111 お嬢さまのラヴソング


 ………………


 ……それから、わたしと宗樹は幸せな学園生活を、何事もなくラブラブに過ごしました。


 ……と言えれば良かったんだけど、現実はそうはいかない。


 悲しいなぁ。


 ………………


 

 蔵人さんの歌うCards soldierの新曲を作るために『西園寺』でお泊りしたのは、いつだったんだっけ?


 それはせいぜい、三、四日前で、そんなに時間がたっていないはずなのに、ずーーっと前に見た夢だったんじゃないか、って思う。


 あれから、蔵人さんの歌う新しいCards soldierの歌は、無事に完成した。


 そして、土曜日のお昼から、Cards soldierは本格的に練習は開始し……


 わたしの方は、って言うと、月曜日になってから宗樹の立てた計画通り、各部活動をお手伝いすることになったんだけど。


 それが、どーーしても上手く行かない。


 いや、宗樹のマネージメントした、各部への助っ人順番計画は完璧よ?


 上手く行かない一番の問題は『わたし』にあったんだ。


 今朝もまた。


 宗樹のスケジュールに従って、弓道部の朝練習に間に合うように早く家を出た。


 JRの駅は相変わらずやたら混んでいて、何度頑張っても、やっぱりわたし、ひとごみが苦手~~


 どーやってこの、たっぷり詰まったヒトビトの間を抜けて、学校に行こうかって。


 行きかうヒトを眺めながら、わたしは、ため息をついて、ここ数日のコトを思い出していた。



 ---華道部---



「さっ……西園寺さん! お花っ! 切れてます! 真っ二つに切れてますっ!

 このままだと、ものすご~~く、斬新な感じに仕上がっちゃいますけど、いいんですか!?」


「……あ」


 華道部部長の焦った声で、手元を見ると、茎の長さをそろえるために横に切るはずのお花を、縦割りにちょん切ってた。


 本来なら、一本立ちの姿が美しいはずの花が、へにゃっと崩れるように倒れている。


 他にも……剣山に刺した花が、葉が適当にぐさぐさと突き刺さり、どー見てもコレは『お花』じゃない。


 斬新過ぎる作品は、とてもヒト様に見せられるものではなく。


 わたしは、とうとうため息をついた。


「すっ、すみません~~やり直します~~」



 ---社交ダンス部---


「あの……西園寺さん。……足。

 今、僕の足をぐりぐり踏みつけてますが~~」


「へっ?」


 お手本のダンスの実演中。


 申し訳なさそうな声に足元を見ると、確かに。


 わたし、ダンスパートナーである男子部員の足をダンス用のハイヒールで力一杯踏みつけていた。


 この部で一番上手な『ダンス部の王子様』だそ~~な。


 でも、宗樹や、蔵人さんや、神無崎さんに比べてだいぶ落ちるイケメン君が、目に涙を一杯ためて、わたしを見てた。


「うぁっ! すっすみませんっ! 足、大丈夫ですか!?」



 ---テニス部---


「きゃーーっ! 西園寺さんが打った球が、部長の顔面を直撃したっ!」


「うっわ~~! すみませんごめんなさいすみませんごめんなさい!」


 ……………


 ……はぁ。


 もぅ~~や~~だ~~


 普段なら絶対やんないミスばっかりしまくって、わたし、自分が本当にイヤ~~!


 今までちょっとやればすぐ、何でも出来たのに、なんで急に何もできなくなっちゃったんだろう?


 多分原因は皆が、わたしを見てるから……かもしれない。


 わたしのひと混みが苦手な理由もそうだけど、皆の見つめる視線にある。


 皆が見ている中頑張ろうとすると、変に緊張して身体が動かなくなっちゃうのが原因の一つに違いない。


 部活勧誘騒ぎで、君去津高内どこに行っても、何をしても注目されてしまうのが嫌なんだ。


 でも、それだけじゃない他の大きな落とし穴もあるような気がする。


 そんな、一番の原因が判らない、今。


 これから弓道部の朝練習に付き合うつもりなんだけど、今日も絶対上手く行かないフラグが、バッチリ、しっかり立ってるようで。


 も~~スッゴく憂鬱~~


 なんか、今日はガッコ行きたくないなぁって、宗樹に負けないような大きなため息をついた時だった。


「理~~紗」


 優しい声がして、ばふっと誰かがわたしを後ろから抱きしめた。


「宗樹!」


「今日も一緒にガッコいこうぜ!」


 わ~~い♪ 宗樹だ~~


 大好きな声に、下がっていたわたしの心は急上昇して、今まで憂鬱な気持ちが一気に吹き飛んだ。


「うん! 今日もよろしくねっ!」


 なんて。落ち込んでても宗樹の声に反射的に、元気に返事しちゃうわたしって~~


 自分でも、ど~~かって思うけど、仕方がないじゃない!


 だって、宗樹が大好きなんだもんっ!

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