episode2―7



魔方陣で戻ってきたのは、借りている家…


ソファに向かい合い、レヴァンの話を

終始無言でズィマは聞いていた。

時折、鳥肌を消すように腕を擦りながら

唇をキュッと引き締めている。


「ズィマ…すみません…僕が…」


心底消沈するように俯いていた。


「レヴァンが謝る事は一つも無いよ」


ズィマはハッと現実に引き戻された顔を

した後、笑顔を作りながらレヴァンの

横へと座り、慰めるように彼の膝へ手を

乗せる。


「まだ本物だと決まった訳じゃない」


「それでも…」


もし本物だとしたら…そう言い掛けた

レヴァンの口を指で遮った。


「例え、そうだったとしても…今はもう、

逃げ出す事しかできなかったガキの頃の

俺じゃない」


それに…と言葉を継いだ後、ズィマは

視線を落とし、握りこぶしを固く締める。


「本当に謝らないといけないのは俺の

方だ…俺が連れ出さなければお前まで

見付かることはなかったのに」


眉を寄せ、苦々しげに呟くズィマへ今度は

レヴァンが首を横に振りながら彼の手を

握り、微笑む。


「いいえ、一緒に行くと最終的に決めた

のは僕自身です。

貴方が連れ出さなければ、僕はあの場所で

まだ死ぬ事に捕らわれていたはず…


この命は貴方がくれたものだ。

だから…ズィマ、僕が貴方を守りますよ」


驚いた顔をしてレヴァンを見れば、彼は

意を決した強い眼差しでズィマを見つめて

いた。


「貴方が死ねば僕も飢えて死ぬことに

なるんですから、守るのは当然でしょう?

…それに、ようやく…僕が貴方の傍に居る

意義が見出だせた気がするんですよ…」


「レヴァン…」


レヴァンは目頭を紅潮させたズィマの

首もとへ腕を回し、慰めるように自分の

方へと引き寄せる。


「二人ならきっと何とかなりますよ。

だから、一人で不安を抱えないで…」



「……ありがと…」


レヴァンの胸元に顔を隠すように埋め

ながら、小さくズィマは呟いた…




すぐに行動しては、却って居場所を教えて

いるようなものだというレヴァンの冷静な

意見に従い、大勢の旅人達に紛れて二人が

街を出たのはハロウィンから一週間後。


街に居る間、レヴァンが使役するコウモリ

達に街中の動向を見張らせていたという

安心感もあり、旅に出る頃にはズィマにも

ある程度心に余裕ができて落ち着いて

いた。


あの日から一週間…


ーー幻のような一夜の出来事。

ハロウィーンには化け物が現れるという…


なるほど、確かに自分達化け物にとっての

化け物とは彼女に違いない。


数百年ぶりに身体中が総毛立ち、胸に

沸き上がる、追われ襲われる側の恐怖。


長年、平凡な日々を送れていた事による

油断と失っていた警戒心…


けれど、今回の事は自分の首元へ鋭い

ナイフが常に当てられている事を改めて

思い出させられた。


…気を引き締めなければならない。


少しの油断がズィマだけではなく、自身が

連れ出したレヴァンまで危険に晒す事に

なってしまう。

自分が連れ出した以上、彼だけでも

守らなければ…


そんなことを考えながら、先行で偵察に

行かせたコウモリからの情報を得る為に、

少し先にいて立っているレヴァンの背中を

見つめた。


ほんの二ヶ月前までは守ってやらなければ

なんて思うほどだったのに、こんなに

頼もしく感じるようになるとはな…等と

ズィマは独り言ちる。


きっと一人で居たのならどうしようもない

不安に押し潰されていたかもしれない。


でも、今は…


「ズィマ、どうかしましたか?」


視線に気付き、ズィマの方へと振り返る

レヴァン。


「…なんでもねえよっ!」


彼の元へと駆け寄り、ズィマはレヴァンの

首に腕を回しじゃれついた。


「次の街までは特に何も無さそうです。

暗くならない内に早く先へ進んでしまい

ましょう」


レヴァンが先の道を指差してもズィマは

彼にしがみついたまま動かない。


「ズィマ…?」


「…頼りにしてるからな? 相棒」


そう、レヴァンに囁けば彼は一瞬驚いた

顔をするが、すぐにはにかむような笑み

へと変わる。



「これからも宜しくお願いしますね」



…二人は顔を見合わせて笑いながら、

次の街を目指して歩き出したーーー



~episode 2 end~


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