episode2―3



『ハッピーハロウィーン!!』



元々昼間でも人通りが多く、賑かな街では

あるが、今日はいかにもお祭りのせいか

昼間以上に人出が多い。

人々はそれぞれ思い思いに、シーツを

纏ったり、着ぐるみを着たりして奇声を

発して踊ったり歌ったりしていた。


街のあちこちで飾られている蝋燭が中に

仕込まれている不気味なかぼちゃ細工の

ランタンや、人々が纏う色鮮やかな衣装や

仮面が夜の街に浮かび上がり、まるで

街中が絵本の一説のような一種異様とも

言える幻想的な雰囲気に包まれている。


……街は光と音と笑顔が溢れていた。


そんな街の様子を見て、レヴァンは目を

丸くする。


踊り歌い羽目を外す異様な人々の様子と

比べて見ると、化け物であるレヴァンの

方がある意味余程人間らしく見えた。


なるほど、ズィマが『こんな日でも

ないと…』と言って連れ出したのにも

頷ける。


「って…あれ、ズィマ?」


周囲の様子に圧倒され、キョロキョロと

辺りを伺っている内にうっかりズィマの

姿を見失い、慌てて彼の姿を探せば、

少し離れた壁際で可愛らしく着飾った

数人の子供達と何やら楽しげに話して

いる彼を見つけた。


…端から見れば、実に微笑ましい風景。


だが、笑顔のズィマと対称的に幾人かの

子供の顔が心なしか怯えているようにも

見えるのは気のせいなのだろうか?


しばらく見ていると、突然ズィマが両手を

大きく上に挙げた。

その瞬間、子供達は彼に向かってお菓子を

いくつか投げつけるかのように渡し、

キャーっとまるでクモの子散らすかの

ように、逃げ出していく。


ズィマはそんな子供達を笑顔で手を振り

ながら見送り、どことなく満足げに

レヴァンのいる方へと戻ってきた。


手には子供達から投げ付けられて貰った

たくさんのお菓子を携えて…


そんな彼の姿に嫌な予感しかしない。


「…ズィマ?

子供達と何を話していたんですか?」


「んー…? 別にぃ…」


「…………」


ズィマは意味深な顔をしてニヤリと含み笑いを浮かべながら持っていたお菓子を口に放り込んだ。


「トリック オア トリート!」


「…………?」


「この言葉はお菓子をくれなきゃいたずらするぞってな意味があるらしくてな?

子供達に言ってみたら貰えたのさ」


あくまで貰ったと言い張るズィマ。


だが、子供達のあの逃げっぷりはどう

見たって分けてあげた…という感じには

到底思えない。


「…横取りしたんじゃないの?」


「い、いや、少しだけお裾分けをだな…」


「…本当は何て言ったんですか?」


「…あー…うー……えーっと…」


レヴァンが冷ややかな目をズィマに向け

れば彼は慌てて弁解の言葉を紡ごうと

するのだが、後ろめたい事があるようで

決してレヴァンの方を見ようとはしない。


そして。


「……お菓子をくれなきゃ食べちゃうぞ…

…がおー…」



「はあぁ―…ズィマ…貴方って人は……」



冷たい視線に耐えきれなくなったズィマが

観念して吐いた言葉はあまりに想像どおり

すぎて…


「ズィマ、お菓子が欲しいなら僕が

ちゃんと買ってあげますから!

だから子供達を脅して巻き上げよう…

なんて事を考えるのはお願いですから

止めてくださいよ?」


「ちぇー…」


レヴァンの言葉にまるで子供のように

唇を尖らせて拗ねるズィマの姿に、彼は

思わずこめかみに手を当てて、大きな

ため息をついた……………




―――喧騒に包まれた街中を並んで

二人のんびりと歩く。


華やかな彩りの建物に、たくさんの露店。

街の中心では様々なイベントが行われて

いるらしく、すれ違う人と肩を掠めて

しまう程の賑わい。

人々も思い思いの奇抜な姿で練り歩き、

あちこちで笑い声が響き渡っていた。


ズィマとレヴァンが二人並んで歩くのは

旅をしている間は常の事。

だが、いつもと違うのは二人共自分の

本当の正体を晒して堂々と歩いていると

いうこと…


人間達の前でこんなに堂々と本来の姿を

さらしているなんて、何百年ぶりなのか…

ズィマの半分獣人のような姿もレヴァンの

牙も誰も気にする者など一人も居ない。


…もしかして、人間達は自分達の存在を

認め、受け入れてくれたのだろうか…?


そんな奇妙な錯覚に陥ってくる。


普通ならば、人々が忌み嫌うであろう

異形の姿。


けれど、ハロウィーンの今日だけは、誰も

その事を一片たりとも気に掛けたりは

しない。


…今日だけは…飾る事の無い自分で

居られる日…

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