episode4―4



………ザクザク…


街が寝静まった頃、二人は山道を歩いて

登っていく。


山の上だとはいえ、もし人目がある時間帯

に戦って、万が一下手に見られたり巻き

込んだりでもしたら噂が立ってマズイこと

になりかねない。


例え良い評価だったとしても人の口に登る

事はその分人の目に晒されるということ。


正体がバレる可能性も高くなってしまう…

用心をしておくに越したことはない。


幸い、レヴァンもズィマも夜目は利くので

戦う上ではさほど問題はないだろうという

判断からこの時間に行動しようという話に

なったのだが…


「夜の山って寒さが肌に刺さるような

感じがして、好きじゃないんだよなぁ…」


ズィマは腕を擦り、先程からぶつぶつ

言いながら歩を進めている。


真冬では無いとはいえ、風は冷たく強い

一応防寒着っぽい物は羽織っているものの

夜の山の冷えは思った以上に堪える。


「夜行性で山を駆け巡ってきた貴方が

それを言いますか…?」


そんなズィマの姿を、ズィマよりも厚着

しているにも関わらず同じく腕を抱えて

進むレヴァンが呆れた様子で見る。


「ねぇレヴァン? 目的地にパッとすぐに

着いちゃう便利な魔術とか無いの?」


「僕が目的地の場所を知らないのに行ける

訳ないでしょう? 行けたら僕だってこんな

山道を歩いて登るなんてしてませんよ…」


あればとっくにこんな寒い思いをせずに

済んでいる…とレヴァンは口を尖らせた。


いっそズィマが変化して背中に乗せて

くれたら早く着くのでは? と提案するも

彼は首をブンブン左右に振り、激しく

拒否をする。


「あのね? 俺のはレヴァンみたいに服ごと

質量変化させる変わり方じゃなくて生身の

体だけ変わる変体型なの。

服とか全部脱げちゃうからこんなところで

変わると寒いんだよ!


だいたい、動物見ると毛皮が暖かそうとか

みんな言うけどちょこまか動いているから

体温が高いだけで、実際は毛皮だけよりも

服着る方がはるかに暖かいんだからな!」


寒くて気が立っているのであろう。

そんな鬱憤晴らすように一気にわめく

ズィマをはいはい言ってみただけですと

レヴァンは宥めながら歩みを進めていく…


山道に響くザクザクという足音…


……


「うへぇ…やっとついたぁ…

前回はそんなに遠いと思わなかったん

だけどなぁ…

やっぱり夜の山って感覚狂うなぁ」


「くっ…僕が蝙蝠の…姿で…ズィマに…

ぶら下がって…来るべきでした…」


急に視界が開け、ようやく目的地に着いた

頃には二人共すっかり息があがっていた。


「レヴァン、ちょっと探す前に休憩

しない? 確かその木の奥に廃墟があった

はずだから風避けにもなるよ」


ズィマの提案に、レヴァンは是も非もなく

無言で頷いたのだった。




パチパチと焚き火がはぜる音が響く。


暗闇に浮かぶオレンジ色の火の温もりに

ようやく一息つきながら、二人はレヴァン

の持参したホットワインで体を暖めて

いた。


ほっとするような時間…


このまましばらくこうしていたい気も

するのだが、そんなことをすればきっと

あっという間に夜明けになってしまうので

そういう訳にはいかない。


「んでレヴァン、これからどうするつもり

なの? 今から俺があの日に辿った道のりを

順にでも追っていく?」


魔獣を探して結構色々な場所を巡ったので

追っていくのであれば、早めに休憩を

切り上げて探しに行く必要がある。


そんなズィマの提案に、レヴァンはワイン

を飲み干して口元に笑みを浮かべた。


「それも一つの手ですが、それよりも

手っ取り早く探す方法がありますよ。

いくつか来る前に考えておきましたので」


「探す方法…?」


ズィマが尋ねるとレヴァンはおもむろに

立ち上がり、少し広めの場所に移動した

後、懐から薬品瓶を取り出して何かを

唱えながら足下へと中の液体を一筋

垂らしていく。

その液体は仄かな光を放ちながら放射状へ

じわりじわりと蔦が這うように広がって

いった…


「これは魔力を帯びている物に反応して

光を放つ薬品です。

本来、塗料に混ぜて魔力を込めた看板等へ

書いて常に光らせる…という使い方をする

物ですが、弱い魔力でも充分反応するので

こういう風に枝葉のように広げて探索魔術

と複合させれば魔力の出ている方向が

ある程度わかるという寸法なんですよ」


レヴァンの足下に輝くような青白く輝く

強い光。


恐らくこれはレヴァン自身の魔力に反応

している光なのだろう。


そしてそれとは別にもう一つ、枝葉の

ように広がった先の一方に仄かな光…


「この淡い光の先にあるのが恐らく件の

植物ですね。

この光り方なら、生えている場所は

思ったよりここから遠くではなさそうだ。

このまま案内してもらいましょうか」


仄かな光の方向へ指差しながら、更に何か

違う言葉を唱えると、今度はその枝葉は

蛇のように波打ちながらするすると指を

差した方へと伸び…やがて、それは窓の

隙間を這い出て外へと向かって行く。


「この暗闇なら、淡い光でもかなり目立ち

ますから分かりやすいですよ。

見失っても、通り道に僕が近づけば通った

跡が光りますから迷うことはありません。


…さて、さっさと片付けて帰りましょう」


レヴァンの言葉にズィマは頷き、立ち

上がって砂を払う。


「こうやって見ると魔術って便利だよな…

俺も一つくらい使えるの無いかな?」


「残念ながらズィマには難しいですね…

魔術は潜在的な力が無ければいくら上手く

呪文唱えても扱えないものですから。

その代わり…」


そう言いながら、レヴァンは印の刻まれた

小さな白い袋をポケットから取り出し、

その中に入れてあった植物の蔦で編まれた

ペンダントをズィマの首へかける。


「これは身に付けた者の魔力を強く吸い

取る力があります。

僕からの補助魔術も一切効かなくなると

いう欠点はありますが、ズィマに付け

られた魔性植物の印もこれを着けている

間は効力を失うので意識を乗っ取られる

ような事はありません」


魔力に頼らず戦えるズィマだから使える

代物ですよとレヴァンはズィマへ微笑む。


「…まぁ魔術はレヴァン、物理は俺って

分業していれば困ることはないか」


ズィマは腰に着けていた鉤爪を装備し、

レヴァンへと笑い返した。



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