お嬢様の危機

54 お嬢さまの危機。 ☆

「やっぱさぁ、お嬢さん。

 電車通学だけは、止めた方がいいんじゃねぇの?」


 宗樹にしみじみ言われて、わたしは肩を落とした。


 しょぼん。


 あ~~あ。



 あこがれの公立高校生活、二日目。


 相変わらず、見事なピアノ演奏でわたしを起こしに来た爺には泣かれたけど、もう大丈夫だと思った。


 一人でもちゃんと電車が乗れるようにスイカを購入し。


 コックさんにお昼のお弁当も作ってもらい。


 念のために現金も用意して、今日は登校バッチリ!


 ……のはずだったのに~~


 たった二日目じゃ、ヒトの多さにはちっっとも慣れず、やっぱり今日も流される。


 道行く人に押され、あ~れ~~なんて、心の中で叫びながら、目を蚊取り線香のようにくるくる回している所で、ひょいと手首を取られた。


 そして今日、世界が終わるかと思うぐらいの、大きなため息が聞こえたんだ。


「お嬢さん、あんた真面目にガッコへ行こうと思ってる?」


「もちろん~~頑張ってます~~」


 あきれ果てた宗樹の目の前に、決意の印の握り拳を出してみたんだけど。


 宗樹は、あっさりぱーの形を出してわたしの拳骨を握りこんでしまった。


「お嬢さんの、負け」


「じゃんけんじゃないもん!」


 わたしが頬がぷぅ、と膨らませば、宗樹は困ってこめかみあたりをぽりぽり掻いた。


「……しかたねぇ。君去津駅までは送ってやらぁ」


「はい、十分でございます~~」


 宗樹は西園寺家の敏腕執事な爺の孫って立場の他に、君去津高校のバンドCards soldier(カーズ・ソルジャー)の一員、クローバー・ジャックの顔を持ってる。


 ものすごい人気の彼と一緒に学校まで登校した日には、わたしの目指した普通の生活って言うヤツが完全崩壊するに決まってるんだ。


 きっ……君去津駅は、朝から幽霊出そうな迫力満点の駅だけど!


 お化けより怖い人ごみさえなんとかなれば、フツ~~に通学ぐらい出来るもんねっ!


 そう思っている側から、また人に流されそうになり……


「うぁ、一瞬たりとも目、離せねぇ!」


 小さくつぶやいた宗樹がまた、わたしの肩を抱くようにして人ごみを避けてくれた。


「お……お世話になります」


「ふん」


 宗樹は、そっぽを向いたけど、それで却って彼のすっと伸びる首筋と鎖骨の辺りが近くで見えて、ドキッとする。


 もし、こんな人ごみから、守ってくれるんじゃなかったら。


 こ……恋人同士って思われても良いぐらいに、近い~~

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