episode1―2


生い茂る草木をかき分け、石壁へと手を

掛ける。

随分年月を経ているという話だが、思った

程には朽ちている様子もなく、この状態

ならば何とか登れそうだと胸を撫で

下ろす。


下手をすれば壁の残骸やらの発掘してから

探索をしなければならない可能性も

少なからずあったのだ。

それを考えれば少々高いこの壁を登る

くらい楽なものだ。

表面は所々に穴も開いているので足場も

あり、却って登りやすいかもしれない。


日はすっかり暮れていた。

元々人気のない森の中は、月明かりも

あまり差し込まず、昼間以上に闇に

閉ざされている。


闇の中に吹く風を頬に受け、大きく深呼吸

をした後、登る準備をし始める。

やがて彼は手際よく探索用の小さな灯りを

くるりと手首に巻き付け、腰に結わえて

いた大きな鉤爪を器用に使い、慣れた様子

で壁を器用に登り始めた。


「…でっけぇ城…」


壁を登りきった先に見えたのは蔦で大部分

を覆われた大きな城。


恐らく、遥か昔は白亜の美しい城だったの

だろう。

辺りを見回せば、眼下には広い庭園の跡

なども見受けられ、人々が居たであろう

痕跡があちこちに窺える。


…そんな城も今は廃墟と化し、木々の緑と

同化してまるで隠れるようにひっそりと

佇んでいた。


彼は気合いを入れ直し、更に上へ登る

べく、蔦を避けながら登り始めたその時…


カチャリ…キイィ…


少し上のバルコニーらしき所で鍵が

外れ、窓が開くような物音…そして廃墟で

点くはずのない光が灯された。


壁にできるだけ身を寄せ、息を殺して

身を潜めていると、やがてその部屋から

ポーン…と音が聞こえ始めた。


…オルガン?


その音は徐々に連なり緩急が付いた繊細で

美しいメロディーを紡いでいく。

風に乗って聞こえてくる曲は聞いたことの

無いものではあったが、どこか懐かしく、

そしてどこか寂しさを含んでおり…


人々に忘れられた筈の城。


辺りは闇深い森に囲まれたこんな所に

まだ人が住んでいるというのだろうか…?


……人?


彼は思い出す。

依頼書にあった文字を。


…化け物。


彼は唇を引き締め決心し、バルコニーへ

向かい、再び登り始めた。

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