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……そろそろ『彼女』に昇格してもいいかな、なんて言ってたヤツにまで、電話かけているのが信じられなかったけれど。
もっと信じられないのは、落とす対象であるはずのあんたにも、無茶なコトはぜってぇしねぇ、って真剣に誓うし。なるべく短気も起こさねぇって言う。
今回ばかりはコイツ、本気だなって思った、なんて宗樹はわたしを見つめて話した。
「女グセが悪りぃのと、気に入らねぇヤツへ簡単に喧嘩を売ることを抜かせば、裕也はすげーヤツだからな。
これから先も側にいりゃ、あんまり他人(ひと)がやらないことを見られそうで、面白い。
無茶なことをしねぇように、時々気をつけておいてやれば、多分。
お嬢さんにぴったりな相手になるかもな……って思ったらさ。
……すげー苦しいの。
この胸が」
宗樹自身、本当に苦しそうな声を出し、天井を見つめた。
「西園寺のお姫サマは、神無崎の殿サマと幸せになりました。
めでたし、めでたしって、それでいいじゃん?
……なのに、俺……なんか変に納得できなくてさ……莫迦みてぇ」
「宗樹」
「執事ってさ、仕える主人に惚れんの。
そうじゃなきゃ、主人の要望に完璧に応えて、守り。
普段の生活を快適に過ごしてもらうことなんざ、できねぇから。
……だから。
ずいぶんとガキの頃、お前が将来仕える主人はこのヒトだって、あんたを紹介されたとき……少し……嬉しかったんだ」
子どものころから『西園寺のため』って言われ続けて、習い事を詰め込まれてる生活がイヤだったと、宗樹は言う。
「遊ぶ時間もほとんど無くてさぁ。
自由を奪ってゆく西園寺が、最悪に嫌いだったんだ。
けれど、西園寺の庭園で楽しそうに遊ぶお嬢さんを何度も見てるうちに気が変わった。
あんたの世話をするのなら西園寺も、それに仕える藤原も、そう悪くねぇって思ってたんだよ」
「ええっと、わたし、宗樹とそう、何度もあったっけ?」
「いいや。
俺とあんたは『オトモダチ』じゃねぇからな。ちゃんと引きあわされてたのは、一回だけだ。
あとは小等部……小学校の期間の時に、何回か俺が勝手に会いに行ったのと。
他は用があって出入りするオヤジやオフクロについて行ったときに、俺が一方的に見てただけ」
その、子どもの頃の想いのままに、一気に二十歳をとっくに越えた大人になって。
一人前の執事になってから、お嬢さんと会えれば、何も問題なかったのに、と宗樹はため息をついた。
「……なのに、あんたが俺と同じ学校に入るっていうじゃねぇ?
西園寺の執事になるのなら、セレブリティの生活も、一般の生活もきちんと判って無くちゃいけねえことになってるからな。
海外の一流執事養成学校に入る手前、高校か大学で、一度一般人と混じることになってたし。
めんどー事に巻き込まれた裕也を放って置けねぇから、高校を公立にすることに決めたけど。
あんたは、ただ遊びに来たんだって?」
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