episode1―12


薄明るい夜明け…


空気は澄み、辺りは早起きな鳥達の声が

響き渡る。


旅装にしては豪奢な服を纏ったレヴァンを

旅慣れたズィマが先導するかのように

少し前を歩く。


「レヴァン、どうかしたのか?」


ふとズィマが後ろを振り向けば、レヴァン

は城の門を出た所で立ち止まり、城を

見上げている。

その姿がなんだか寂しげにも見えて、

ズィマは思わず声を掛けた。


「……なんでもないですよ」


ズィマの声に我に返ったレヴァンは、彼の

方へと振り返り慌てて微笑むが、やはり

城に後ろ髪を引かれるのか…再び城を

見上げる。


彼が見上げた先には風雨に晒され、風格の

出た石組みの城壁…この堅牢な守りの中で

レヴァンは何百年という時を生きてきた

のだ。


外の世界など知らぬままに…


「旅に出るのが…怖いか?」


ズィマがまるでからかうような口調で

レヴァンに問えば、彼は苦笑を交えた表情

で首を横に振った。


「ただ、もう僕が『地平線を紡ぎ詠う丘の

領主』ではなくなるのか思うと…なんだか

無性に寂しくなりましてね」


こことは違う、どこか遠くを見る瞳。

『地平線を紡ぎ詠う丘の領主』と人々に

呼ばれていた頃の…過ぎ去った記憶に

思いを馳せているのだろうか…?


「なんだよ、めでたい門出に湿気た顔を

してるんじゃねぇよ!

『地平線を紡ぎ詠う丘の領主』が『地平線

を渡り旅する領主』になるだけだ。

お前の本質は変わりはしないよ」


レヴァンの首もとに腕を回してズィマは

自分の方へと引き寄せる。


「今から俺と一緒に行くんだろ?

新しいお前自身の地平線を見つけに…さ」


顔を上げれば、ズィマの満面の笑顔。

釣られるように微笑みを返せば、満足した

様子でレヴァンの肩に腕を回したまま

ゆっくり歩き出す。

行進するかのように意気揚々と腕を振り

上げ、道行きを先導しようとするズィマ。


しかし、鬱蒼とした木々を眼前にして

またもやレヴァンは突然立ち止まる。


「どうした?さぁ、行こうぜ!

お前の人生の新しい第一歩だ。

…覚悟して踏みしめて歩けよ?」


レヴァンは戸惑いを浮かべた表情でズィマ

の顔を見………そして、


「踏みしめるのは良いんですが…

その人生の新しい第一歩とやらは、結構

困難な道…ですねぇ…」


そこでズィマは改めて思い出す。

城に着くまでに苦労して道無き道を通って

来たことを……


目の前のこれでもかというほど生い茂った

草木を前にして、二人は途方に暮れた

表情で見合わせる。



「……獣道………だな………」


「…………」




〜episode 1 end〜

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