episode4―2



こうして始まったズィマの食生活改善。


最初の数日は、酷く駄々を捏ねたり抗議

されたりと反抗されたものだが、何を

言われても首を縦に振らない意思の堅い

レヴァンの姿を見て、やがて無駄な足掻き

だと気づいたのだろう…


ズィマは素直に決められた量だけ食べる

ようになった。


レヴァンも、ズィマにだけ無理を強いて

いることに対して引け目を感じていたのか

毎回の食事自体の内容が今までよりも少しだけ高級で美味しい物になり、その満足感

が買い食いに走らせる欲求を多少抑えて

いたのかもしれない。


そして、そういった努力が実を結びやがて

程なくズィマのお腹もレヴァンの見た目も

スッキリしてくる…はずだった。




「…………おかしい」




幾日か前と同じ鏡の前で唸るレヴァン。


ズィマの食生活の改善は巧く行っている

はずである。


食物庫には置いてある物に変化はないので

つまみ食いしている様子はない。


彼に許可をもらい、金貨入れを見ても

買い食いしている様子も見られない。


なのに…殆ど変わらないのである。


…いや、むしろ更にむっちりしたような

気さえするのだ。


ご飯材料の質を高級な物にしたといっても

買っている物に大きな違いは無い。


いつも特価の野菜を買っていたのを新鮮で

ちょっとお高い物にする位の違いである。


それが太る要因になるとは考えにくい。


あと考えられる事は、レヴァンが知らない

所で何か行動をしているという可能性…


「あんまり気は進みませんがズィマの

一日の行動を調べる必要があるかも

しれませんね…」


眉を寄せて天井を仰ぎ見る。


親しき仲にも…とは言うものの、太る原因

がわからなければ対策の施しようもない。


それでも、流石にズィマのプライバシーを

丸裸にするような事をするのは気が

引けた。


「ごめんなさい、ズィマ…」


レヴァンは小さな声でズィマに一言詫び、

鏡に向かって呪文を唱えながら魔方陣を

描き始めた…


鏡に映るズィマの様子には変わりはない。


冒険者ギルドに張ってある依頼書でも

見ているのだろうか?

側にいる人と何かを話し、指を差して

語らっていた。


蝙蝠を見張りに使わなかったのはズィマに

行動を監視されていると気付かれてしまう

可能性がある為、こんなわざわざ回り

くどい魔術をレヴァンは使ったのだが、

これではまるで…


鏡の中のズィマが何も知らずに笑う。


その屈託の無い笑顔に罪悪感が胸を貫き、

…やがてレヴァンは手を左右に振り、

描いた魔方陣を消した。


入り込んではいけない領域、覗いたのは

ほんの少しとはいえ、やはりそれは見ては

いけないものだ…


「…んで、そんな渋い顔をしてたの?

帰ってきた早々平謝りするからてっきり

ヤバい魔術師に見つかるヘマでもしたのか

と思ったよ」


ズィマに正直に話して頭を下げると、

レヴァンは真面目だなぁ、と笑いながら

許してくれた。


「俺、プライベートって言っても、同じ

化け物のレヴァンに知られて困るような

事は特に無いしなぁ。

だから、見ても良いけどたまに買い食い

するのは見逃してよ?」


冗談めかしてウィンクするズィマ。


「それじゃ、何のために監視するのか

わからないじゃないですか…」


「けーち!」


頬を膨らませ、拗ねるズィマ。

やがて二人の視線が合い、笑顔を交わす。


だが、根本が解決していない。


ズィマに買い食いやつまみ食いの心当たり

を聞いても、ちゃんとレヴァンの計画

通りに食べないようにしている様子。


彼自身も最初こそ渋々ではあったが、節制

している筈なのに体の変化が無い…

むしろ変に増えて体の動きが鈍くなって

きていることに焦って、レヴァンが制限

していない酒や食事量も実は気を付けて

いると目を反らさずに言うので、多分

本当の事だろう。


痩せない理由が二人にもわからなかった。


「…そうだなぁ、後は魔術的な物が原因

してるんじゃねぇの?」


ひとしきり二人で頭を悩ましていたが

だんだん考えるのが面倒になってきた

ズィマが、適当な事を言う。


「ズィマ…なんでもかんでも不可解な

現象は魔術に結び付ければ解決するとか

思ってません?

そんな魔術、あるわけ…」





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