episode4―6



「えぇ、攻撃魔術も一通りは勉強しました

けれど、城に籠っていた頃には使う機会が

全く無かったので色々と慣れていなくて…

でも一応使えない訳じゃありませんから」


そこまでレヴァンが言うのなら何か意図や

勝算があるのかもしれない。


とりあえず時間を掛けずに倒す方法が他に

無さそうなので、ズィマはレヴァンに従い

再び植物に向かい、伸びる触手や根が

レヴァンに及ばないようわざと大きな動き

をしながら鉤爪を奮っていく。


レヴァンはその隙に植物の四隅へと回り、

鎖の魔術を幾重にも掛けて先程よりも

頑丈に絡め…


そして一気に下から持ち上げた。


地鳴りを思わせるような振動。


大きな作物が土から抜けるかのように

ボコッと音を立てて地面に穴を空け、

植物はわさわさともがくように蠢き暴れ

ながらも、なす統べなく空中へと浮かび

上がる。


土の中に埋まっていた部分は地上で見えて

いた量の倍ほど有り、その隙間からちらり

と比較的新しそうな骨や布切れが見え隠れ

していた。


「とんでもねぇ大物だったな…」


一通りの役目を終えたズィマがレヴァンの

横へ戻ってきながら呆気に取られたように

見上げて呟いた。


「相手が毎回このように動かない物なら

攻撃魔術も掛けやすいんですけどねぇ」


レヴァンは慣れない術を掛けるのに少し

ばかり緊張しているのか、掌を合わせて

擦りながら呼吸を整えていく。


「レヴァン…大丈夫?」


「初めて使う術で威力が分からないので

一応、失敗した時に応戦する準備だけは

しておいてくださいね」


「…お、…おぅ…」


いつもと違う様子に何気に声をかければ、

冗談か本気か分からない顔で不安を増す

ような事を言われて戸惑うズィマ。


レヴァンはそんなズィマを気にも止めず

胸の前に両手をかざして呪文の詠唱を

し始めた。



『………… … ……… …… …………』



高く、低く、波のような言葉の響き。


言葉の一つ一つには意味の無いようにも

思えるが恐らく合わさる事で大きな力を

持つのだろう。


ズィマが二人で旅をしている間で、一度も

聞いたこともない長めの詠唱。


ズィマが息を飲んで見守る中、やがて

レヴァンの周辺を赤い魔方陣が取り囲んで

いき、渦を描いていく。


それは徐々にレヴァンの両手の前に丸く

集まり…解放した。


小さな珠は赤い蜥蜴を思わせる形状へと

姿を変え、襲い掛かるかのように一気に

植物を飲み込んでいく。



そして、上がる―――巨大な火柱…




…ズィマは思わず口を閉じるのも忘れて

天に駆け上がる大きな火柱を見つめた。


まるで太陽のような色のその焔は、明かり

の無い暗闇をまるで昼間のように煌々と

辺りを照らし出している。


きっとこの火柱は麓の街まで実に明るく

照らしていることだろう。


そして、人々が大挙して原因を探りに

山に登って来るのも時間の問題である…


「……レヴァン…?」


呆れとも怒りともつかない無感情な声色で

ズィマは彼の名前を呼ぶが、次に続ける

言葉が出てこない。


「…並レベルの…簡単な火魔術のつもりで

呪文唱えたんですけど…

なんか…違ったっぽいですね…」


予想外の火力にレヴァン自身も茫然と

していた。


焔が消え、暗闇が再び訪れる。


肉食植物は一片の跡形も無く消し炭と

成り果て、塵となって風に溶けていく。


焔に晒された地面は相当な高温だったの

だろう…所々硬質化し、黒く艶のある

滑らかな陶器のような物質となっていた。


二人が望む『早く片付ける』という目的は

レヴァンの魔術により達成した。

…だが、ズィマの視線は変わらずジト目

でレヴァンを見つめている。


「…説教は家で聞きますよ。

とりあえず今は一刻も早く麓に戻って…

…っ?!」


「……っ?!」


突然、パンパンと大きく手を叩き拍手する

音と共に後方に現れた気配。


二人は体を翻し、咄嗟に身構える。


「いやぁ―…すげぇわ、お前ら」


そこに現れたのは、魔術の光を閉じ込めた

カンテラを腰に着け、大きな大剣を

背負った一人の男。

傭兵のような出で立ちで、笑顔を浮かべて

こちらへと歩いてくる。


「よぅ、そんなに警戒すんなって。

ほら討伐隊で一緒にここへ来ただろう?

半月でわすれちまったかぁ?」


男はズィマへ自分の顔を示し、記憶を

促せば、ズィマはようやく思い出した

かのように、構えていた鉤爪を下ろした。


「ズィマ、知り合いですか?」


「半月前にここへ来た討伐隊で、俺達の

グループリーダーだった人だ」


ふぅん、とレヴァンも構えを下ろせば

男は二人の側まで近付いてきた。


「お前らもここに来たってことは、印を

付けられてたのか?」


印というのは贄の印のことだろう。

…ということは、やはりここで付けられた

ものだったのだろうか?

ズィマは肯定をすると、男はやっぱりなと

ウンウン頷いた。


「あの時討伐隊に向かった連中で

おかしな痣がでてきたと言ってた奴等が

揃って何人も行方不明になっているんで、

何かここにあるんじゃないかと思ってな」


そしたら先客がでっかい火柱上げてるから

度肝抜かれたぜ…等とにこやかにズィマに

話し掛ける男。

ズィマも知り合いということもあり、

特に警戒すること無く話を合わせ、軽い

応対を交わしている。


「また良かったら手に負えなそうな奴の

討伐なんかがあれば誘うから、一緒に

組ませてくれよ、そこの魔術師さんもな!

…俺はジャックだ、よろしくな?」


差し出された手に気付かぬ振りをして

レヴァンは曖昧に返事をした。


「そろそろ誰かが山を登ってくると騒ぎが

大きくなって説明が面倒になりますから、

僕たちは先に失礼しますね」


そう言うと、レヴァンはジャックへの

挨拶もそこそこに、ズィマの手首を引いて

行きに通った道へと向かう。


「………また、な?」


その二人の後ろ姿をジャックは口元に

笑顔を湛えながら手を振って見送って

いた…



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