episode 2
episode2―1
「ちょっと、外に行ってくる」
「あ、いってら………って…
えええええぇぇぇぇぇぇぇ?!」
外から聞こえてくる、やけに賑やかな音に
誘われたのか、ウキウキと浮き足立った
様子で玄関へと向かうズィマ。
その背中に何気なく声を掛けようとした
レヴァンは思わず悲鳴に似た素っ頓狂な
声を上げた。
「ズィマ?!待って、待って!
その格好で外に行くつもりなの?!」
「…そうだけど?」
「だ、だだだだだダメだってば!」
レヴァンは声を上擦らせながらも必死に
ズィマの腕を引っ張り、制止する。
…それはそうだろう。
今のズィマの姿ときたら、狼の耳は
出しっぱなし、鼻先は黒く、犬ひげも
チラチラ生えたままだし、何より手足は
しっかり獣の手足で尻尾もフリフリと
嬉しそうに……
どう頑張って見たって人間の姿には到底
見えるものではない。
今まで長い間、彼が狼男だということを
ひた隠しに隠して生きてきた意味が、一瞬
にして全て無駄にしてしまうような出で
立ちで外へ出ようとしているのだ。
一人で慌てふためいているレヴァンを横目
に、チラリと視線を流してズィマはニヤリ
と笑った。
「んふ〜、大丈夫、大丈夫〜!」
「なっ…、大丈夫〜…じゃないでしょ!
こんな日が落ちたばかりの時間から
何酔っ払っているんですか!
そういう事は自分の姿を鏡で見てから
言ってください!」
「おわっ…、イデデ?!
ちょ、痛い、耳を引っ張らなっ…」
ヒラヒラと手を振り、呑気な様子で今にも
そのまま表へ出ようとするズィマを、彼は
強引に引っ張って部屋へ引き戻す。
そしてズィマを姿見の前に立たせて今の
自分の姿を見せた。
…鏡の中には、どこをどう見ても半人半獣
にしか見えないズィマ。
しかし、そんな自分の姿にズィマは一向に
悪びれる様子もなく、尻尾をわざと
フリフリ振ったりしておどけている。
「ヒヒヒ、いやぁ〜…我ながら狼男!
…って感じだねぇ」
自分の姿を見ても尚、平然とするズィマに
レヴァンは苛立ちを隠せない。
「おどけている場合じゃないよ!
本当にこんな正体丸出しの姿で外へ出る
つもりだったの?!」
「もちろん、今でもこの姿で出ようと
思ってるけど?
…あー、せっかくだからレヴァンも
一緒にどう?」
「なっ……?!」
口をパクパクさせているレヴァンの様子を
気にもせず、ズィマは言葉を続けていく。
「ねぇ、レヴァンもせっかくだから本来
の吸血鬼の姿に戻って外に出てみない?
あー、ほらほら、これなんか何となく
人間達が想像して思い浮かべる吸血鬼
らしいマントっぽくない?」
へへっ…と笑いつつ、ズィマはレヴァンに
鏡の傍にあった黒いロングコートを羽織ら
せながら鏡前へ立たせる。
そしてそのまま後ろから彼の口の端に指を
突っ込み、むにゅーと頬を左右へ
引っ張り上げた。
無理矢理変な顔にさせられて、実に不満
そうなレヴァン。
開かれた口元からは吸血鬼らしい尖った
白い牙がチラリと見える。
「ズィマ…貴方正気でそんなこと言って
いるんですか…?!」
「もちろん、正気だよ?
だってこんな日でもなきゃ、本当の姿で
人間の街を歩く…なんてなかなか出来ない
じゃないか」
訝しげにレヴァンはズィマの顔を見る。
「…こんな…日?」
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