第2話 参謀部!?
リア・シャノンは赤毛をたなびかせ、スカートから伸びるまぶしい白い足を存分にさらけだしながら、サトルとダンを意気揚揚と引きずって行った。その様子はさながらローマの凱旋将軍並であった、と後年目撃者は語った。
「どどどどどこまで行くんだ!」
ダンが絶叫する。ちょうど階段を下りており、ドスンバタンと彼の体が上下していた頃だ。
「部室よ!」
当然のように言い切るとシャノンは座学層をまわり、そこからずいぶんと重厚な扉の前で止まった。手書きの共通語でデカデカと「参謀部」と書かれていた。
参謀部とは、普通に考えたら軍隊の中に存在する、いわゆる総司令官などを補佐する幕僚集団のことだ。しかし、確かに彼女はさっき「部活」と言い、「部室」という単語を使った気がする。
「あなた達で最後!」
黒服の男たちはすさまじい膂力でダンを投げ飛ばし、扉を開けた。サトルはそのままズズズと引きずらて部室に入っていった。
部屋に放り込まれると、いつのまにか黒服の男たちはいなくなっていた。
部室はちょっとした見ものだった。
どうやら天然ものの繊維らしい赤じゅうたんが敷かれ、その中央にどうやら高級木材のテーブルが置かれている。20人くらいは座れるのではなかろうか。そして左右の壁には
扉から入った正面には大きなモニタが設置されている。
モニタはいくつかに分割されており、学園内部や、宇宙空間が映されていた。
気になる情報としては、どうやら星系図らしいものが書かれている。東方辺境領全域だ。
そして、テーブルには2人の少年少女が座っている。小柄で太った少年は落ち着かなさげに、少女はだまってお茶をすすっていた。
「自己紹介!」
リアがどっかりと上座に座って言った。なかなかのドヤ顔だ。しかし端正な顔立ちと何となく感じる威厳のせいか、実に絵にはなっている。そしてこれがこの傍若無人が服を着て歩いているようなリアの歴史的イベントであることはまだ誰も知らない。
少女がすっと立ちあがった。
涼しげな顔だちの少女で、銀色に近い髪の毛をさらりとまとめている。サトルは月世界市の古い人工光で育つとああいう色合いになると聞いたことがあった。
「エリカ・コーカです。得意技は……いえ、特技は……」彼女はためらうような表情を一瞬みせた。「特技は武芸全般です。よろしくお願いします」
着席。ダンがヒューと口笛を鳴らした。そしてサトルにささやく。
「あの娘すげぇな……見た?」
「何を……」
ダンがエリカの胸のあたりを凝視している。視線をそっと追うと、まさにはちきれんばかり。サトルは思わずゴクりと喉をならしてしまった。
「……何か?」
「いや……」
エリカの冷たい視線がつきささる。どこを見ているのかバレている気がした。
「ボクはアーサー・ホフマン」
もう一人の少年が立ちあがって自己紹介した。
小柄で太っている。しかし目は深い青みを帯びた美男子といっても過言でもない形状をしている。髪の毛はゴージャスな金髪だ。
「ミリタリーマニアで……」
そういえば、さきほど学園のドームの外側を通過していた軍艦の名前などを叫んでいた学生がいたが、それが彼だったかもしれない。
「長い! 以上!」
リアがさえぎった。アーサーはこの上なく悲しそうな表情をして「理不尽な……」と言いかけていたが、リアが強引に黙らせてしまった。
「あと1人いないけど、これがあたし達の部活!」
(……やはり部活なんだ……)
サトルはその普通じゃない発想に少なからず興味を覚えた。
「この部活の目標は、帝国を! 倒すこと!」
その言葉と同時に全員が目をむいた。
――
すべての公爵領を象徴する
(その帝国を倒すだって?)
サトルはまじまじとリアを見つめた。
リア・シャノン。帝国伯爵であるシャノン家と関係があるらしいこの少女はとんでもないことを言っている。たとえシャノン家が10年ほど前の冬戦争の英雄だったとしても。
「な、な、何を言ってるんですか!」
アーサーが立ちあがる。
「帝国どころか、この太陽系にある帝国の飛び地……
汗がどばどばと出ている。
「知ってますか?
「シャラップ!」
なぜ古代標準語からは分からないが、リアがアーサーを黙らせた。
「この学園は知っての通り、宇宙軍に所属するシャノン家の私設軍隊のための学園よ……」
しかしそれをアーサーが大声でさえぎった。
「戦艦を持てるのは本来は公爵クラスのはずです! 伯爵家ならせいぜい軽巡洋艦くらいのはず。飛び地で爵位をもたない月世界市が旧式とはいえ戦艦を持ってるのが異例なんです。あきらかにシャノン家の監視目的でしょう。もちろん辺境の伯爵家なら駆逐艦くらいなら10隻単位で所有している領地もあると聞きますけど……」
「さっき上空を通過した艦艇、あれは全部ウチの練習艦よ」
アーサーが目をしばたかせた。
「練習艦って……強襲揚陸艦もいましたよね? フツー商船ライクな、せいぜい退役駆逐艦くらいじゃ……」
「練習艦よ。帝国の法律には身分によって保有する戦闘艦艇を規制する法律はあっても練習艦に対する規制はないのね」
「え……」
「さて、ここでなぜあたし達参謀部にサトル・ユダを招いたか!」
リアがこちらを見据える。
きらきらと目が情熱で輝き、あふれんばかりのエネルギーを感じた。
「サトルは経理を勉強してたからよ!」
再び部室が静まり返った。
「……よろしいですか?」
エリカが手をそっとあげた。
「……何の関係が?」
サトルは黙っていた。なぜなら経理を学んでいたからこそリアの真意が分かるからだ。
「経理って、あれだろ? なんか帳面つけたりするんだろ? オイラの木星鉱山の会社とかもそれくらいはやってたし」
「だいたい合ってる。重要なのは、サトルに学園の練習艦隊の調達、運営費、その他の経理を任せようと思ってるってこと。つまりいかに帝国を出し抜いて戦闘艦隊を作っていくかってことをね」
もちろん
(……できるだろうか……?)
「お話はわかりました。ですが……」
エリカが周囲を見回す。
「もれたらかなりマズい話ですよね? なぜ私たちなのですか?」
「そっそうですよ! なぜボクたちを?」
アーサーも追随する。
「オイラは面白そうだと思うがな」
ダンは腕組みをし、白い歯を見せて微笑みを浮かべた。
サトルは奇妙に思った。なぜ全員が、この話が外にもれることを気にしているのだろう。なぜ誰も反対そのものをしていないのだろうか、と。
「色々調べさせてもらってるのよね」
リアが周囲を見回し、邪悪な笑みを浮かべた。
「それぞれに帝国に逆らう理由がある。だからこの学園への入学も認めたしここにスカウトしてきたのよ」
リアは昂然と周囲を見回した。
「どう? 全員賛成?」
反対する者は誰もいなかった。
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