episode1―6
「どのような形であれ、人を手にかけた
罪を背負った化け物は人に滅ぼされる
のが良い…そう思って依頼料を高くして
長年待っていたのですが…」
レヴァンは視線をバルコニーへと向け、
自嘲しおどけるように言葉を続ける。
「どうやら僕が壊れた時に簡単に街へ
降りられないよう城の周囲に茂らせた
森が年を経る毎に深くなり、逆に人々が
来れないようにしてしまったらしくて」
そう言いながらゆっくり立ち上がり、
壁際に歩を進める。
そして彼は壁に飾ってある一本の立派な、
けれどどこか禍々しい銀色をした剣の
前に立ち、ズィマへと振り返った。
「ズィマ、貴方が初めてなんですよ。
ここまで辿り着けた方は…」
心底嬉しいのだろう…
まるで子供のように無邪気な笑顔を
向けてくるレヴァンにズィマは心を
締め付けられる。
忌々しい悪夢と孤独に取り付かれた彼が、
まるで鏡に映ったもう一人の自分のように
感じていた。
「人成らざる者の殺し方はご存知ですか?
確かに人成らざる者は再生力も生命力も
人間より遥かに強く、人間が使用する
ような武器では致命傷を与えるには
むずかしい…
けれど、どんな種族の者にも共通の弱点
があるんです。
…魔術師ギルドはこれを使って僕達を
炙り出し駆逐したんですよ」
「あ、おい!」
剣の方へと振り返り、それをレヴァンが
持った瞬間、彼の手から噴き出すように
煙が巻き上がり、辺りには肉の焼け付く
ような焦げた臭いが立ち込める。
ガランッ!
ズィマが慌ててレヴァンへ駆け寄り、
剣を叩き落とす。
重い金属音を響き渡らせ、剣は床へ
転がってゆく。
「…君には…人間にはこの剣がさぞかし
神々しい物に見えるのだろうね?」
レヴァンは痛みで額に脂汗をかきながら
火膨れのように爛れた手を庇い、荒い
息をついていた。
「聖水で浄められた銀でできた剣…
僕にはこれほど不気味な色に見える物は
無いんですが、でもこれが永遠に続く
僕の悪夢の終端へ導いてくれると思うと、
その色さえ愛おしく感じてくるから
不思議なものですよね…」
ズィマへ向き直り、弱々しく微笑む。
「この城の地下には、人間が欲しがる財宝
や魔術書が処分しきれない程ある。
多分、どんな贅沢に遊び暮らしても
人間の寿命が尽きる前に使いきる事は
出来ないだろう。
それをズィマ、全て貴方に差し上げる。
…だから、僕を一息に殺してくれないか」
お願いだ…
もう、愛した者の断末魔で朝を迎えたくは
ないんだ…
すがりつき、消え入りそうな声でそう
訴えるレヴァンに戸惑いながら、やがて
彼は口を開いた。
「悪い……俺にはできない」
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