第5話 Cowgirl

シャッターウィンドウから差し込む朝日がまぶしくて私は目覚めた。

時刻を見ると午前5時。出勤時間までまだある。2度寝しようかと思ったがやめた。


また寝たら遅刻してしまいそうだ。


私はブリーフ1丁で立ち上がり、その場でスクワットをはじめた。身体を鍛えるのもサラリーマンの仕事。


私の名はジョニー。ジョニー・ヤングマン。筋トレのあとのポカリをのむのが大好きな男さ。


スクワットを300回こなして汗だくになった私はシャワールームへ行き、ブリーフを脱いで全裸でシャワーを浴びた。

朝のシャワーは心地よい。汗をかいたあとならなおさらだ。


ふいに玄関のチャイムが鳴った。


客だろうか?それとも昨日amazonで注文した「ソフトオンデマンド~イーグル・加藤鷹伝説180分~」を届けにきたのだろうか?

私はシャワールームを出てガウンをはおると玄関のドアを開けた。


「ハァーイ、ピザおまちっ!」


陽気なゴンザレスがピザを片手に立っていた。


「あのなあ。私は今日ピザ頼んだおぼえはないぜ」

「わーお、じゃあこのピザはボクのものってこと?」

「そいつは違うぜイタリア人。別の客のとこにもってくんだ」

「ぼくゴンザレス、うまいもの見たらその場で食べたくなっちゃう」


まったく、なんてのんきな野郎だ。イタリアが枢軸軍にはいって第二次大戦に負けた理由がよくわかる。


私は差出人の住所を確認した。


「これは……妹のキンバリー宛だな、キンバリーの部屋は2軒先のとこだ」

「わお、ジョニーの妹!あのフィリピン人みたいな顔の子ネ?」

「人の妹ばかにしてないではやく宅配するんだぜ。ピザがさめちまう」


ゴンザレスはワッハッハ!と大笑いした。


「ピザってなんだい?ボクが配達してるのはピザじゃなく、ピッツァ。わかる?」

「わかんねーしどうでもいいから出てってくれ」


ゴンザレスを追い出すと私はラジオを聴きながらドライヤーで髪を乾かせて、全身をタオルで拭き、ブリーフを履いて仕事用スーツを着た。

愛車のミニクーパーに乗って職場のある6番街へ。途中で野良猫をはねた。


だが私の愛車には傷ひとつつかなかった。猫の1匹や2匹じゃこのミニクーパーにダメージは与えられない。

職場のクルーガーブレント社に到着した。室内ではジムが居眠りしており、キャサリンとミッチがマジックバトルカードで対戦していた。


「まったく、仕事やる気あるのかい?」

「あら、ジョニーおはよう」


キャサリンがこちらを見て手を振った。その手にはマジックバトルブラックドラゴンカードを持っていた。


「ジョニー助けてよ、このままじゃおいら負けちまう」


ミッチが必死の形相でうったえかけてきた。


「カードゲームくらい勝っても負けてもたいしたことないさ」

「今日の昼飯代全部賭けちゃったんだ!」

「ジーザス!」


私はキャサリンとミッチのカードバトルを観戦することにした。キャサリンはやけに強いカードばかり持っている。

金にモノをいわせていいカードを買いまくったんだろうか?


「ひぃ、負けたぁ」

「昼飯代はいただきよ、小太りちゃん」

「ずるいよキャサリン、強いカードばっかやんけ!」

「あなたも良いカードショップをみつけて店長と仲良くなることね。枕営業するのもありよ」


……なんだか見ていてすごく時間を損した気分になった。私はデスクに向かい今日の仕事内容を確認した。

今日も地道に書類整備とチェックだ。パソコンの画面をみながら数字やアルファベットを入力していく。

コツコツと仕事をこなしていくと時計は正午を表示していた。


「ねぇジョニー。今日も豚殺しにいかない?」


キャサリンが昼食に誘ってきた。


「ノーだ。ちょっと金欠でね。ここでサンドウィッチを食べることにするよ」


ミッチは青白い顔をしてしょぼん、としている。


「はああ、昼飯抜きはつらいっぽ」


食事をすませて午後も地道に働く。サラリーマンは退屈との戦いだ。

キャサリンはミッチの昼飯代でトンカツ屋”豚殺し”のスペシャルセット2人前を食べてきた。どこにそんなたくさんはいる胃があるのか不思議だ。でっかい胸にも胃があるのだろうか?


「社長、腹減ったんで早退します」


ミッチはジム社長にそう言って帰る支度をはじめた。ジムは居眠り中で半分寝言のように、かってにどうぞ、と返事。


この会社はなんでこうだらしないんだろう?


「終業時間だ、私も帰るぜミスター社長」

「あいよーご苦労さん~」


愛車のミニクーパーに乗って帰路をたどった。帰りにまた野良猫をはねた。あとで洗車しなくちゃいけないな。

特になにもない1日だったがなにか悪いことがある日よりましだろう。平凡ってのは幸せなことだ。


マンションに帰ると私の部屋の2つ隣で騒ぎがおきていた。妹のキンバリーの住んでいるところだ。室内をのぞくと、朝出会ったゴンザレスとキンバリーが酒盛りをしていた。


「ああーゴン様愛しいのよ……」

「ごめんよキンちゃん、ボクはただの女にゃ興味ないんだ。きみが宇宙からきたってんなら別だけどね」

「悲しいわ、こんなに好きなのに……」


妹のキンバリーはすっかり陽気なイタリア人にぞっこんLOVEのようだ。こんな体臭のきついイタリア人のどこに惹かれているのか謎だ。


「はいはい、おひらきにしようぜ。キンバリー、きみも仕事行く前に飲みすぎるんじゃないぜ」

「あ、お兄ちゃんいたの?」

「やっほージョニー!ピッツァをつまみに酒盛りしてたよ」

「早くイタリアへ帰ってくれ」

「ジョニーったらつめたいでやんの!ボクはしばらくUSA暮らしをさせてもらうよ」


ゴンザレスを強引に帰してキンバリーを仕事に行かせて私はようやく自室にもどった。

夕食はキンバリーが食べ残したピザ、もといピッツァにした。ジャックダニエルを水で割って飲んだ。コクのあるウィスキーが胃にしみわたる。


ラジオからはエリック・クラプトンの「Change The World」が流れていた。今の気分にぴったりだ。

私は疲れていたのか、ベッドに横になったとたん眠気がきて深い眠りにおちていった。


ゴンザレスとキンバリーがピッツァを食いながら世界一周する夢をみた。



to be continued……


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