4 困惑
「髪型……」
はい? と立花は何を言われたのか分からない様子で顔を上げる。
「髪型、似合ってないですね」
鬱金はふと初めて見た時から思っていたことを伝えてみた。
「そう、でしょうか?」
「前髪下ろした方がいいんじゃないですか?」
「それは……子供っぽくなりませんか?」
「顔立ちが子供っぽいんだから髪型も無理する事ないと思いますよ」
鬱金が軽く微笑むと立花は動揺して目をそらし、はい、と消え入りそうな声で答えた。
「立花様は人の目を見て話すのが癖ですか?」
「えっ? さぁ、意識した事がありません……」
突然関係ない話を始めた鬱金に立花は完全にペースを崩されて混乱しているようだ。
「うん、なら尚更髪型変えた方がいいですよ、貴方に見つめられると不安になります」
「そう、ですか?」
「ええ、何か悪い所を探されてる気になります」
「そうですか……分かりました、気を付けます」
あっけにとられた様子の立花は微笑ましかった。
「お返事は一週間後でもいいですか?」
「えっ?」
「士官の話です。来週お返事します」
分かりました、と立花はソファに座り込む。
「では、俺は領地にいないのでこちらに連絡を」
そう言って腕の通信端末の連絡先を教えてくれた。
「お預かりします」
鬱金は微笑むが立花の目には入っていない様だった。
一応礼儀として外まで立花を見送ると少し離れた所に立花の物らしい機体が止まっている。装飾のない、実用一辺倒の機体だ。
釣りや狩り以外に乗り物も好きな鬱金は軍隊の頃、いろいろな国の輸送機や軍用機を
その機体が丁寧に飛び立つのを見送ると屋敷に戻る。
すっかり目の覚めた鬱金が居間に行くと、日中は医者の仕事で屋敷にいないはずの妻がお茶を飲んでいた。
「立花様とは何のお話でしたの?」
「士官の誘いだ」
「お返事は何と?」
「時間を貰った」
「そうですか。貴方も食べますか? 立花様のお土産ですよ」
そう言って妻が差し出したのは先程立花と食べたお菓子だ。
「お前にも持ってきてたのか」
「あら、お菓子だけじゃありませんよ、このお花もです。貴方が帰って来る前に、少しお話ししていました」
確かに妻の前には花瓶に飾られた花がある。植物が自生していないこの星では、観賞用の花など最高級の嗜好品と言える。
「このお花、薬にもなるそうです」
「来るのを知っていたのか?」
「ええ、何度かお手紙を頂きましたし」
「何故俺に言わない」
「貴方の事ではありませんでしたから、病院に寄付して下さるそうです」
「なるほど」
自分の話ではなかったから、鬱金は教えてもらえなかったらしい。聞かれてないのに妻が勝手に何か話したのは間違いない。
外堀通りから埋めてくる上手いやり方だ。しかも大陸一の女好きと言われる桐生の関係者だけに、女性への気配りは完璧のようだ。おそらくメイドにも何か贈っているのだろう。
「俺はついでかな?」
「どうでしょう、でもここで暮らしていくなら立花様と仲良くしておいた方が良いでしょうね」
「お前、何か機嫌悪いな……」
「当たり前です。なんですぐにお返事しなかったんですか? 可哀想です」
妻はすっかり立花に懐柔されてしまっているらしい。
「ところで、貴方はさっきから何を探しているんですか?」
妻は相変わらず冷たい様子で、部屋の中の引き出しを漁っている鬱金に声をかける。
「いや、あの、端末を……」
絶対に怒られる。そんな確信があるため、ご機嫌を伺うような様子で答える。
「ここに出してあります。だから普段から使ったら元の場所に戻しなさいと言っているのです。
メイドは貴方の出した物のお片付けの為に居るのではありません」
「それは、悪いと思っている……」
おずおずと端末を受け取り腕にはめる。
しっかり充電済みで、これを今日鬱金が使おうとする事は分かっていたらしい。
「どういたしまして」
礼も言わないのに妻は恫喝するような笑顔でいう。
「ありがとうございます……」
鬱金は苦笑いでお礼を言うしかなかった。
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