episode4―3



レヴァンが言いかけて、突然口をつぐみ

口元に手を当て、虚空を見ながら何かを

考え始める。


「レヴァン…?」


急に黙ってしまったレヴァンの姿に不安を

感じ、ズィマは彼の目の前で手を振って

みせた。


「ねぇズィマ、風呂に入った時とか全身を

よく鏡で後ろとかまで、隅々を毎回見たり

します?」


「へっ、鏡? そ、そりゃ上から下までは

見る事はあるけどそんな後ろまで隅々とか

までは普通あんまり見なくない?」


視点をズィマに戻したレヴァンは、彼の

腕を掴みながら急に質問をする。


勢いに圧されたズィマがしどろもどろに

答えれば、レヴァンは再び口をつぐんだ。


「あのー…レヴァン…?」


「そう…なら少し確かめたいことがある

ので後ろを向いてくれません?」


「えっ、後ろ…って、こう?」


レヴァンの言葉に素直に従って後ろを

向いたズィマのズボンに手を掛けて一気に

下着ごとずり下ろした。


瞬間、言葉に表現し辛いズィマの悲鳴が

部屋中に響き渡る。


「ちょ、ちょっと!? レヴァン! あのね、

俺ね、確かに隠し事は無いとは言ったけど

俺にだって隠したいモノとか場所はあるん

だからね?! 羞恥心は持ってるんだよ?!

ねぇレヴァン聞いてる?」


慌ててズィマは下着だけ引き上げ、赤面

しながら激しく涙目で抗議するも、その

言葉は完全に無視され、あろうことか

レヴァンは追い打ちかけるかのように

外気に晒された彼の右太股後ろを四指で

擦り上げる。


そして再び上がる悲鳴。


「…まったく…こんな贄の印なんて、一体

どこでもらってきたんですか…?」


「レヴァン! なんて所を触ってくる…

…って、贄…何?」


レヴァンが四指で擦り上げた場所には、

色鮮やかで大きな痣ができていた。


それは今にも大輪の花を咲かせようと

している蕾のようにも見える…


「何…これ…」


「狙った獲物に印をつけて魔術をかけ、

栄養を過剰に取るように仕向けて太らせ

頃合いになったら自分の所へ呼び寄せて

補食する、魔性化した肉食植物がある

…ってのを昔、本で読んだ事があるのを

思い出しましてね」


レヴァンが魔術を学び始めた頃は魔術の

材料として肉食植物を使う事もあったが、

今では手軽に手に入り高い効果が得られる

安価な材料があるので、肉食植物など見る

機会は殆ど無いと言っても過言ではない。


なので、まさか本当にそうだとは…と

半ば呆れた様子で、印を指で辿っていく。


「生け贄のごとく自ら進んで食べられに

行くように見えることから贄の印と

言われているんですよ」


「ってことは、俺…食べられちゃう?」


「他の動物ならすぐに栄養吸い盗られて

死ぬと思いますが、人狼は人成らざる者の

中でも頑丈な部類ですし回復力が高いので

食べられてもすぐには死にませんよ」


「レヴァン、他人事みたいだよ?!

っていうかそれって逆に余計辛くない?!

なんとか食べられない方法を考えようよ」


顔を曇らすズィマをからかうように、

レヴァンは軽口を叩けば、ズィマは慌てて

彼に泣きついた。


そんなズィマを見て、レヴァンは満面の

笑顔を見せる。


「……冗談に決まっているでしょう?

ズィマが食べられて困るのは僕も同じ。

既に需要供給の関係にある僕を差し置いて

たかが魔性化した程度の低俗な思考無き

植物ごときがズィマに手を出そうなんて」


唇が声に出さぬまま至極物騒な言葉を刻み

紅いサングラスの奥で冷たい視線が細め

られていく。


そんな様子を見て、ズィマは思わず顔を

引き攣らせるが、彼はそれを気にする

様子はない。


口元に再び手を当て、思考を整理する

レヴァン。


「ズィマ、1ヶ月程前に行った場所で何か

変わった植物が生えてた場所に心当たりは

ありませんか?」


レヴァンに不意に尋ねられ、我に返った

ズィマはうーんと唸りながら記憶を

辿っていく。


一応原因はわかったものの、ズィマに印を

つけた植物がどこに生えているのかが

わからなければ、対処のしようが無い。


ズィマがその植物の元へ無意識状態で行く

時まで待つのも手だが、そうなると彼の

意識をその植物との戦闘までに引き戻せ

なかった場合、戦力がレヴァンだけに

なってしまう。


また、その植物がどのような特性がある

のかがわからない以上、作戦として後手を

踏むのは大きな危険が伴ってしまうので

できれば避けておきたかった。


「そういや、この近くの山に魔獣が出た

…ってんでギルドに依頼があって討伐隊を

組んで行ったんだけど、結局何も出なくて

そのまま帰ってきた日があって。

変わった植物があったかまでは覚えてない

けどそこは廃墟があって、草木は多かった

気がするな。

それが確か1ヶ月とか半月ちょい前の

話だったはず」


「他にはありませんか?」


「最近は護衛だとか用心棒の依頼が多くて

どこかに派遣されて行くって感じの依頼を

受けていないからなぁ…」


頭をガシガシ掻いて思い出そうとしている

のだが、それ以外には特に思い付かないようだ。


「…そんな街の近くの山に肉食植物なんて

生えていたら、もっと以前から行方不明者

とか動物の残骸が辺りにたくさん出たり

して大きな問題にでもなっていそうなもの

ですがね…とりあえず行ってみますか?」


レヴァンの提案にズィマは二つ返事で

快諾する。


「魔獣が出たって話の所だから、もし

二人だけで行くなら装備は固めないとな」


冒険者ギルドが討伐隊を組んだ程の魔獣…


周辺に人間が居なければ、余程の事が

なければズィマ達の力で倒すことはできる

だろうが、万が一の事を考えて念を入れて

注意しておくに越したことはない。


二人はそれぞれに戦いの準備をするため

自室へと向かうのであった。




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