episode5―6
「……はっ……?」
レヴァンは戻ってきた蝙蝠達から報告を
受け、口をポカンと開けたまま呆然と
立ち竦んだ。
「……サーカス……ですって…?」
レヴァンの忠実な眷族である蝙蝠達は
いわば自分の分身とも言うべき存在なので
報告を違える訳がないのだが、それでも
再度確認せずにはいられなかった。
「一体何を考えているんですか…ズィマ」
魔術の原料として人間に一族を全て
狩られた人成らざる者。
平穏な生活を望むと言うのなら、本当は
目立つような行動はできるだけ避けた方が
良いというのは、ズィマも永年の経験から
嫌というほどわかっているはず。
なのに、おやつごときで家を飛び出し
行き着く先がこの街で一番人々の視線を
集めるような場所とは、呆れて言葉が
継げない。
ズィマの事だから空腹のあまり、飯にでも
釣られたのだろう。
そして恐らく喧嘩をした手前、帰り辛い
からと身を寄せたに違いない。
彼の心の動きや行動が手に取るように
わかるのだが、それにしてもよりによって
サーカスだなんて随分とんでもない所を
選んでくれたものだ。
人混みの中をただ歩くというのとは違い、
人が寄る場所にいつも居るという事は
それだけ顔や名前を覚えられやすくなる
ということ。
何の拍子に正体がばれるかわからないと
いうのに何を考えて…いや、恐らく渡りに
舟とばかりに、何も考えずに決めたの
だろう。
きっと、レヴァンに指摘され初めて気付き
青ざめるに違いない。
レヴァンは頭を抱えて壁に凭れ掛かる。
キィ…キキィ…
「人目につかない裏方だから大丈夫とか
表だから駄目だとか、そういう問題では
ないんですよ」
気を使った蝙蝠達のフォローも今の彼には
通じはしない。
レヴァンは大きくため息をついた。
ズィマと出会ってからため息をつく回数が
増えたな…等とぼんやり思いながら目を
瞑る。
キキキィ…キキィ
一匹の蝙蝠が発した声に答えるように
レヴァンは視線をやり、しばらく考えて
いたが、首を振って拒否をした。
「いいえ、見張りはいりません。
僕が直接ズィマの元へと出向きますので
案内してください」
そう言うと、ドアの近くに掛けてあった
真っ白なマントを羽織った。
自分の姿が映る窓を遠い目で見つめる
レヴァン。
よく、ズィマが今まで何事もなく生き
残れてきたものだとつくづく思う。
人間に一族を滅ぼされて尚、人間の良心を
無垢に信じられる所はズィマの良い所だ。
それだけ素直に信じられる心の強さは
レヴァンにとって、羨ましくもあった。
だが、それは時に自らの身を危険に晒す
両刃の剣…
レヴァンはズィマを守る為、彼を諌めつつ
その危うい剣を納める鞘にならなければ
ならない。
例えその結果、疎まれても…
「……ズィマ……」
レヴァンは何かを決意したかのように
唇を引き締める。
そしてマントを翻し、窓の外へと身を
乗り出した。
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