五 プレゼン
王城内は豪奢な内装、贅を尽くしたその絢爛さにしかしアダムが思ったことは「ここに金を使う意味がどこにある」という極めて現実的なものであった。まっすぐ進んでいき、大きな扉を音立てて開くとそこは大広間。奥の玉座には女王が腰掛け、その前に居並ぶ二十九人の男たちはアダムをじろりと睨みつけ、アダムはなんのこれしきとばかりに男たちをぎろりと睨み返した。
「さあ、これで三十人が揃った」
女王の言葉に全員が背筋を伸ばす。
「これよりプレゼンテーションを始めてもらおう。先ほど私が夫に求めるのは体力知力忍耐力そして決断力行動力さらには夜のほうの能力だと言ったが、ここまで辿り着いた者ならば体力知力忍耐力決断力行動力全て兼ね備えている筈であり、もっと言えば兼ね備えていない者はここにはいない。従ってこれからのプレゼンテーションで見るのはそれ以外の何かであり、王の夫としての資質であり、陳腐な言い方をするならば人間として大切なものである。夜の能力はまたの機会に見ることとする。時間は十分。八分経ったら鐘を一度鳴らし、十分経ったら鐘を二回鳴らす。十一分経ったら鐘を三回鳴らすが、この鐘が鳴り終えても喋り続けた場合は失格となる。その後五分間、質疑応答の時間をとるので各自好きな質問をするがよい。では、先着順で始めてもらおう」
こうして残った三十人は各々のUSBを取り出し、固く握りしめた。そして最初の一人が歩み出でてUSBをプロジェクターのUSBポートに差し込もうとしたが入らず、さては逆であるかとUSBを裏返しにして差し込むもまた入らず、その後何回か表と裏を逆にして試すも全て入らず、とうとうプロジェクターのほうが逆さまであるに違いないぞと合点してプロジェクターを裏返してUSBを差し込んだがこれも入らなかった。男の手は怒りと恥ずかしさのあまりに震え出し、無理やりに押し込もうとしたせいでUSBはめきりと音を立ててひん曲がってしまった。
「つまみ出せ」
プレゼンテーションを始める前に脱落してしまった男は哀れな声で叫びつつ王城の外に放り出された。
「次」
二番めの男が歩み出でてUSBをプロジェクターのUSBポートに差し込もうとしたが入らず、さては逆であるかとUSBを裏返しにして差し込むもまた入らず、その後何回か表と裏を逆にして試すも全て入らず、とうとうプロジェクターのほうが逆さまであるに違いないぞと合点してプロジェクターを裏返してUSBを差し込んだがこれも入らなかった。男の手は怒りと恥ずかしさのあまりに震え出し、無理やりに押し込もうとしたせいでUSBはめきりと音を立ててひん曲がってしまった。
「つまみ出せ」
プレゼンテーションを始める前に脱落してしまった男は哀れな声で叫びつつ王城の外に放り出された。
「次」
三番めの男が歩み出でてUSBをプロジェクターのUSBポートに差し込もうとしたが入らず、さては逆であるかとUSBを裏返しにして差し込むもまた入らず、その後何回か表と裏を逆にして試すも全て入らず、とうとうプロジェクターのほうが逆さまであるに違いないぞと合点してプロジェクターを裏返してUSBを差し込んだがこれも入らなかった。男の手は怒りと恥ずかしさのあまりに震え出し、無理やりに押し込もうとしたせいでUSBはめきりと音を立ててひん曲がってしまった。
「つまみ出せ」
プレゼンテーションを始める前に脱落してしまった男は哀れな声で叫びつつ王城の外に放り出された。
「次」
四番めの男が歩み出でてUSBをプロジェクターのUSBポートに差し込もうとしたが入らず、さては逆であるかとUSBを裏返しにして差し込むもまた入らず、その後何回か表と裏を逆にして試すも全て入らず、とうとうプロジェクターのほうが逆さまであるに違いないぞと合点してプロジェクターを裏返してUSBを差し込んだがこれも入らなかった。男の手は怒りと恥ずかしさのあまりに震え出し、無理やりに押し込もうとしたせいでUSBはめきりと音を立ててひん曲がってしまった。
「つまみ出せ」
プレゼンテーションを始める前に脱落してしまった男は哀れな声で叫びつつ王城の外に放り出された。
「次」
五番めの男は見抜いていた。あのUSBポートはダミーであり、本当のUSBポートはカバー裏にあるのである。そこを探り当て、かちりとUSBを差し込んだ男は会心の笑みを浮かべた。
「よく気付いたな、それが真のUSBポートである」
女王はニヤリと笑った。USBを差し込むことすら叶わなかった男たちの絶望と悲嘆の様は、常人より遥かに強い女王の嗜虐心をも満足させるほどのものだったのであり、四人しか見られなかったことに女王は内心悔しがっていたがそれはおくびにも出さずに「さあ始めよ」と命じた。
こうしてプレゼンテーションは滞りなく進み、二十五人がつつがなくプレゼンテーションを終えたところでとうとうアダムの番がやってきた。かなり適当に作ったアダムのスライドははっきり言って白い背景に黒い文章しかなく、他の男たちのスライドの豊かな色彩、洗練されたデザイン、豊富なアニメーションには叶うべくもないことはわかりきっていたが、ここでアダムの生来の負けん気の強さが鎌首をもたげ始めた。
(ここまで来たのだからいっそのこと夫に選ばれてしまうほどの演説でもかましてやろう、そこで颯爽と辞退するのもまた一興ではないか)
こうしてアダムはUSBを差し込み、悠然と発表者席に着いた。
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