55

 宗樹は、男子なのに『キレイ』って言葉が似合うぐらいのイケメンさんだし。


 スッゴくかっこいいから、わたしは全く構わないんだけど……


 宗樹の方は、電車を利用するヒトたちから、恋人同士みたいに見られたらイヤかな? やっぱり。


 ……って!


 誰も見てないか、そんなモノ!


 大体、電車混み過ぎて、みんな自分を守るだけで、必死!


 かなり、切羽詰まった面白い形相で、電車になだれ込んで来る。


 けれども、わたしだけ宗樹に守られてて、全然平気。


 頼りになるなぁ。


 あったかいなぁ。


 あれ? ホントに微かで今まで気がつかなかったけど、実は宗樹、いい匂いしてる~~


 ボディシャンプーかな? 香水かな?


 何だか安心するいい匂い……


「……おい、眠んなよ?」


 突然宗樹に言われてわたしは、はっと気がついた。


「へっ……あれれれ?

 わたし、眠りそうだった?」


 確かに少し、ぼーっとしてたけれど……


「ああ。すっげぇ無防備で、俺に張り付いていた」


「うぁ、本当? ごめんね、重かったでしょう?」


「重かねぇけど、色々もたねぇ。

 今度、俺の腕ん中で眠りやがったら、食うぞマジで」


「えっと……体重かけたお仕置きに、頭からバリバリと……?」


「違げーよ!」


 宗樹は、電車で睨まれる寸前の声の大きさで。


 獣がガオンって咆えるように言ったけど、何が問題なのか、やっぱり良く判らない。


 ……ま、いいか。後で聞こ。



 今日は、特に何事もなく君去津駅についた。


 相変わらず外は晴れだってゆーのに、どよよよんとした空気の重たい古っ~~い駅!


 ココだけは、やっぱり苦手で一人で歩くのは、ホントに嫌。


 だから電車から、ホームに出た途端、わたしは宗樹に『またねっ!』って声をかけて、一目散に走りぬけようとした……のに。


 ばしっ、と音を立てて手首をつかまれた。


「え……と、あの? どうしたの、宗樹」


 なに? って首を傾げたら、彼は、思わず、みたいにつかんだわたしの手をゆっくり眺め……はっとしたように、慌てて手を離した。


「べっ、別に!

 今日は、顔の傷を隠す必要ねぇし、裕也とも待ち合わせてねぇし!

 もう少しゆっくり出来っから、君去津駅のすぐ外ぐらいまでなら送れるぜってこと!

 お嬢さん、この駅構内って苦手なんだろ?」


「ほんと!? 助かる~~」


 宗樹がいれば、何も怖くないし、とっても嬉しい。


 喜んで駅の外まで送ってもらうことにして一緒に歩き……


 改札手前で、はた、と気づいた。


「今日は特別、待ち合わせもないのに、なんでこんなに早く来たの?」


「う……」


 わたしの素朴な疑問に、宗樹はぴきっと、固まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る