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「べっ……別に遊びに来たわけじゃ……」


 無いって言いかけて……やめた。


 やることなすこと、全~~部お仕事だのお役目だのの一部になってるみたいな宗樹にとって。


 わたしの『オトモダチを作る』って言う目標は『お嬢様の気まぐれ』以外の何物でもない……よね。


「……遊びかも……」


 しょぼん。


 落ち込むわたしに、宗樹は柔らかく笑った。


「別に、あんたは何をやっても良いんだよ。

 俺の……藤原家の主(あるじ)なんだから。

 あんたのやりたいことを、滞りなく支えるのが、俺達の役目なんだし。

 ただ、直接会って手伝う俺の……心の準備が、整えて無かっただけだ。

 もう、執事にしか道が無く。

 お嬢さんがどんなヤツでも動じねぇ『オトナ』だったら良かったのに。

 今からだったら、未来(さき)をどーとでも変えられるかもしれねぇ。

 そんな幻想で、心がグラグラ揺れてんのが、自分でも判る。

 この感覚がすげー気持ち悪くてさ。

 改めて、西園寺が嫌いになったくらいだ」


「……宗樹」


「お嬢さんに惚れるのは良い。

 執事になるんだったら当然だし、許される。

 だけど、お嬢さんを自分のものにすることは、執事であるかぎり、できねぇ。

 執事は、お嬢さんにふさわしい相手が見つかったら、そいつのために、ぴっかぴかに磨き上げて渡すのが、仕事だから」


「……」


「裕也が、お嬢さんにふさわしい相手かどうかなんて、当~~然まだ判らねぇけれど。

 裕也がお嬢さんを欲しい、って言葉に、ここまで心を乱しちゃいけねぇんだよ。

 ……それなのに」


 と宗樹は、また、大きなため息をついた。


「だから、昨日の帰りから執事の仮面を被っていようと思ったのに。

 お嬢さんの『執事じゃない』発言でまた、心が揺れる。

 裕也にお嬢さんを取られたくなくて、心が急(せ)いて、今日は駅に早く来ちまったくらいだ」


「そ、それって宗樹。

 あなた、もしかして……」


 長い話に、宗樹の想いが込められていて、わたしは思わず上目遣いで聞いていた。


「わたしのこと……すき?」


「好き」


 どんな形であれ、一生付き合っても、良いくらいには。


 そうつけたして、宗樹は、長い睫毛の目を伏せた。


 その様子を見て、わたし、そっか、良かったってため息をついた。


「昨日、宗樹も西園寺のこと、嫌いだって言ってたし。

 神無崎さんからも、宗樹が藤原家から逃げ出したがってるって聞いてたから。

 本当は、わたしのコト大嫌いなのに『お役目』だから、無理やり居るんじゃないかって思って……ちょっと……かなり。

 胸が痛むほど、悲しかったんだ」


 ……だけど『好き』かぁ。

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