
腕を小さく振ってレヴァンの行動を諌め
ようとはするのだが、彼は素知らぬ振りで
ひたすらズィマの血を舐め掬うばかり。
「この蝙蝠は、もしかしてさっき助けて
くれた白い蝙蝠? でもなんかこれ、血を
啜ってません…?」
「あー…えっと…俺の、ペットです。
血吸い蝙蝠なんですけど、俺以外の血は
吸わないように躾してあるので…」
ここまではっきり言われると誤魔化すのも
却って不自然である。
それならいっそ、自分の側にいる存在と
して認識していてもらう方が、レヴァンが
テントの中に居ても野生の蝙蝠のように
下手に追い出されないで済むだろう。
ペット扱いした瞬間にレヴァンの足爪が
腕に鋭く食い込んだ気もするが気のせい
だと思うことにする。
そもそも一体誰のせいだと…
「それにしても今まで色んな所に行って
様々な動物見てきましたけど、こんなに
大きくて真っ白な蝙蝠なんて、生まれて
初めて見ましたよ…いや、綺麗ですねぇ。
雄ですかね? 名前はなんと?」
「えっと…あー…レヴァンで…男性です」
まじまじとロウはレヴァンを見ながら
褒めるのだが、当のレヴァンは愛想の一つ
も無く、完全に無視を決め込んでいるよう
だった。
「この子も何か芸を持っているなら
是非ともサーカスの団員としてスカウト
したいですね!」
“何言ってんだ、コイツ”
ニコニコするロウとは対称的に不機嫌な
雰囲気を醸し出すレヴァン。
「うーん、機嫌が悪いようですね。
ズィマさんを盗られると思って嫉妬して
しまったのかな?」
「あーそうなんですかね…ははは…」
苦笑いするしかないズィマ。
「…団員にはズィマさんにペットが居る
事を一応伝えてはおきますが、公演中や
舞台での練習中は危険ですので舞台のある
テントには放さないであげてくださいね」
「あぁ、それはわかってます。
すいません、気を使って頂いて」
いえいえと言いながらロウは立ち上がり、
笑顔を返す。
「明日の作業内容伝えるだけだったのに
すっかり長居してしまいましたね。
また朝の移動の時には行きますので、
手伝いよろしくお願いします」
一礼をしてテントの外へ出るロウ。
ズィマはそれを出入口で見送り、後ろ手で
入り口を閉め…大きなため息をついた。
ふと、寝床を見ればいかにも満腹ですと
いった様子で寛いでいるようにも見える
レヴァンの姿…
そんな気の抜けた姿にズィマはガックリと
脱力し、項垂れる。
「レヴァン…なんで姿見せて血なんか
啜ってたのさ? なんとかなったから
良かったけどさ」
「ズィマこそ、人間に血を飲まれて
何やってるんですか」
ズィマが半ば恨み言のようにレヴァンに
言えば、彼はゆっくりと人型になりながら
体を起こし、憮然とした表情でズィマを
見据えて反論する。
「なんだよ、なんで怒ってるの?」
「ズィマ、貴方の肉体は血、肉、骨、体液
に至るまで全てが強力な魔術の素材になる
というのは自覚してますよね?」
レヴァンの問いかけに小さく頷くズィマ。
そのせいで人間に狩られ種族が滅ぼされた
のだから知らない筈がない。
「そんな物をただの人間がそのまま体内に
摂取したらどうなるか…
今回は量が少なかったのか、幸いにも何も
起こりませんでしたけど、下手すれば体に
異変を起こして暴走していてもおかしく
なかったんですよ」
ズィマはレヴァンの話を聞き、ゴクリと
喉を鳴らす。
たかが数滴程の血ごときでそんな大事に
なる可能性があるとは念頭になかった。
改めて、人間と人成らざる者との垣根を
身に染みて思い知らされる。
「僕がズィマの血を補給していたのは、
魔力を蓄え万が一に備えていただけです。
…今は過剰摂取で胸焼けしてますがね。
まぁ、大量に魔力を使う作りたい物も
ありましたし、丁度良かったのかも
しれません」
「作りたい物?」
ズィマがレヴァンに尋ねれば、彼は唇を
引き締めズィマへと向き直った。
「大勢の人間の記憶を早く風化させる薬と
記憶を操作する薬ですよ」
「記憶を…」
レヴァンは寝床から立ち上がり、ズィマの
目の前まで歩み寄る。
「ズィマの存在を人間の記憶にいつまでも
残しておくわけにはいきませんから。
特にあの団長の記憶は念入りに消すつもり
ですからそのつもりで」
ズィマが犯した迂闊な行動を責めるかの
ように厳しい目が彼を射抜く。
人間に追われる人成らざる者が人間の世界
に紛れて生活をしているのだから、本来
ならば関わりを深く持つべきではない。
…そんなことはズィマにもわかっている。
だが、それでも――
「…ねぇ…レヴァン」
おずおずとレヴァンに向かい、口を開き
かけたが彼は自分の人差し指をズィマの
唇に当てて言葉を遮った。
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