第7話 実戦
サトルは目を覚ました。
白い壁、白い天井。雑然と固定されている何かの器具。
……病室だ。おそらく艦内の医務室だろう。
身動きするとズキリと頭痛が走った。
何となくやる気をなくしてサトルは体をベッドの上に沈めた。
軍用の簡素なベッドで少し堅い。
「……もう起きられましたか?」
物静かな声がしてそちらに何とか視線を送るとエリカがそこにいた。
ずっといたのだろうか、目の周りにクマができ、心なしか疲労しているようだった。
「すみません体が勝手に動いてしまって、貴方を壁に叩きつけてしまったんです」
多少は申し訳なさそうな感情がこもっていた。サトルは何となく消化し難い気持ちを感じたがそれは押し殺した。
どうやら仮想敵として乗り込んできたのはエリカ達だったらしい。
すさまじい技で銃を撃つどころではなかった。
「……いやもう大丈夫だよ」
「そうでしょうか? その…あまりに銃を構えるのが遅くて射線がふらついていたので飛び込んでいって当身しようと思ったんですが、あまりにスキだらけなので腰をつかんでそのまま壁に叩きつけたんです。受け身もとれてないみたいですから結構まともに壁にぶつかったんではないかと……」
彼女は喧嘩を売りにきたのだろうか?とサトルはしばらく真剣に考えた。
しかしエリカの黒い瞳はあくまでまっすぐで、特に他意はないようだ。彼女はきっとド天然に違いないとサトルは結論付けた。
その時、突如として警報が鳴った。
ぎょっとして警報機のほうを見る。
――総員配置! 総員配置! これは訓練にあらず……繰り返す――
エリカの目つきがにわかに鋭くなる。
「……訓練じゃない……みたいですね」
「……みたいだね」
「失礼、わたしはすぐに艦に戻ります」
そういえばエリカはケンタウルス級強襲揚陸艦「メンケント」の乗員だった。
エリカは足早に病室を出ていった。
――総員配置! 総員配置! これは訓練にあらず……繰り返す――
警報が鳴り続けている。
サトルは上体を起こした。……頭が痛む。
しかしもし何か起きたのだとしたらこのまま病室で死ぬのは嫌だ。サトルはそう思った。
――シャノン家の重巡洋艦「オシリス」 ケンタウルス級強襲揚陸艦「メンケント」 クラテル級駆逐艦「アルケスX1」は
重力圏に入ることなく通過予定だった惑星系であるW2301A宙域でのことだ。
辺縁にあった大量の小惑星群から203mm砲弾と思われる攻撃が飛来した。
「参謀部」のウージン・ヤンは冷静に蛇行航行を指示しつつ装甲の薄い強襲揚陸艦「メンケント」 と駆逐艦「アルケスX1」を重巡洋艦「オシリス」で掩護するような隊形に変えた。
即座に駆逐艦「アルケスX1」の広域防空レーダーで小惑星群を捜索。
所属不明の軽巡洋艦2隻を発見した――
「ぶっつぶす!」
リア・シャノンが堂々と言い放った。
赤毛が波打ち、目が爛々と輝いている。
サトルは胃痛を感じたが、リア・シャノンはやる気だ。
「幸い所属不明艦ですしね」
ウージン・ヤンは目を細めて微笑んだ。しかしどことなく貼り付いたような、あまり感情を感じさせない社交的な微笑みだ。
「……反論は?」
サトルはかぶりを振った。
エリカ、ダン、アーサーの3人はそれぞれ別の艦に散っているので今「参謀部」の部屋にいるのはリア、サトル、ウージンだけだ。
「じゃ、やるわよ!」
リアが高らかに宣言する。
その瞬間から
――小惑星群を遊弋する所属不明艦は散発的な砲撃を仕掛けてきた。
2発ほどの砲弾が重巡洋艦「オシリス」をかすめる。
その返礼のように重巡洋艦「オシリス」は2基の203mm砲から砲弾を発射した。
宇宙空間の虚空をつらぬき双方の砲弾が交錯する。
しかし重巡洋艦「オシリス」の砲弾は徹甲弾ではなく榴弾だった。
小惑星群で飛散した榴弾は大量のアクティブ電子妨害装置をばらまいた。
ただでさえ浮遊物の多い小惑星群の中に数千発の電子妨害装置があらゆる手段の妨害を開始した。
所属不明艦は困惑したのか小惑星群から惑星系の恒星側へ抜け出た。
その瞬間をウージンは見逃さなかった。
榴弾発射と共にひっそりと強襲揚陸艦「メンケント」から飛び立っていたFA-12A「ペルセウス」8機が小惑星群を迂回し、待ち伏せしていたのだ。
FA-12A「ペルセウス」の編隊長ダン・リコは絶妙な角度とタイミングでやや下方から攻撃した。35mm砲が所属不明艦2隻を後下方からつらぬく。
宇宙空間にぱっと閃光が走った。
もちろん肉眼ではとらえられない距離だが重巡洋艦「オシリス」はそれを見逃さなかった。所属不明艦1隻は当たり所が悪かったのか爆発四散したのだ。
もう1隻は機関部に被弾したのかフラフラと不規則な蛇行を開始した。
明らかに推進方向に対し仰角と俯角がおかしくダメージを受けているようだった。
散発的に対空砲がうなっているようだが、FA-12A「ペルセウス」は大きく旋回し再度襲い掛かった。もう一度閃光。
所属不明艦は2隻とも破壊に成功した。
――これが
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