episode2―2


「……あれ…?レヴァン、今日が何の日か

知ってる…?」


「ただの月の終わりでしょう?」


「えーっと、ハロウィンって知ってる?」


「…?」


ようやく二人の間で話が通じてない事に

気付いたのか、ズィマはおずおずと

尋ねてみるが…

彼はただ眉をひそめたまま首をかしげて

いるだけ。


「あー…そっか…レヴァンの居た地域では

そういう習慣は無かったのか…」


「何ですか、ハロウィンって…」


ポリポリと頬を掻くズィマにレヴァンは

尋ねる。


「実は俺も旅の途中にこの辺りに来るまで

知らなかったんだが、昔からの風習でこの

時期に人間の街へ化け物がやって来る

らしい」


「………はっ?」


あまりに唐突な答えに、レヴァンは奇妙な

顔をする。


「なんでも、昔からこの日に化け物が来て

人間を連れていくと言われていたらしく、

連れて行かれないようにする為に化け物を

模した格好をする風習があったらしい。


…それが月日が経って化け物が来なく

なってからも残って、今ではこんなに

楽しそうなお祭りに変化したって訳だ」


窓際のカーテンを少し捲れば、華やかに

ライトアップされた街が浮かび上がって

見える。

人々も何かしら派手な色合いの衣装を纏い

楽しそうな様子で大勢歩いていた。


成る程、外が賑かしかったのはその為か…

と納得する。


「それにしても…人を拐う化け物ですか」


レヴァンはため息をついた。


「人間達の報復の怖さを知っている

人成らざる者が人間を拐う事なんて殆ど

無いでしょうに」


「…人間っていうのは弱くて臆病な生き物

だから不可思議な現象は全て何かのせいだ

と原因を押し付けたくなるものなのさ…」


そう呟き、ズィマはどこか寂しそうに

笑った。



――レヴァンがズィマと一緒に旅を

始めてから二ヶ月あまり…


彼が生きる事に悲観、絶望し、死ぬ為に

数百年断食して自分の城にひっそり引き

篭って居たのを、ズィマによって半ば

無理矢理引っ張り出され…


今は人間の世界を旅する事や生活リズムに

ようやく体が慣れてきた…と、いった

ところだろうか。


とはいえ、精神面ではまだまだで、

自分一人だった頃は気にする必要も

なかった『化け物である自分』をひたすら

隠し続けなければならないプレッシャーや

長い間、孤独の中で過ごしてきたせいで、

傍にズィマが常に居るという環境には

まだ慣れきったとも言い難く。


もちろんズィマが悪い訳ではない。

彼は旅が初めてのレヴァンに対して、

疲れは出てないかだとか人間世界での

旅のアドバイスなどを教えてくれて細かい

フォローしてくれたりと、何かと配慮して

くれているのは充分解っているのだが…


それでもまだ相手のペースに自分を

合わせるという事の難しさは拭えない。


あとは、ズィマに対してまだ遠慮がある

のだろう。


気を使うなと言われても、出会ってから

たった二ヶ月である。

はい、そうですかと即座に馴れ合える性質

ならばこんなにおかしな苦労はしない…


そんな余裕の無い状態で、旅を楽しめと

言われても無理な話で、彼にとって

見るもの聞くもの全て好奇心が沸く前に

珍妙な物に見えてしまっていた。


余裕持たないといけないな…


レヴァンは小さくため息をついた。


そんな彼の内心を知ってか知らずか、

ズィマは無邪気な顔でレヴァンの顔を

覗きこむ。


「レヴァン、こんな機会でもなければ

俺達が自然体で街を歩くなんてこと

無いんだぜ?

だからー…良いじゃんー?せっかくだから

二人で行こうよー…」


ズィマはレヴァンに甘えるような声を

出しながら、柔らかい肉球でぷにぷにと

レヴァンの手を揉んで誘う。


「何が、だから…なんですか…」


「なんだよぅ!せっかく人間達が

『この日は化け物がやってくる』って

言ってるんだから行ってやらないと!

なっ?!」


「いや、ズィマ…言ってる意味がわかり

ません…」


「あーもう!ワイワイ外が楽しそう

なのに行かずにいられるかぁっ!」


「ズィマは結局ただお祭りに行きたい

だけなんじゃ…って…わあぁっ?!

ちょっと、待っ…僕まだ準備もっ…」



半ば強引にズィマの勢いと力に負けて

ズルズルと引き摺られるようにレヴァンは

連れ出されてしまった…


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