episode 3
episode3―1
「えっと…レヴァン、俺、冒険者ギルドが
こっちだから登録しに行ってくるけど…
一人で大丈夫?」
「さっき荷物置いた家が僕達が借りた所
でしょう? 大体は覚えましたから、僕は
買い物がてら少しこの街を一通り散策して
から戻りますよ」
「あぁ、そうだな…あ、でももし迷子に
なったらその時は近くの…」
「あのねズィマ、いくらなんでも毎回
心配しすぎです…」
そう言って、幼い子供を初めて一人で
買い物へ行かせる時の親のような様相を
見せるズィマと別れて、レヴァンが単独
行動をし始めたのはつい先程の話。
毎度の事ながら、初めての街に着いたら
必ず一度はこういうやり取りがあるの
だからズィマの過保護振りには恐れ入る。
まぁ、心配してくれる気持ちは有難い
のだが…などとレヴァンは小さくため息
をついた。
魔術都市と称されるこの大きな街へ
辿り着いたのは日が昇る前。
偉大なる魔術師がこの地に訪れた際、
初めて街を照らす街灯魔道具を発明し
設置したのが始まりで、それ以降人が
徐々に集まり始め、交易盛んな街へと
大きく発展したと言われている魔術に
縁の深い街。
これだけ大きな街なので、ここで見つから
無いものは他にも無いと言わしめる程の
場所でもあり、また情報や仕事、資金を
稼ぐのにも最適な場所でもあることから、
多くの冒険者達がこの街を旅の拠点の一つ
にしていた。
ーー人々に見捨てられた小さな町の丘に
佇む古城で絶望に打ちひしがれ、ただ人に
迷惑掛けぬよう死ぬことだけを考えていた
吸血鬼であるレヴァンを、広い世界へと
連れ出した狼男のズィマ…
そんな彼らが一緒に旅をし始めてから
半年…レヴァンにとって、旅に出てから
初めての冬が訪れる。
ズィマもレヴァンも人成らざる種族の為、
ほぼ不老不死と呼ばれる肉体を持つ身。
…とはいえ、寒い時に薄着などすれば当然
寒いし、風邪もひくし、うっかり転べば
怪我もする。
行く宛も目的もないこの旅路に、いくら
追われているとはいえ、わざわさリスクを
伴って危険な旅をする必要は無い。
むしろ旅人の少ないこの時期に旅をする
のは人目が少ない分、目立ちやすく
却って危険なものになる可能性もある…
そう結論を出した二人は、冬でも人が
多く居て賑やかなこの街を選び、冬を
越す事を決めたのだった。
レヴァンは借りた家から程近い商店街の
店を見て回り、この冬を越す為の当面の
生活用品を手際よく買っていく。
旅に出た当初は何を買えばいいのかなど
流石に戸惑ったものだが、今は随分慣れた
もので、少しばかり高いと思ったものは
値下げの交渉もできるようになっていた。
このような大都市では長期滞在する冒険者
も珍しくない為、家具や生活必需品が予め
サービスで付いている貸し家が多い。
おかげで冒険者達は大きな街を比較的
軽装で行き来する事ができるのだか、
それでも一季節生活するとなると何かと
物入りとなってしまう。
たくさん買ってしまうと今度は旅に出る
ときの処分が大変になるのが目に見えて
いるので厳選しなくては…
そんなことを考えながら、歩いていると
急に視界が開けてくる。
どうやら魔術関係の物をたくさん売って
いる通りに出たようだ。
店の軒先を軽く見て回れば、魔術都市と
言われるだけあって様々な珍しく貴重な
素材等が所狭しと破格で積み上げられて
いる。
中には人成らざる者…特に古い人狼の骨やら
血の粉末やら干からびた皮まで超高値で
売っていて、レヴァン達にとっては死骸を
切り売りしているような悪趣味極まりない
感覚…
さすがに魔術に深く関わる彼でさえ、目を
背けたくなるような物も多く、ズィマが
興味本意でついてこなくて良かった…と
胸を撫で下ろした。
「色々あるなぁ…」
冬の間は魔術師ギルドへ定期的に提出を
しなければならない研究レポートもこれ
ならば捗りそうだと思いつつ、彼は更に
散策の歩を進めていく。
魔術の専門書、魔方陣儀式の道具、調薬の
材料など…中にはレヴァンが古城へずっと
閉じ籠っている間から比べると、随分
便利になった道具もあり、眺めていると
物欲が膨れあがってしまう。
しかし、心が踊るのを落ち着かせながら
流し見ていたはずが、窓越しの店内に
特価ワゴンがあるのを見つけてしまい…
カランカランッ…
「いらっしゃいませ!」
レヴァンは特価の誘惑には勝てず、店の
扉に手を掛けたのだった…
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