episode 4
episode4―1
「……おかしい」
レヴァンは鏡の前に立って自分の姿を映し
上から下まで眺め、渋い顔をする。
体を捻って横を向いたり、後ろを向いたり
にらめっこしてたかと思うと、頬を両手で
挟んだりつねったり…そしてしばらく
そうしていたと思ったら、やがて大きく
ため息をつき…
「うぅ…やっぱりまた太ってるうぅ…」
只でさえ、蝙蝠の顔はまるで豚のようだと
言われているのに、太って飛べなくなって
しまったら本当に豚じゃないか…
レヴァンはお腹を擦りながら項垂れた。
数百年、自分の城に篭ってた頃は吸血鬼
という存在であるにも関わらず、トラウマ
により人間の血を吸えなくなって絶食を
していたので、スリム…というよりは
明らかに不健康なやつれ方をしていた。
なのでその時期の姿にまでは戻りたいと
いう気は無いのだが…流石に今のこの
あちこちについてしまった肉のボリューム
はいただけない。
ウエストに隙間が無くなり、手がスムーズ
に入らなくなってきたズボン、上腕が
パンパンで曲げ伸ばしし辛くなった腕、
ムチムチ弾けそうな程立派に育った太股…
このままだと、そのうち服が破れてしまう
のは目に見えていた。
…それにしてもここ数週間で、不自然な程
急に太ってきた気がする。
人狼のズィマと吸血鬼のレヴァンが旅を
し始めて、数ヶ月。
血を飲む為にズィマを必ず傷付けてしまう
のが申し訳なくて最初は遠慮して半月に
一度などのペースで飲んでいたが、彼から
短い間隔で少量飲んでくれた方が体に負担
が少ないとの事を言われ、最近は三日に
一度位のハイペースでの食事になって
いる。
けれど、だからと言って回数は増えたが
総じた量が増えた訳ではない。
例えるなら、1ヶ月に10飲むとすると、
一度に10飲むか、一回1ずつ飲むのを10回
行うか…の違いである。
それでも体の変化を感じ始めた頃から、
もしかしたらズィマの血が美味しすぎて
気付かぬ内に自分の取る食事量が増えてる
のではないかと疑い、飲む量を減らしたり
今まで引き込もっていた時にはやった事も
なかったような運動もし始めた。
それでも効果は殆ど無く…逆にそうした
努力虚しく、短期間での肉体的な変化は
こうして変わらずレヴァンの体に如実に
現れてしまっている…
「これはやっぱり…」
鏡に映る自分を見ながら、レヴァンは
再びため息をついた。
…………
……
「…という事で、ズィマ」
畏まって難しい顔をしているレヴァンを
前に、一体何事かと目をぱちくりさせて
いるズィマ。
そんな彼の様子も構わずに、レヴァンは
ローテーブルの上に大きな紙を広げた。
「…食生活改善…計画表…?」
そこにはズィマの数日の食事の内容と
これからの理想とする食事内容が細かく
書かれていた。
「ズィマの血を飲んでいる僕が、最近急に
太ってきたと言うことは、ズィマ自身の
血液が栄養過多になってきているんだと
思うんですよ」
「それは…レヴァンの気のせいだよ…」
心なしかズィマは目を反らしながら
苦笑いで誤魔化そうとしている。
「食事の質自体はみている限り、元が
肉食系なので別に肉が多い分は問題は
無いんですよ。
あるとすれば…多分この…」
紙の上に書かれてある字を順番に指で
差し示していく。
『お菓子』『買い食い』『おやつ』
『お酒』『つまみ食い』『夜食』……
きっとレヴァンに隠れて食べていたで
あろう買い食いやつまみ食いまでバレて
いたことに対して、ズィマの顔が軽く
引き攣っている。
それを見てクスリとレヴァンは笑う。
ズィマには自覚はないようだが隠し事が
できず、またおおざっぱな性質。
食べかすやら買った袋などの証拠が
そのまま無造作にテーブルに置かれて
いたりするので、レヴァンにわからない
はずがない。
「ズィマ、僕にも影響がある位ですから
貴方にも多少なりとも体に出ている
はずなんですけど?」
ズィマの隣へ座ったレヴァンはおもむろに
彼の腹に触れ…ほらね? と言わんばかりに
余分な脂肪の塊を指で摘まみあげた。
「だいたい、しっかり食事しているのに
なんでお菓子や夜食まで食べる必要が
あるんですか?」
「いや、ほら…だって、ねぇ…」
レヴァンの質問にズィマは完全に逃げ腰
であるが、腹を摘ままれているせいで
逃げられない。
「急に全てを止めろと言っても無理です
から、おやつ以外のお菓子は禁止で、あと
つまみ食いや夜食も無しということで。
それだけでもかなり変わるでしょう」
「ちょ、そんな、横暴だよ?!」
「ではお菓子や夜食やつまみ食いを食べる
事を前提にするのなら、普段の食事を粗食
にしますか?毎食今食べている量の半分に
なるでしょうけど…」
「ええぇ…」
悲しそうなズィマの顔を見て、罪悪感を
感じないことはない。
彼にとって食べる事が幸せなのは、食べて
いる時の笑顔を見ていれば誰でも分かる
事だ。
だが、このまま好きに放っておけば、
レヴァンが太る事以上に、ズィマがいざ
戦わなければならなくなった際困った
ことになる。
鉤爪を装備し、素早さで敵を翻弄しながら
攻撃する俊敏さが命の戦い方を得意として
いるのに、太ってしまったせいでうまく
動けませんでした…では話にならない。
「普通の食事には制限掛けないのだから
要は僕達が一緒に旅を始めた頃の食事量に
戻すだけですよ。
今まで出来ていたのだからもちろん
出来ますよね? ………ね?」
有無を言わせぬレヴァンの迫力に負けた
形で、ズィマは渋々頷くのだった…
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