第9話 Dubnobasswithmyheadman

日曜日。SUNDAY。貴重な休暇だ。

私は前日の日本酒のせいか、胃が痛く頭痛がした。

冷蔵庫にあったドクターペッパーを飲んだら少し頭痛が解消された。ドクターペッパーはどんな症状にも効き目のある栄養ドリンクであると再認識した。


私の名はジョニー。ジョニー・ヤングマン。休日は大抵ドライブかひきこもって映画鑑賞をする男さ。


今日は体調悪いし自宅で撮り溜めた映画でも観ようか、と思っていたところ、突然スマートフォンがけたたましく鳴った。ちなみに着信音はドリフ大爆笑のテーマ曲だ。


「HELLO、どちら様?」

「ジョニー兄貴、オレっす。サブです」

「ああ、こないだ助けた少年か」

「実はまずいことになっちゃって……」


サブの声のトーンは暗い。何か深刻なことがあったのだろうか?


「改造したシボレーでハイウェイを飛ばしてたらトラックとぶつかっちゃって、そのトラックが道路から外れて対向車と正面衝突、びびって逃げようとしたら別の車にあたっちゃって、その車がハイウェイから飛び出して炎上、大破して、こりゃまずい、逃げなきゃと思ったらパトカーが3台追跡してきてなんとか煙に巻こうとカラーボールをフロントガラスに投げつけてパトカー3台とも衝突事故で潰したのは良かったものの新たな追っ手が迫ってきてるでやんす!」

「おいおい、懲役300年レベルじゃないか?マジでいってんのかい?」

「いやー全部実話っす。どうしよう兄貴」


私はコーヒーを軽くすすって、返答した。


「自首しよう、な?」


サブの声が慌てた様子に変わった。


「確実に死刑っすよ。オレ前科持ちになりたくねえっす」


しかし、他に良い手段が思いつかない。私は困ってしまった。


「キューバかドミニカ共和国あたりに亡命するしかないんじゃないか?」

「……うーん、それしかないッスね。パスポート作んなきゃいけないけど家から出たら追っ手がやってきそうで……」


サブは涙声になっていた。自業自得とはいえ少し哀れな話だ。


「よし、パスポート作るの手伝おう、きみの家の住所を教えてくれ」


サブによると彼はニューヨークのナイアガラフォールズの近くらしい。ここからかなり距離が離れている。

自動車よりもバイクのほうが早くいけるだろう。私はバイク運転用の赤いツナギを来て皮製グローブを両手につけてバイク置き場へ向かった。

私のバイク、V-MAX1100は145馬力の大型バイクだ。軽く改造して時速220キロまで出せる。弟分のサブを救うべく、V-MAXのエンジンをかけた。


急がなくてはサブが危ない。時速90キロで道路を飛ばし、赤信号も無視した。バイクの起こす旋風で通行人のレディのスカートがめくれあがった。そんなことも気にせず私は急いだ。


ナイアガラフォールズ。いわずとしれた世界最大級の滝だ。この近辺にサブが住んでいる。

私はスマートフォンでサブを呼び出した。サブとレストランで合流、まずは腹ごしらえしようと私とサブはジョンソンレストランという店に入った。


「ご注文は何にいたしますか?うさぎですか?」


ヒップの引き締まったウェイトレスが訊いてきた。私はアメリカンハンバーグセットとインゲン豆スープ、それからデザートにティラミスケーキを注文した。


「サブ、きみは何を食う?」

「今それどころじゃないッス。コーヒーだけください」


ウェイトレスが眉をひそめた。


「申し訳ありませんが、ここのコーヒーくっそまずいですよ?」

「じゃあ、ジンジャエール」


かしこまりました、とウェイトレスが店の奥に行くのを確認して、私はサブに尋ねた。


「追っ手は何人だ?」

「警察と、巻き込み事故にあったトラック運転手の会社の連中ッス。さっきもオレの自宅周辺でうるせえ音鳴らしながら出て来いコラって怒鳴ってました」

「急がなきゃな」


サブをV-MAXの後ろに乗せて私は国際パスポートセンターへ走った。

パスポートセンターの受付にキューバかドミニカ行きのパスポートを作ってほしいと頼むと受付はすぐにはできません、と厳しい表情で断られた。

こんなに切羽つまってるのに悠長なことはきいてられない。キャサリンに拳銃を借りて脅せばよかったがあいにく今の私には脅しの道具になるようなものはない。


「仕方ないなサブ。泳いでキューバへ渡るんだ」

「無茶ッスよ、泳げねぇッス」

「そうは行ってもすぐに追っ手が迫ってきているぞ」


窓から外を見るとパトカー4台とトラック6台が停まっていた。激怒した様子の男たちが車から降りてこちらに向かってくる。


「裏口から脱出だ!」


私はサブの手をひっぱって裏口へ向かった。トイレの窓から脱出してバイクを置いた場所へ戻る。


「兄貴、どうしよう」

「男ってのは弱気になったら負けだぜ。やつらをここで迎え撃とう」


スマートフォンでキャサリンに電話をかけて事情を話すと、あのバイオレンスビッチは承諾したと言って武器一式を持参してこちらにくると言い残して電話を切った。


「ニューヨークで一番凶暴なレディが助けにきてくれるぜ、サブ。安心しろ」

「兄貴、前!」


トラックがでかい音を出して突っ込んできた。玉砕覚悟の特攻だ。サブを後ろに乗せて私は急旋回してトラックを避けた。

キャサリンが来るまでなんとか持ちこたえねば。しかしこちらは丸腰。分が悪いのはたしかだ。


「キャサリンとはこことマンハッタンの中間で落ち合うことになっている。そこまで逃げるぜ」


サブはさっきから青ざめた顔をしている。私はサブのケツを蹴って気合を入れさせた。

元来た道を引き返し、バイクのアクセルを全開にする。V-MAXは期待にこたえるかのようにエンジンをウィンウィン鳴らしている。時速120キロで混雑した道路を突っ走った。


30分後、ようやくキャサリンと出会えた。汗をかいている私とサブにただならぬ気配を感じてか、キャサリンは背中に背負ったマシンガンのAK69を構えた。


「さぁ、誰から殺りましょうねえ」


殺る気まんまんのビッチは頼もしい。先ほどのトラック軍団がやってきた。キャサリンは発狂した猿のような奇声を上げてマシンガンをぶっぱなした。


銃弾はタイヤの前輪に命中、トラックが悲鳴のような騒音を立てて横転する。


「すごいッス、キャサリン姉貴」

「あなたにはこれをあげる」


キャサリンはサブに手榴弾を3つ渡した。武器の出処が気になるところだが後で訊くことにして、私もマシンガンを一丁渡された。

暴走トラックは残り3台。サブが放り投げた手榴弾は放物線を描いて、ドブ川に落ちた。しかも不発。


「もう、サブ君。しっかり狙いなさいよ」

「すいません、こういうの慣れてないッス」


サブがもう一度手榴弾を投げた。トラックのフロント部分で爆発、トラックは視界を失ったらしくあらぬ方向へと向かっていった。


「よし、残りは私が片付ける」


AK69には銃弾がすべて詰め込まれている。私はポケットの中のハンカチーフを頭に巻いた。ハチマキ代わりだ。うおおぉぉおぉ!とマシンガンを乱射する。

銃声と爆音が辺りに響き、トラック軍団は壊滅した。


「終わったわね、ジョニー、サブ君」

「いや、まだッス。警察連中もこの辺まできてるはずッス」


私はキャサリンに訊いた。


「このへんで身柄を隠せる場所はあるかい?」

「そうね、少し北へ行ったところに誰も住んでない洞窟があるわ。コウモリの住みかになってるけど人はいないわよ」

「しょうがない、ほとぼりが冷めるまでそこで息をひそめて過ごすんだ、サブ」


キャサリンを先頭に、私たちは無人の洞窟へバイクを飛ばした。山の坂道を登り、森林の中に入り、しばらく行ったところでキャサリンはバイクを止めた。


「ほら、あそこにコウモリの屍骸がたくさんあるでしょ、あそこの洞窟」

「半年くらいあそこで過ごすんだ。その間にキューバへ行くためのパスポートを作っておくから」


サブは思わず男泣きしていた。


「兄貴、アネキ、かばってもらってスンマセン!この借りはいつか返すッス!」

こうして一連の騒動はどうにか治まった。サブは洞窟に身を隠し、その間にパスポートを作って中米へ亡命。誰一人捕まることなく事態は沈静化するだろう。


私の名はジョニー。ジョニー・ヤングマン。大事な仲間のためなら交通違反も銃乱射も平気でやらかすちょっとおてんばな男さ。


to be continued……

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