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この声は、蔵人さん……かな?
もしそうなら、最初に会った時の歌とちょっと印象が違う。
今日の歌は、なんだか静かなバラードみたい。
単純な音の大きさって言うなら、そんなに大きくなくても波の音しか聞こえない、朝の通学路では、十分だった。
切ない感じなのは、蔵人さんの『歌』の特徴みたい。
この前は、海と桜と風が見えるような、迫力ある鮮やかな景色の歌だった。
そして今日は、切なさの上に『誰かのコトが大好き』なイメージが重なって、恋の歌みたいに聞こえる。
相変わらず歌詞なんてないけれど。
本人も含めてみんなが『音痴』なんて言ってるのが、どー聞いても信じられない。
どんな歌い方でもキレイだな~~
なんて、声に誘われて金髪の主を探せば……いた。
蔵人さんが、大きな岩の上に座って、ぼんやり、つぶやくように歌ってる。
その様子が、まるでBGMつきの『絵』を見ているみたい。
今日の服はみんながフツーに着ている君去津の制服はずなのに、朝日に照らされ歌う姿を見れば、特別なステージ衣装にも見えた。
とびきりのイケメンって、お得かも。
ただの制服をこんな風に着こなせるのは、多分、蔵人さんの他には、宗樹と神無崎さんぐらいだ。
蔵人さんの歌う歌も、彼を取り巻く景色も、とてもとてもキレイだった。
思わず声をかけることも、時間も忘れて聞き入ってたら、蔵人さんの方がわたしを見つけたみたい。
歌の最後のフレーズがそっと風に溶けて消えて。
心の中の余韻も鳴り止んだ絶妙のタイミングで、かなり高い岩の上にいた蔵人さんが、わたしに向かって手を振った。
「やあ。今日も早い、ね」
耳が壊れてて、補聴器が無いとほとんど聞こえないそうな。
独特の節回しのしゃべり方をする蔵人さんは、はにかんで笑うと、岩の上からわたしの近くまで降りて来た。
その様子が、ふわり、と身軽で、蔵人さんの肩には翼が生えているようだ。
銀に近いプラチナブロンドの髪に、青い目……彼は自分の名字『ライアンハート』の中に入ってる『ライオン』より、天使に見える。
いつもながら。
「やっぱり、蔵人先輩の『歌』ステキです~~」
ため息と一緒に素直な感想を言ったら、彼は嬉しそうに笑った。
「そんな風に言ってくれるのは君だけ、だよ」
「おとといの歌も良かったんですが、今日のは、もっとキレイです。
『大好き』が一杯詰まった、優しい歌だなって」
「ふふふ。
だとしたら、僕。
君のコトが好きなのかもしれない、ね」
「……へっ?」
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