episode5―21
毒が7つ…
ズィマに使われた毒が神経毒だとして、
蝙蝠に使われたのが即効性のある毒5つ。
残りは遅効性の毒だとして、一体どこに
使われている?
「それは頼まれた数どおりに作ったの?」
「いえ、頼まれたのは遅効性の毒で他に
何か作れる物があれば…って感じで後の
物は言われただけ」
遅効性の毒が本命という訳か。
レヴァンがズィマの頭の上で考え込む。
情報を纏めるにはまだ時間が掛かり
そうだ。
「それっていつ頃の話? 相手はどんな
人かは覚えてない?」
「確か、サーカスに雇われてすぐ位に声を
掛けられたわ。
体格がわからない大きめのコートを着て
フードを深く被ってた上、ピエロのマスク
をした状態でこんな木箱に座っていたから
何もわからないの。
今から考えるとそんな姿で毒物を頼む
なんて怪しすぎるわよね…、魔術でお金が
貰える事に浮かれすぎていたわ」
ズィマは間を繋ぐように彼女へ質問するが
首を横に振り、申し訳なさそうに答えた。
「ありがとう。
また何か気付いた事があれば教えて?」
『あぁ、最後にもう一つ。
サーカスの団員は貴女が魔術師だと知って
いるんでしょうか?』
「団長には面接の時にチラリと言った気も
するけど、興味もなく聞き流された感じ
だから覚えていないんじゃないかしら?
…それより約束! 忘れないでよ?」
『わかってますよ、明日までに用意して
おきますから』
大体、大まかには彼女から情報は聞けた
だろうか?
とりあえず、仕事もあるだろう彼女を
いつまでも拘束する訳にはいかないので
明日魔術を教えると約束し彼女を返した。
姿が見えなくなるまで見送り、ズィマは
盛大にため息をつく。
「…魔術の事全然わかんないし、胸ぐらを掴まれたり、筋肉馬鹿っぽい胡散臭い中年
とか言われたりさ…ちょっと酷くない?
結局俺って言われっぱなし、されっぱなし
の被害者じゃんっ」
『人間から見れば僕達なんてヨボヨボの
年寄り以上の年齢なんですから、随分
若く見られてよかったじゃないですか』
「本当の年齢と見た目は違うでしょ!
あーぁ、やっぱ400年も過ぎると見た目も
衰えちゃうのかなぁ…やだなぁ」
胡散臭い中年という言葉が余程堪えたの
だろうか? ズィマは自分の頬を両手で
挟み込み、少しでも若く見せる為に上へと
引っ張る。
『…500年位じゃありませんでした?』
「まだ500年は越えてない!」
レヴァンが即座に突っ込めばズィマは
妙にムキになって訂正をしてくる。
どうやら彼にとって、その辺りは多少気に
している所らしい。
「女性じゃあるまいし…」
「それより本当にミリアに魔術教えるの?
さっきの話からすると、それって凄く
もったいないことなんじゃないの?」
レヴァンからの更なるツッコミを避ける
かの如く、慌てて話題を変えようとする
ズィマ。
必死にも見えるその姿にレヴァンは笑いを
隠せない。
『彼女が毒物を作って売ったのは、魔力が
少ないせいで魔術に自信が持てず、自分の
存在意義を見出だす為にした事。
ですから、この増幅魔術を彼女が発表
すれば、同じように魔力不足で悩む人は
少なくなるはず。
それに、彼女のように魔力が少なくても
工夫や努力次第で新しい魔術が作れるって
前例があれば、つけ込まれてこんな風に
利用される人も減るでしょうしね』
レヴァンは片羽をパサパサ動かし、彼女の
去った方向へと目を向ける。
『恐らく大勢の魔術師が使うようになる
魔術ですし、下手に発表して有名になると
困るので放置していたんです。
却ってこの機会にあの人が作り出したと
発表してくだされば丁度良いですよ』
「彼女、努力せずに棚ぼた状態だけどな」
ズィマはぺろりと舌を出して悪戯っぽく
笑って見せれば彼も苦笑いの声を漏らす。
『まぁ、偶然の出逢いも実力ですよ。
それにこれで一気に彼女の地位が上がって
しまえば、彼女も言ったように僕達の事は
誰にも話せなくなりますから…ね?』
「レヴァンってさ…策士だよね…」
レヴァンの言葉に思わずズィマは首を
竦めて見せるのであった。
「でも結局罠に引っ掛かったのは犯人じゃ
なかったな…」
ズィマはそう言いながら空を仰ぐ。
せっかくロウにも協力してもらった誘き
寄せ作戦だったが、本命は現れず。
「情報は手に入ったけど、本命へと繋がる
ものは毒物だけか」
『そうですか? ミリアさんのおかげで
色々わかりましたけど』
「だよなー……は? えっ、ええ?」
さらりと言うレヴァンにズィマは思わず
声を張り上げる。
『まずはミリアさんに作らせた遅効性の
毒が本命だということ。
まだ目的はわかりませんが、いざという
時にはミリアさんに罪を被せるつもり
だったのでしょう。
…さて、ここで問題です。
ミリアさんが魔術師である事を団長以外
では誰が知っていたでしょうか?』
レヴァンからの突然の問題。
ズィマは戸惑いつつも頭を捻るが、すぐに
両手を広げて降参のポーズをとった。
そんなもの解るわけがない。
「だいたい、俺だって彼女とそんなに
面識も無いのに知る訳ないじゃないか。
親しい友人か同じ魔術師じゃないの?」
『はい、ご明察』
「えっ」
『全くその通りですよ。
魔術に自信の無い彼女が実は魔術師だと
言える程に親しい人、もしくは同業者』
「魔術師同士もわかるの?」
『ギルドに所属すれば支給される指輪が
ありますから、それを着けている所を
見掛ければレベルだとかの判断はある程度
つきますね』
「じゃあ、レヴァンがサーカス内にいる
他の魔術師を見つければ…」
『他の魔術師に罪を着せようとしている
所に自分が魔術師です、という印を見せる
様なことをしないと思いますけど?』
あぁ、そうか…とズィマは頭を抱えた。
「なら、彼女を呼び戻して更に詳しく
聞く?」
『僕達が調べているのがバレると厄介です
から明日来た時にでも聞きますよ。
…何かマズイ事でも起きたみたいですし』
「……!」
「ズィマさぁん!」
レヴァンは話しを止め、振り返る。
ズィマも同じく振り向けば、遠くから
ロウが駆け寄って来るのが見えた。
「助けて下さい、なんだか獅子達の様子が
おかしいんです。
急に吐いたり転げ回ったり…今までこんな
事は無かったのに」
ただならぬ様相に、ズィマとレヴァンは
顔を見合せる。
…嫌な予感が胸に沸く。
半ば確信にも似た想像…
彼らは急いで獅子達が居る檻へと走り
出した。
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