第6話 Bad Boy,Good Luck

目覚まし時計が鳴る前におもむろに上体を起こし、周囲を両腕でブンブンと振り回した。


「悪魔どもめ、消えてしまえ!」


ふとわれに返った。

悪魔など最初からいなかった。また悪い夢をみていたようだ。

今日はサンデー。日曜日だ。特に予定はないが愛車で街を流してショッピングでもしようか。


私の名はジョニー。ジョニー・ヤングマン。最近ひどい夢ばかり見ている悲しい男さ。


服を着替える前に鏡の前でブリーフ体操をした。ブリーフ体操は文字通りブリーフ1丁で腰をふったりストレッチする体操だ。昨日テレビの健康番組で放送していたので録画したのだ。


録画したDVDを再生させた。


『はぁーい、皆さんブリーフ体操の時間よーまずはブリーフになって腰の運動♪』


ブリーフ姿でフンフンフン、と腰をセクシーに振ったり曲げたり。

肌に密着したブリーフに汗がにじむ。男の香りがブリーフにしみこむ。

ブリーフ臭香水なんて販売してみたら、年配の奥様あたりに売れるかもしれない。


『続いてはブリーフをつかった上半身ストレッチ~ブリーフのゴムを伸ばして肩にひっかけて♪』


私はブリーフを伸ばして肩にかけた。この状態を誰かに見られたらまずいだろう。しかし健康のため、多少恥ずかしいかっこうになるのは仕方ない。

その場でジャンプを4回して、ちょっと休んでまた4回ジャンプ。

ブリーフの食い込みがぎゅっと股間を締めつける。息切れとまではいかないが相当の運動量だ。


『以上、ブリーフ体操おしまいっ。使用済みのブリーフはくっせえから捨てちゃってね♪』


DVDを停止させた。体操のお兄さんはブリーフを捨てろなんていうが私にとっちゃブリーフは宝だ。

とびきり臭いものなら尚更だ。捨てるなんてもったいない。


シャワーを浴びて身体中の汗をタオルでぬぐって、10ドル剃刀でひげの処理もした。

尻の毛が最近もじゃもじゃだがあいにく剃刀が肛門まで届かず放置している。

まあいいさ、ケツ毛もさもさになったところで命に別状はないぜ。

外出用のYシャツとジーンズに着替えて、私は駐車場の愛車ミニクーパーのところまで歩いた。

黄色くてかわいくて人懐っこい車だ。今日はこいつに乗ってどこへ行こうか思案していたときだった。

駐車場の一角で男の悲鳴がした。バイクに乗った集団に1人の男が暴行されているようだ。

正義の味方を気取るつもりはないが、私はこういうのは黙って見過ごせないたちなのだ。彼らのところへミニクーパーに乗って近づいた。


「リーダー、変な車がこっちきてるぜ!」

「なにもんじゃーおまえはー……ぐえっ」


ミニクーパーで黒いリーゼント男をはねとばした。宙に3メートルくらい浮いた。

あれは肋骨にひびくらい入っただろう。


私は車から降りた。暴行されている少年はおびえており、残る敵は3人。

スキンヘッドの男が飛びかかってきた。


「私の名は、ジョニー・ヤングマン」


スキンヘッドの男に出会いがしらに目潰しをかまして股間を蹴り上げた。


まさに瞬殺。スキンヘッドの男はくちから泡を吹いて倒れた。


あと2人。ヒゲのながい巨体のジャンバー男と小柄で目つきの悪い黒人。


「おれたちとやりあおうってのかジョニ……があっ!」


黒人に、地面に落ちていたスパナを投げつけてやると見事に顔面にヒット。黒人は頭から血を流してその場に倒れこんだ。なぜ地面にスパナが落ちていたのかは謎だが、とにかく助かった。


「あとはあんただけだな、名前は?」

「本名は捨てた。通名はキング」


キングは拳をボキボキ鳴らしながら近づいてくる。


「なんでそこの少年に暴行をくわえたんだ?」

「おれたちのグループから抜けたいなんていうから制裁しただけさ。……人の心配より自分の心配してろ!」


キングの大きな拳を間一髪かわした。強烈な風圧。まともに食らったら一発で気絶しそうだ。


「暴力で物事を解決できると思ってるのかキング?」

「当たり前だろ。世界はすべて暴力による支配に成り立ってる」


       「キングのバカヤロウ!」


私はキングの右頬にストレートパンチを決めた。ぼきっと歯が折れる音がした。


「喧嘩なんて野蛮人がやるもんなんだぜ!」


頬の痛みに耐えるキングの左足にローキックをかました。


「暴力がすべてを解決できるなんて考えはもう捨てるんだ!」


キングの腹部に右フックをぶちこんだ。いい角度で入ったらしくキングは苦悶の表情をあげて仰向けに倒れた。

仰向けに倒れたキングに私は馬乗りになった。


「暴力で問題が解決できたことが本当にあるのか!?暴力による恨みは暴力によって返ってくるんだぜ!」


馬乗りになってキングの顔面に左右の拳をぶちこんでいく。


「拳の力で人を支配しようだとか、人を操ろうなんて悲しいことを若者がいってるんじゃないぜ!!」


ボコボコになって顔の腫れたキングの顔に思い切りツバを吐いてから顔面を靴で踏みつけてやった。


「いてて……おぼえとけバイオレンス野郎!いくぞてめえら」


ぼろ雑巾のような状態になったキングは、よろよろ歩きながら捨て台詞を残して仲間を連れてバイクに乗ってどこかへ去っていった。うずくまっている少年の肩に優しく手をのせた。


「悪いやつらは退散したぜ。きみも気をつけるんだな」

「あ……ありがとう」


顔をみたかんじでは10代後半くらいといったところか。若者は血気盛んだから喧嘩を頻繁にやるのは当たり前かもしれないが集団で1人を攻撃するってのは私の性に好かない。


「ボーイ、名前は?」

「本名はキングたちと同じで捨てた。今のぼくは”サブ”ってんだ」

「今日から私たちは友達だ。サブ、よろしくな」


サブは自分のバイクのほうへ戻っていった。外観でカワサキのZ2とわかった。


「私は今日特に予定なくて暇してたんだ。私のミニクーパーときみのZ2で街の大通りを走らないかい?」

「あ、いいっすねえ。走りましょうよ」

「私たちのゴールは地平線だ、なんてね」


私はサブと4番街ショッピングストリートを時速80キロくらいのスピードで飛ばした。早く走るのは気持ちいいものだ。

その後警察にみつかってサブが悲惨な目にあうことになったのだがそれはまた別の機会に話そう。


to be continued……


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