episode4―5



「こんなところにこんなものが生えてた

かなぁ…?」


まるで覚えが無いといった様子で首を

傾げながらズィマが唸った。


先程レヴァンが放った淡い光は廃墟から

しばらく真っ直ぐ歩いてきた所へと

辿り着き、渦を描いて一つの植物を囲んで

いる。


それは、草花といった小さいものではなく

大きな木…しかもまるで木を逆に枝葉の方

から無理に地面に差し込んだかのように

木の根が上に向かって伸びている様相。


このような珍しい形の木が生えていたの

ならば、ズィマも最初に来た時に覚えて

いてもおかしくはないはずなのだが。


「…とりあえず、どうする? これ…」


「いつものように闇雲に突っ込まないで

くださいよ? 今回、ズィマには僕の補助が

効かないんですから」


鉤爪を構えて今にも飛び出しそうな彼の

首根っこを捕まえて引き寄せる。

行動を遮られいかにも不満そうなズィマ

だったが、そんな姿を気にもせずレヴァン

は木から視線を外さない。


沈黙がしばらく続く。


周囲に人の気配も無いので一気に魔術を

叩き込んで片をつけてしまう事も思わない

でもないが、下手に分裂されたり胞子

なんかを出されたりしては面倒である。


とはいうものの、このままいつまでも…


「とりあえず、遠くから石でもぶつけて

みようぜ…っと!」


「あ゛っ」


沈黙を破ったのはズィマ。


レヴァンの止める間もなくズィマは地面に

落ちていた握り拳大の石を思いきり振り

かぶって投げつける。


石は鋭く回転しながら正確に木のど真ん中

を貫いた…―瞬間、木はメリメリバリバリ

と悲鳴か奇声のような音を出しながら体を

成長させ空に生えた鋭い根っこをズィマ達

の方へと向ける。


「あ、あれっ…?」


「………まったく」


相手をすっかり攻撃的な体勢にして

しまったことに顔を引きつらせて戸惑う

ズィマ、その横で呆れた様子で額を支え

深く深くため息をつくレヴァン…


「まぁ、反応するってことは物理攻撃が

効くってことだろ?」


「…突っ込むのは魔術も効くかを僕が

試してからにしてくださいよ」


レヴァンはそう言いながら、先程ズィマが

石を投げつけたその跡を中心に据え、指で

空中に何かを描くような仕草をする。

すると、何もなかった彼の正面へ青白い

紋章が音もなく浮かび上がる。


描かれた紋章へ手を当てながら彼が素早く

言葉紡げば、その紋章は鎖へと姿を変え

木の根っこへと向かい走り、絡みついた。


まるで意思を持っているかのように根っこ

を振ってもがき、その鎖から逃れようと

するが逃れられない様子。


やがて鎖に絡め取られた根っこは動きを

極端に鈍くしていった…


「…どうやら魔術も効くようですね」


心なしかホッとするレヴァンの横で

ズィマは体を慣らすように前後左右に

動かし、締めにパンっと手を叩く。


「んじゃぁちょっくら体を暖めてくるわ」


暴れたくてウズウズしていたようで、

口角をあげてニヤリと笑みを浮かべる。


「ズィマ、油断はしないでくださいよ?」


わかってるとばかりに片手をヒラヒラさせ

ズィマは地面を蹴った。


一閃。


体をバネのように伸縮させ、地面を何度も

蹴りながらスピードを上げていき、一気に

距離を縮めて鉤爪で木の根を切り裂く。


ズィマの鉤爪を奮う速さが勝り、切り裂く

音が動きの後に響いてくる不思議な感覚。


太い根がなすがままにミシミシ音を立てて

地面へと次々落ちていく。


相手の懐に潜り込み、鞭のようにしなる

木の根を体を回し捻り上手く避けながら、

その体勢からの力を利用して着実に相手を

削ぎ落としていく様はまるで洗練された

踊りを見ているようで美しい。


襲い掛かってきた木の根の大半はあっと

いう間にズィマの足下に力無く散乱し、

植物の姿はどんどん貧相になり、もう戦い

も終わりが見えてきた…そんな矢先。


ザワッ…


木の根が大きく軋む音を出した。


「ズィマ!」


レヴァンの叫びに反射的にズィマは

植物から離れてレヴァンの方へと踵を

返し戻る。


すると今までズィマが戦っていた地面が

ガパリと大きく口を開き、先程戦ってきた

木の根よりもはるかに多い触手が無数に

生えてズィマの居た場所を包み込んで

いった。


「ひゃー、おっかねぇなぁ」


蠢く触手。


不気味な音を出しながら軋む様相は

さながら地獄絵図。


つい今しがたまで居た所が危険な場所で

あったという事にも関わらず、ズィマは

大層呑気な声を上げた。


「なるほど、獲物を弱らせて一気に丸飲み

する捕食方法ですか…」


これなら確かに骨などのカスは辺りに

残りませんねと、これまたレヴァンも

淡々と分析していく。


「でも、どうするレヴァン?

もし、土の中にたっぷり養分を溜め込んで

いたんじゃ、養分切れるまで持久戦やって

たら日が昇っちまうぜ」


ふぅむ…とレヴァンは顎に手を添えて

考え込む。


ズィマの言う通り、人目を避けてこの

時間にわざわざ来たのに、日が昇るまで

戦っていたのでは意味がない。


「…燃やします?」


しばらく考えた後、レヴァンはあっさり

いい放つ。

そんな彼の提案にズィマは訝しげに

見返した。


「…生木は燃えにくいって知ってるよな。

それに上だけ燃やしても根っこが残って

いたらまた生えてくるぜ?」


「えぇ、ですから根ごと引っ張り上げて

攻撃魔術で一気に燃やせば」


いとも簡単に言ってのけるが、相当な

大きさの植物…持ち上げるのだけでも

大変な技量のいる魔術になるはずである。


それに…


「レヴァン…攻撃魔術苦手だって言って

なかったっけ…?」




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