第6話 ATACK THE 25


「やっほージョニー!」


いつも陽気なミッチがいつになく上機嫌で私のところに近づいてきた。


「どうした小太り君、体重少し減ったかい?」

「それが聞いて驚くなよおーおいらテレビ出演きまったんやー!」

「凶悪犯罪者としてニュース番組に報道されるのか」

「ジョニーったらひっでえなあもう。けつあごさんよ、おいらはな、日曜日にやってるクイズ番組の回答者としてテレビ出るのよ!」


やれやれ、と私は肩をすくめた。


「どんな手を使ったんだ?」

「どんなって、地方予選で勝ち抜いて好成績をおさめたからに決まってんじゃん!あったりまえじゃん!ああ~早く司会のキヨ・コダーマ氏に会いたいな」

「言いたいことあるんならはっきりいってくれよじれったいぜ」

「ジョニー、キャサリン連れておいらの後ろの応援席にきてくれ!」


翌日、都内某所。私とキャサリンはテレビ局のスタジオでミッチと待ち合わせする約束をしていた。視聴率の高い番組ではないが、テレビの全国放送に映るのだからそれなりにかっこつけた服装じゃなきゃ恥ずかしい。


私はタキシード姿に黒いハットという紳士風なファッションを決め、けつあごにメイクを施した。

キャサリンはというと、プラチナに輝く派手なドレスにテイラースウィフトがかけているようなサングラスとなかなかのオシャレっぷりだ。


「下にはピンクの勝負下着履いてるわよ」とあまり聞きたくないことを聞かされた。


スタジオに回答者と応援席の観客が集まり、収録時間が少し過ぎてからスタジオが真っ暗になった。ステージにピンク色のライトが当てられて7人のラテンな衣装のブラジル人ダンサーが登場した。


「アタック・ザ・25~♪」


音楽に合わせて所狭しとダンサーが踊り狂う。奇声を上げて恍惚の表情を浮かべたり、観客のほうをじっと見て舌なめずりしたりと、これじゃ日曜昼間のクイズ番組じゃなくまるで昭和のアングラ舞台だ。


「ふはははは!一般参加者公開処刑クイズ番組、アタック・ザ・25司会のキヨ・児玉とは俺のことよ!」


ボインの姉ちゃんにはさまれて渋い顔立ちのダンディな男がステージ中央にやってきた。


「あいつがこの番組の黒幕なのね」


キャサリンがコルトパイソンをポケットから抜いた。


「怪しそうだからってすぐ射殺しようなんておやめなさい」


私が諭すとキャサリンはつまんないの、と独り言をいって銃を胸の谷間に押し込んだ。


私たちの応援する回答者ミッチは緑の席だ。他に赤、青、白とある。どの回答者も見るからに曲者、カタギの人間ではなさそうだ。

司会のキヨが拳を振り上げた。


「いくぜ暇人ども!まずは第一問、画面に出てくる人物当てだ!」


大画面のスクリーンが映し出され、25に分割されている。時間がたつごとに1枚ずつパネルがはがされて最後に全貌がわかる、その前に誰よりも早くスクリーンに映る人物を当てる、というクイズだ。


DOORSの「THE END」が会場に流れ、司会者は早い者勝ちだ、バンバン回答しろと怒鳴った。

1枚目のパネルがはがれた時点で我らがミッチが回答ボタンを叩いた。


「はいそこの小太りアメリカン!スクリーンに表示されている人物は誰!?」


「……ヘラクレスオオカブト?」

「人物いうとるやんかコラ!昆虫じゃねえんだよ一回立ってろ!」


ミッチが渋々席を立ち、パネルクイズは順当に進んでいった。


1枚、また1枚とパネルがはがされ人物の顔の一部がちらちらと見え出した。肌の色からして黒人のようだ。


ピンポーン!


「はい白が早かった。人物名いってみろ!」

「松崎しげる?」

「黒=しげるなんて小学生並みの脳みそだなオイ!立ってろ!」


白の回答者が立ち、ミッチはようやく着席できた。

パネルは半分以上はがれ、映される人物の顔はほとんど見えている状態になっても正解者は出ない。司会者のキヨがじれったくなったのか、ミッチの座っている椅子を蹴飛ばした。


「もうわかるだろ?なんでもいいからばんばん答えろコノヤロー!」


ミッチがおそるおそる回答ボタンを押した。


「さあ、この人物は誰だ?」

「マイケルジャクソンのパパかな?」


ブブー!とはずれを意味するブザーがなってミッチの頭にたらいが落ちてきた。ガコーンという音とともに床に倒れるミッチ。


「はい正解者なし。正解は……先日日暮里に留学生としてやってきたエチオピア人のチョー・ポアポン君でした」


キャサリンが怒りのあまり顔を真っ赤にした。


「そんな無名人知らないわよ!」

「皆さん、ひっかけ問題にまんまとだまされちまったな」

「ひっかけてないじゃんこのおバカ!」


司会者はキャサリンを一瞥して冷たい目をして言った。


「……この番組では俺がルールだ、口を慎め巨乳アメリカン」


パネル当てクイズのあとはオーソドックスなクイズ問題が続いた。


「サングラスで有名なタモリの相棒といえば?」


ピンポーン!


「はい赤」

「CHAGE&ASKAのシラフのほう」

「正解!」

「続いての問題、山口さんちのつとむくん~から始まる子供向け合唱曲のタイトルは?」


ピンポーン!


「はい青」

「山口良一の哀愁バラード」

「正解!」


「はい次!かつて一世を風靡したジャニーズのローラースケート集団で一番人気があったのは?」


ピンポーン!


「はい、またしても青」

「ロビンソン増田くん」

「正解!っておれもそいつらしらねーけど!」


画面上の25マスは赤、青、白、緑に分散していった。一番有利は赤で一番獲得数が少ないのが緑のミッチだ。


「緑のアメリカ人さん、もうちょっとがんばってくれよ、次、サービス問題」


キヨに続いてナレーションが問題を読んだ。


「人気グループ、ドリフターズで一番歌がうまいのは?」


ピンポーン、というよりグシャッ、と激しくミッチが回答ボタンを殴りつけた。


「ブー・高木」

「正解!やればできるじゃんかよ、さて何番?」

「9番」


司会のキヨがのっそのっそとミッチに近寄り、ミッチの襟首を掴んだ。



  「なんでカドとらねえンだコノヤロウ!」



あまりの剣幕に萎縮してしまったミッチはおそるおそる言った。


「今朝の占いコーナーでラッキーナンバーは9だっていってたから」

「生きるか死ぬかの番組で占いなんぞたよるんじゃねえぞ!この場合はカドとるんだよ!お前もう一回立ってろ!」


精神安定剤らしきものを飲んでようやく精神をおちつけた司会者は、静かに、厳かに、会場の隅々まで伝わるように言った。



     「アタックチャンス~~~ッッッ!!!」



会場がどよめいた。ここで正解すれば一発逆転のチャンスだ。私は観客席からミッチを見ていたがやっこさん、逆転を狙う気まんまんのようだ。


「アタックチャンス問題。司会のオレ、キヨ児玉の孫が今までで一番はまってたファミコンソフトはなんでしょう?」


難解すぎる……というよりクイズの範疇を超えている。これはミッチには厳しすぎるだろう。私はキャサリンにスタジオを出る準備をするよう促した。


ピンポーン


「はい青!」

「元祖スーパーモンキー大冒険」

「ハズレ!熱湯の刑!」


青の回答者の頭上に熱湯のはいったヤカンが落ちてきた。


ピンポーン


「はい赤」

「たけしの挑戦状」

「おめえの回答が挑戦的すぎだ!水風呂の刑!」


赤の回答者の席がひっくり返ってうしろのプールへと落下。ばしゃーんという音と悲鳴が会場に鳴り響いた。


ピンポーン


「はい、白」

「田代まさしのプリンセスがいっぱい」

「主人公犯罪者じゃねーか!盗撮の刑!」


盗撮集団がけして若者とはいえない白の回答者の主婦を写メでパシャパシャ撮り出した。



「残るはおまえだけだな、緑のアメ公」


ミッチはどもりながら言った。


「ライフラインをつかわせていただきます」

「そんな外道手段、この番組にはねえ」

「なにかヒントを……」

「そうだな、ひとつだけいってやる。オレの孫は阪神ファンだ」


ミッチの全身が金色のオーラで包まれた。

ピンポーン、と華麗にボタンを叩いた。


「おう、答えてみろ」

「……ジャレコの燃えろプロ野球」


一瞬スタジオの照明が落ちて真っ暗になった。そして3分後どこからともなくガチムチマッスル男の集団がワッショイワッショイと現れミッチを胴上げした。

司会者は悔しそうだが、少し嬉しそうにミッチに言った。


「なかなかたいしたもんじゃねえか。今日のMVPはおまえさ」


こうして饗宴の宴は幕を閉じ、私とキャサリンは疲れきったミッチの肩を持って、ひきずるように帰路を辿った。


「見直したわよミッチ、あなたここ一番のとこで特大ホームラン打つわね」

「キャサリンにほめられるなんて何年ぶりだろ……はは……燃えプロのころの阪神は強かったんだぜ……」


私はミッチが手にしている太い封筒が目についた。


「賞金手渡しか……どれぐらいの額だ?」

「切手シート1年分」

「……年賀状のお年玉景品にでも当ったような賞だな」



日本のテレビ番組はクレイジーだと再認識した。しかし今日のミッチの奮闘ぶりに、私もいつか出演したくなった。

明日ハガキを買ってみのもんたの電話で生相談コーナーに応募してみようか……



――to be continued……



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