episode1―7


ズィマの思いがけない言葉にレヴァンは

苦々しく顔を歪ませる。


「何故!?

僕を殺す事への罪悪感ならいらない、

貴方はただ化け物を殺すだけだ。


どうか僕を殺して救ってくれ…

…頼むから…僕にはもうズィマしか…」


ズィマの足元へ崩れ落ちるように跪き、

溢れ出る感情を抑えきれぬままズィマへ

言葉をぶつけていく。


「…悪夢や孤独から解放されたい気持ち

は痛いほどわかるぜ」


「…っ…だったら…」


語調を荒げて食って掛かるレヴァンを

片手で制止し、困り顔でズィマは

答える。


「…俺にはあの剣が扱えないのさ」


「………え…?」


何を言われたのかわからないといった

様子で呆然とするレヴァンの横をすり抜け

ズィマは剣が転がった方へと歩みを

進める。


そしておもむろに剣の柄を掴み持ち…



ジュワアアァァァ…


ガランッ



「………っ…でえええええ!!!」


格好良く決めようとでもしたのだろうか?

しばらくは無言不動で居たが、やはり相当

痛かったのだろう。


…やがて口元が歪み始めたかと思うと、

突如として半泣きになりながら焼けた手を

庇い、大騒ぎし始めた。


「こんなに聖水で浄められた銀が痛い

なんて知らなかった!

うわぁ、痛ってえええぇぇぇぇ!

ちくしょう、痛えな!!」


「…な……んで………」


頭の整理がつかないレヴァンが、掠れた

声を絞り出す。


しばらくようやく痛みが治まってきたの

だろうか、ギャーギャー喚き暴れるのを

止め、ズィマは焼けた方の手を見せる

ように彼へと差し出した。


「…こういう事だ」


未だに続く痛みの余韻にどこか引きつった

顔をしながらも、ニヤリと微笑む。


「もちろん種族は違うが、俺もいわゆる

人成らざる者…って奴だ。

ちなみに魔術師に薬剤の材料として乱獲

されて絶滅した狼男の、多分…最後の

生き残りだ」


「…そ……んな……」


「驚くのも無理はねぇけどな。

俺だって随分長い間旅を続けているが、

俺と同じ…本物の化け物と呼ばれる種族に

逢うのはレヴァン、お前が初めてだもの」


座り込むレヴァンと同じ視線になるように

ズィマも座り込み、顔を覗き込んだ。


「なぁ、レヴァン?

お前が過去に起こした罪で、どれほど辛い

思いで生きてきたか…残念ながら他人の

俺が理解しようとしても全ては無理な話だ。

けれど、だからといって自分の命を粗末に

する根性は気に入らないんだぜ?


…結局、それは罪を償いたいって気持ち

じゃなくて、自分が苦しみから単に

解放されたいが為の『逃げ』じゃ

ねぇのか…?」


レヴァンの瞳が揺らぐ。


『逃げ』じゃねぇのか?


心に深くトゲのようにズィマの言葉が

突き刺さる。


逃げではないと言い切ることは彼には

できなかった…


「手にかけた相手が先の見えない命に

絶望してた…っていうのなら、尚更お前の

寿命が尽きるまで生きて生きて、とにかく

生きまくって、それで死んだときに終端の

見えない生も悪くはなかったんだぞって

見本見せてやらねぇと…な?」


俯くレヴァンに優しく諭すようにズィマは

囁く。


それも確かに一理あるのかもしれない。

凍てつき死ぬ事だけに囚われていた心の

一部が溶けだしたような感覚を覚える…


…けれど。


「…それでも人間の血は飲めない…

例え飲めたとしても、理性が限界の今、

きっと飲み始めたら自分が止められなくて

吸い殺してしまいそうで…」


「…人間じゃなきゃいいんじゃね?」


弾かれたようにレヴァンは目を開いた。


この人は一体何を言っているんだ…?


そんな彼に向かい、悪戯っぽい笑みを

浮かべてズィマは言葉を続ける。


「お誂え向きにいるじゃねぇか、ちょうど

お前の目の前に!

少々無茶しても大丈夫そうな餌がさ」


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