二限目「プレゼント」
「えーっと、強力粉にドライイースト、バター、牛乳あとは餡かな。砂糖はうちにあったし......あっ、黒ごまも必要か。」
放課後もう日も沈みかけたころ、学生寮近くのスーパーにて、若さ...というよりは幼さの目立つ男の子がお買い物。中学生......よね、うちの学校の制服ですものね。普段料理などしないのかな、ぶつぶつつぶやきながら真剣な眼差しでメモをにらんでいます。ふふっ。材料から察するにアンパンかな。本人は必死な面持ちだけど端から見ていると、ほほえましい限りね。
時期的にバレンタインのお返しかしら、アンパンチョイスは新しいわね。って、よくみたらあの子うちのクラスの下木くんじゃない。真面目くんだと思ってたけど意外な一面を見てしまったわ。
私も職員室の先生方にあげたほうがよかったかしらね。忙しくてすっかり忘れていたけれど、ま、来年から頑張りましょう。
「まったく、なんで僕が.........」
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「ねえ、一護、アンパンってどうやって作るの?」
「え? なんですか、突然」
「アンパンを作りたいのよ。できるだけ早く。それもおいしいのを。」
「いや、そんなこと言われても...」
「私も鬼じゃないわ、そうね、金曜日まで待ってあげるわ。それまでにあなたの作り方を調べてきて私に教えなさい。味見もするからちゃんと作って持ってくるのよ。」
「金曜日って明後日じゃないですか。そんな無茶な。だいたい、なんで僕が...」
「いいじゃない。先月チョコあげたでしょ。そのお返しってことで。」
「あれ先輩がおいしくないからって僕に押し付けたやつじゃないですか。そもそも先月って言っても14日ですらなかったですよね。」
「細かいこと気にしてたらダメよ、一護。男子二月にチョコもらわば三月にお返しすべし。世界の常識。」
「世界の常識ではないと思いますが.........はぁ、わかりました。善処します。」
「ありがとう、一護! 期待してるわ!!」
「.........ッ!!?」
「どしたの、一護?」
「なんでもっ......ない、です....../////」
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「.........はぁ」
「.........はぁ」
アンパン片手に談笑する女子二人、を悲しそうな顔で遠くからチラ見する男子一人、を教室のドアの陰からじっと見つめる女子一人、隣のクラスの箱井さん。成績優秀・運動神経抜群・書道部所属で受賞歴多数、そしてかわいい、などなどわかりやすい学園のマドンナの一人だ。同学年はもちろん上級生・下級生からの人気も高い。すでに高等部にもファンクラブができているという噂だ。そのうち親衛隊とかでてきたりして。そしたらむしろ堀地のほうが大変かもな。
「......よしっ」
ん?なんか箱井さんが何かを決意したような顔で去っていったが、どうしたんだろう。あのひと頭いいのにポンコツだから、だいたい勘違いで動き出すんだよなー。まあどうせ俺には関係ないか。
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「ふぅ~~、疲れた。」
今日の部活はやたら疲れたな。なんでだ? みんなやたら元気だったし先輩方なんか目が血走ってたけど、花粉症とかか?まーいいか。そんなことより腹減った。あーくそ、飯がねえ。買ってくりゃよかった。一人暮らしはこれだから.....
「はっ、そうだ」
そういえば、今日アンパンもらったんだ。なんでもらえたのかはよくわからんが、部活の前に箱井がくれたんだった。なんか作りすぎたとかなんとか言ってたけど、アンパン作りすぎるってどんな状況だよ。しかも俺に5つもくれたってことはそれ以上に作ったってことだろ。アンパン大好きすぎるだろ。
正直アンパンばっか5つもどうしようかと思ったけど、ありがたくいただくとしよう。ないよりはましだ。
「いただきます」
うまい‼想像以上にうまい‼なんだこれは、甘すぎずしょっぱすぎず、いい塩梅だ。
.........ん? いやまて、しょっぱ過ぎずってなんだ? アンパンってしょっぱかったか? まさかあいつ、俺が晩飯代わりに食うのを見越してあえてしょっぱい生地で作ってくれたのか!? さすが学年一の秀才は一味違うな。これなら5つぐらい余裕でイケる。こんどなんか礼しないとな。
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(あっ、しまった。)
(箱井さんに渡したレシピに無塩バターのとこバターって書いちゃったけど、大丈夫.........かな?)
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