6 観察
鬱金は立花が帰った後、少し真面目に士官の話を考えてみる事にした。決して妻に言われたからではない。
気分的には数年ぶりに、昔の仕事仲間数人に連絡を取った。
色々と立花の事を聞いてみたのだが意外なほど評判が良い。しかもレオモレアに負けた者ほど評価が高かった。
なんでも立花は戦争に負けてレオモレアに吸収された国で戦後処理をしているらしい。それが素晴らしいとみんな言っていた。
負けて前より便利になったとか、色々な物が買えるようになったとか、とにかく立花のした事をみんな喜んでいるようなのだ。
よく分からないのでとりあえず行って見てみる事にした。
国や街の出入りには若干の制限があるのだが、鬱金には裏技がある。
一般的には街の間の移動は専用の頑丈で大きな輸送機に乗って、地下を移動する。しかし普段から狩りをしている鬱金は、二人乗りの小型の機体で最短距離を飛んで行く。かなりの危険が伴うが、猟師たちはそれ用の地図を作っている。
そんな方法で一番最近立花が来ていた街にやってきたのだが、どうやら戦闘が始まりそうな雰囲気だった。
知り合いがいなかったので情報がなく、とりあえず離れて見ていたら鬱金と同じような機体がやって来て、同じように足止めされていた。
そして降りてきたのが立花だったのだ。正直鬱金はとても驚いた。
立花は味方の部隊と合流するため、目立たないように歩いて移動する事にしたようだ。
マズいんじゃないかなぁ、と鬱金は上空から立花を見ながら思う。
少し先で待ち伏せされているようなのだ。そこに不用意に一人で向かっていく立花を見て鬱金は呆れる思いだった。
まあ別に助けることもないか、死んだり捕まったりしたらそれはそれだなと、割り切って考えた。
命懸けでおバカさんを助けるほど鬱金はお人好しではない。
案の定待ち伏せされている岩場で、立花は狙撃されていた。
それでも気にした様子もなく、冷静に行動してる立花は、どうやら襲撃に慣れているようだ。
立花はしばらくすると走り出して、包囲網を突破しようとしている。
おいおい、大丈夫なのか。
お世辞にも強そうとは言えない立花だ、無謀なのではと鬱金は思う。
しかし立花は敵の相手を一切せずに、そのまま通り抜けて走り去ってしまう。その予想外のスピードに、鬱金は立花を見失った。
意外とやるじゃないかと鬱金は思う。別に試すつもりはなかったが、あれなら合格だ。
下手に戦ったりせずに、己の長所を生かしての逃亡。あれを捕まえるのは鬱金でも苦労しそうだ。
立花の次の行動は予想がつく。少し手伝ってやろうと言う気になった。
▽▲▽
森の中を走っていた立花を回収し、機体の後部座席に乗せ味方の所に送ってやる。
「怪我はありませんか?」
立花は突然話しかけられてオドオドしている。
「はっはい。ありがとうございました」
「いいえ、余計なお世話でしたか?あの様子だと何かあったのでしょう?」
「そんな、待ち伏せには気づいておりませんでしたから……」
「ですがかなり慣れていらっしゃる様でしたが?」
あの時の立花は冷静に対処している様だった。今の方がよっぽど動揺している。
「まあ、慣れていますから……」
「慣れですか……」
当たっても痛くないと分かっていても怖いのが普通だろう。
一度や二度ではあそこ迄になれない。
「一人で出歩くのは無用心では?」
「今回は特別です。それに囲まれた時は何人いてもあまり変わらないですから」
過去に護衛を失っているのだろう。立花の声は暗い。
『おーい、そこの機体。
通信からかなり気の抜けた警告が聞こえる。
立花は鬱金に確認すると返事をする。
「立花だ。誘導してくれ」
『あっれ?タイショー?グスタフはどうしたんですか?』
「途中で置いてきた。ロブは着いてるか?」
『んーと……ああ、なんか隊長と迎えに行ったみたいですわ』
「遠隔できるようにしてあるから回収してきてくれ」
『了解、伝えまーす。んじゃ誘導に従ってくださーい』
始終気に抜けた会話が終わると立花はますます居心地が悪そうにしている。
「すみません。適当で」
「仲が良さそうですね?」
「なめられてるんです……」
鬱金が駐機スペースに機体を止め、立花がやってきた隊員と何か手続きをしていると、新たに数台の機体が降りてきた。
扉が開くと黒い大型犬が立花に走り寄る。
「ロブ、怪我ないか?」
立花は軽く撫でながら言う。しっかり躾けられた軍用犬の様だ。
軍用犬と言っても実際に戦闘に参加する事はない。蟲に遭遇しない様に訓練された犬を連れて歩くのだ。
別に機械でも良いのだろうが、いつ壊れるか分からない物に命を預けるのは怖い。犬ならなんか安心と言う事で、街を出るときには必ず連れて行く。警報代わりなので愛らしい小型犬の方が一般的だ。
「んだよ、立花。お前勝手に帰って来るなよ、無駄足じゃねーか」
降りてきた一際大きな男に立花がどやされている。なんだか見ていてハラハラする光景だ。
「あーあの、鬱金さ…んが助けてくれた」
「はぁっ? 鬱金?」
少し離れて立っていた鬱金はかなりガラの悪い感じのでかい男に睨まれる。やはり顔見知りだった。
「
「その名前で呼ぶんじゃねぇ。俺は
鬼田平はあだ名なのだが、弱そうだからと彼は本名で呼ばれるのを嫌う。鬱金は何度か一緒に戦ったことがあるが、レオモレアに居たとは知らなかった。居ればそれなりに聞こえてくるはずの名前である。
「なんで鬱金がここに居るんだ?」
鬼田平の言葉に立花も全く同感、といった顔をしている。
さて、なんと答えよう。鬱金とりあえず笑ってごまかした。
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