第14話
美奈の言葉を聞いて、表情を見て、俺は少し酔っていることを自覚した。理性が一瞬くらりと揺れて、吸い寄せられるようにベッドのふちに、腰掛ける。美奈の伸ばした足が、あたるかあたらないか、という距離だ。
ピスタチオの袋を開けていると、美奈が身を乗り出してきて、俺のビールを取った。茶髪の甘いにおいが鼻先をかすめる。
美奈はビールのプルタブを開けると、自分で一口飲んだ。にが、と、ちょっと顔をしかめたかと思うと、ビールを俺の口元に持ってきた。缶を傾けるので、ごくごくと飲まざるを得ない。もう片方の手は、俺の肩に置かれた。美奈は、ままごとをしている少女のような顔で、にこにこ笑っている。
結構飲んだので、手で缶の傾きを正そうとすると、美奈がぐっと手に力を入れた。俺は笑って、もう三口飲み、鼻声で、おいおい、と言った。美奈はウフフ、と言って力を抜いた。
「プはっ、何でそんな飲ますの?」
「フフフフ」
俺は仕返しとばかりに、梅ソーダの缶を美奈の口元に持って行く。ゆっくり缶を傾けると、喉が動き始めた。嬉しそうな顔をしている。
四口飲ませたところで、もうやめにした。あんまり酔わせてもまずいと思ったし、これ以上缶につけた唇の動きを見ていると、むやみに乱暴な気持ちになってしまいそうな気がした。美奈が、もっと、と言った。
「ハハっ、もっとじゃないって」
美奈は俺から梅ソーダの缶を奪うと、こくこくと残り分を飲み干した。
俺はピスタチオが好きで良く食べるから、食べ方も年期が入っている。右手に5、6個取ると、一個を指先で割り口に入れる。殻をたこ焼きの空きパックに投げたら、またすぐ次の殻を割り、中身を口に入れる。三個目を口に入れて、ようやくピスタチオを食ってる、という感じになってきた。
「あー、ピスタチオがうまい」
美奈はチューハイの残りを飲み干すと、私もピスタチオちょうだい、と言った。俺がガサリと一掴みして渡そうとすると、美奈が、一個でいい、殻取って、と言った。
一掴みしたのを袋に戻し、一個殻を割り、手に乗せてやろうと振り向いたら、美奈は口を開けて、あーん、と言った。子どもじゃあるまいし、と思ったのだが、目つきと唇とが妙に胸をそわつかせる。結局素直に口の中に入れてやった。美奈が、俺の目を見ながらうんうんと言って口を動かした。
「おいしーい」
「ピスタチオうまいよね。まだあと三袋あるから、どんどん食っていいよ」
「くふふ。そんなに食べないよ」
美奈が、もう一個ちょうだい、と言って、口を開けた。俺がまた一つ、口に入れようとすると、美奈は俺の指ごとピスタチオを咥えた。一瞬のことだったが、内唇が指にやわらかく吸いついたような気がした。思わず喉がゴクリとなり、赤い唇の形が、写真のように頭のフィルムに焼付いた。
美奈に背を向け、ビールを一口飲もうとすると、人差し指の背に、うす赤く口紅がついている。
ねえ、もう一個、という声を背中で聞く。俺が手を差し出すと、美奈は今度も唇を指に触れさせるようにして口に入れた。と、次の瞬間、んんっ、と言って、眉間にしわを寄せると、口の中から殻つきのピスタチオを取り出した。
「んー、何コレぇ」
「ハハハハ」
「何で殻取ってないのォ」
美奈は俺にそのピスタチオを投げると、足をバタンとさせた。
「清太さんキライ」
「ハハハ。びっくりした?」
「……」
赤い唇がぎゅっと結んだ形になって、動かない。
「そんなに怒んないでいいじゃん」
「……」
「え? ホントに怒ったの?」
美奈は、つん、と目をそらした。
「ほんの冗談じゃん」
「……」
ちょっとマズイことになったかな、と思う。向き直り、ゴメン、と言った。まだ、美奈は黙っている。
(そんなに怒るようなことかな、結構面白かったと思うんだがな)
俺が眉間をかいていると、美奈が立ち上がってリビングを出て行った。と、思うと、冷蔵庫のほうで、カシュっと缶のプルタブを開ける音がした。またチューハイを飲むのだろうか。行ってみると、美奈がチューハイを勢いよく飲んでいた。今度はグレープ味だ。
「そんなに一気して大丈夫?」
美奈は、俺を手で押しのけると、またリビングへと戻っていく。なぜか頭に、「怒りの葡萄」という言葉が浮かんだ。映画だったか小説だったか、たしかそういうタイトルの作品があったような気がする。
苦笑いをかみ殺してリビングに戻ってみると、美奈が毛布をすっぽりと頭からかぶってベッドに丸くなっている。俺は不意にこみ上げてきた笑いで体がくつくつと揺れた。油断すると危うく声が出てしまいそうだ。何故と言って、俺の毛布は濃い緑色だから、甲羅に閉じこもったカメみたいに見えるのだ。
カメの甲羅をぽんぽんとたたき、「そんなに怒んないでよ」と言ってみる。しかし、さすがはカメだけに、一旦甲羅に入ると、むっ、と黙り込んで守備に徹するつもりのようだ。
が、毛布をめくってみると、意外にもすんなり顔を見せてくれた。もうあまり怒っていないように見える。
美奈が俺のズボンの膝を引っ張った。
「えっ、何?」
美奈はまだ黙ったまま、ズボンの膝を引っ張る。
「何何、どうした?」
「……」
目を伏せて、今度は強く引っ張ってきた。顔を近づけて、何、と言ったら、美奈の両手がかすかに動いて、来て、というようなしぐさをした。
「え?」
美奈はもう一度、そのしぐさを繰り返した。なぜこのタイミングでそういうことになるのかが全然分からないが、多分そういうことだよな、と思っておそるおそる覆いかぶさるようにして、背中を抱いた。
CDステレオから流れてくる曲が、いやに大きく聞こえる。折しも曲は『COSMIC GIRL』。宇宙の女、だ。
美奈は何も言わない。何も言わないということは、やっぱりこうして欲しかったんだろう。しかし、一体どういう思考回路になっているんだろうか。行動の辻褄が全然合っていない。
体を離そうとしたら、服を掴まれた。これはもう間違いなくこういうことだろう、と思って、横たわり背中に手を回そうとすると、美奈は自然な動きで足を伸ばし、抱き合いやすい体勢になった。
体と体が密着して、首あたりに美奈のなまあたたかい鼻息を感じる。酒のせいだろうか、宇宙の女は体温が高くなっているようだ。
そのままじっとして次の方策を立てようと思ったのだが、ペニスだけはじっとしていられないようで、みるみる勃起し始めた。気づかれたかな、と思い、さりげなく腰を引こうとしたら、美奈は追いかけるようにして体を密着させてきた。完全に勃起してしまったのは言うまでもない。
(分かっててやってんのかな? いや、まさかな)
服越しとは言え、俺のペニスは美奈の腹部の柔らかさと温度を感じている。こんなに硬いものが当たっているんだから、もはや美奈も気づいてないはずがない。吐息のにおいが、かすかに甘い。あごを引いて美奈の顔を見た。下唇を少し噛んだ上目遣いの表情に、思考が一瞬止まる。
美奈が、ん? という顔でわずかに口角を上げた。付き合おうよ、と言いたい衝動に駆られたが、勃起したまま言うのもどうかと思ってやめにした。
照れ隠しなのか性欲なのか感情の昂ぶりなのか、多分それらの理由が全部ないまぜになっていたのだろうが、俺は美奈の唇にキスをした。その柔らかな感触を味わったが最後、俺はスイッチを入れられたロボットになった。唇を吸い、舌を入れ、仰向けにし、肩をぎゅっとつかむ。
「ンっ」
少し痛かったのかもしれないが、ロボットになっている俺は自制が効かない。どころか、その痛がるようなそぶりにますます興奮してしまって、右手で美奈の胸を掴んだ。美奈の舌が、俺の舌に絡みついてくる。ロボットと宇宙女が、透明な潤滑の唾液でつながった。
美奈は青い薄手のニットを着ている。その長めの裾から手を入れて胸をまさぐると、ニットの上に重ね付けされた二種類の長いネックレスがチャリチャリとかすかに音をたてた。直に触る肌が異様に熱い。38度くらい行ってるんじゃなかろうか。指先で乳首を探してブラジャーの上から触った。
口と口の連結を一旦解除して、キャミソールとニットをたくし上げた。ブラジャーはオレンジ色で、真ん中に、リボンがついている。美奈の背中を少し浮かせ、ブラジャーのホックを片手で外した。ホックの構造をインターネットで調べていたにせよ、あまりにもスムーズに外れたので自分でも感心した。が、そんなことは大した問題じゃない。ロボットになった俺の目的はセックスであり、思考はほとんどその一点に集中してしまっている。何はさておき、とにかく今、セックスがしたい。
明るいところで見る美奈の乳首は、ピンク色と肌色を混ぜたような色をしていた。乳首の先端を口に含み、舌で舐めると、すぐに硬くなった。強く吸ったら、美奈が、アン、と小さく言った。今度は反対側の乳首も、全く同じように舌で舐め、硬くなったら強く吸った。服とブラジャーをたくし上げられたしどけない恰好というのは、胸の造形が持つ性的感興を妙に引き立てる。
美奈が履いているのは、全くピッタリとはしていないし、丈もそんなに短くはないが、まあ形としてはホットパンツに近いようなレザーパンツだ。そのフェイクのレザー生地の上から、美奈の女性を触った。が、あまりにもごわごわしているので、ボタンを外してファスナーを下ろし、そこから手を差し込んで触った。
女がじっくり丁寧な前戯を求めているのは、知っている。前回のセックスではそうした。でも、ロボットになった俺は、それをするのがまどろっこしくてしょうがない。できることなら、このままするりと一気にパンツをずり下げ、ずぶりとペニスを挿し込みたい。
はやる気持ちをおさえながらキスをし、そのまま下半身を触った。割れ目を触る中指に、グッと力を入れて、親指でクリトリスあたりを触ると、美奈が俺の腕を持って、鼻にかかったような声を漏らした。
(そうだ。俺と同じように、美奈のほうも一気に興奮させてしまえばいいんだ)
俺は、キスをする舌に神経を集中させ、美奈を感じさせることだけを考えて動かした。ここをこんな風にされたら気持ちいいだろうというやり方で、唇と舌を愛撫した。もちろん同時に、下半身を触る指のほうもできる限りの動きをしている。すると、こういう表現は正確なのかわからないが、美奈の舌がうっとりとして俺の舌に身を任せてくるのを感じた。少しして、今度はお返しとばかりに、美奈が俺の舌を愛撫した。その息遣いと表情から、余計な力が抜けたのがわかる。快感を享受するモードになったのだろう。俺は思い切って舌を奥深くまで入れて、舌を絡めに絡めた。美奈の鼻から漏れる微かな声と、舌の反応で、多少たじたじとなりながらも、喜んでいるのがわかる。俺は前回のセックスで、女の性的興奮と言うのは、ある種の荒々しさによって呼びさまされるところがあると思ったのだが、やはり、そうらしい。俺はさらに思い切って、美奈の歯茎や口蓋まで舌で愛撫した。そういうキスの仕方を、何かの小説で読んだ覚えがあるのだ。
「ンーっ」
美奈は少し驚いたらしい声を出したが、その後俺の舌を吸ったところを見ると、あながち悪い攻めでもなかったらしい。
俺はキスをしながら、美奈のレザーパンツと、ドット柄の薄黒いストッキングを、徐々にずり下げた。ある程度ずり下がったら、顔を離し、両手で太ももの半ばほどまでずり下げた。オレンジ色のパンツがむき出しになった。パンツはパンツで小さなリボンがついている。そのリボンのかわい子ぶったちまちまぶりに、怒りのような性欲が湧いてきた。リボンでどんなにごまかそうとも、その下では淫らな粘液のクレヴァスが、湿った生温かい息を吸ったり吐いたりしているのだ。
パンツは、上のほうはレースの飾りでごわごわしているが、下のほうは妙につるつるとしている。このつるつるした素材は、きっと触られるほうも気持ちがいいだろう。まず人差し指で軽くひっかくようにクリトリスの辺りをなめらかに滑らせた。その人差し指を下の割れ目のほうまですべらせてみると、濡れている。
このパンツは、水分がしみ出しやすい素材なのだろうか。それとも、今日の美奈の感じ方が著しいのだろうか。いずれにせよ、美奈の女性は、すでにペニスを受け入れる体勢を整えている。
◆ ◆
パチスロは基本的に、毎ゲーム、ある特定の絵柄を狙わなければならない。いや、もちろん適当に打ったっていいのだが、できるだけ得をしようと思ったら、いつもいつも、絵柄を狙う必要がある。これは、慣れていないとものすごく目が疲れる。もちろん俺ぐらいになると、目に負担をかけずに絵柄を狙うコツをバッチリ体得しているわけだが、そのコツを言葉で説明すると、「焦点を絞らない」「注視しない」ということになるだろうか。リールを、見るともなくぼんやりと眺める、という感じが必要なのだ。俺は、この能力をさらに発展させて、視界の端でリール絵柄を狙うことまでできるようになっている。つまり周辺視野を広げたということだ。
これが何の役に立つか。パチスロ台の上部についているデータ機や、手元のケイタイやメモ帳を見ながら、コインを箱に詰めながら、リールの絵柄を狙うことができるので、その分時間効率が上がるのだ。
また、パチスロで勝とうと思ったら、自分の台だけでなく、周りの台の挙動にも注意しておく必要がある。いい台が空けばすぐに移動するべきだし、いい台のありかと数を把握することで、悪い台のありかと数を予想することができる。パチンコ屋というのは、限られた数のいい台を客同士で取り合う、椅子取りゲームのようなところがあるのだ。横目でそういう観察をしながら、視界の端で自分の台のリール絵柄を狙えると、ずいぶん便利なのだ。
俺は時々、ふと空しくなる時があった。こうしたパチスロの能力が実生活には何の役にも立たないことに気づくのだ。周りの大学生たちが、勉強したり、サークル活動をしたり、飲み会したり、友達と遊んだり、彼女と過ごしている一方で、自分だけがパチスロ関連の知識や技術だけをひたすらに研鑽している滑稽さを思うと、バカバカしくなるのだ。
しかし、世の中と言うのはわからないものだ。そんな実生活には何の役にも立たないと思っていた能力が、美奈との情事で役に立ったのだ。俺は美奈のパンツに手を入れ、キスをしながら、ステレオのリモコンを視界の端で探した。小さい音で鳴っているとはいえ、どうもこういう状況でBGMは邪魔くさい。テーブルの上のリモコンを手を伸ばして取り、ステレオを切り、これまた邪魔な左手の時計を外してベッドの上隅に置いた。もしかすると、一旦行為を中断しようがしまいが、どれほどの差もないのかも知れないが、俺はささやかな痛快を感じた。
美奈が、清太さん、と甘くかすれたような声で言った。
「電気、明るい」
哀切な懇願、といった趣の表情は、思いっきり抱きしめたくなるほど俺の感情を昂ぶらせた。が、それと同時に、ひどく俺の意地悪な感情をも昂ぶらせた。
美奈のパンツをずり下げようとしたら、美奈が、俺の手首を持って、恥ずかしい、と言った。
俺は美奈が好きなはずなのに、なぜこんなに意地悪な感情が昂ぶるんだろう。ロボットになっているせいだろうか。強引にパンツをずりさげると、美奈は手で自分の顔を隠した。
一刻も早くズボンを脱ぎたい、というくらい勃起した。俺はズボンのベルトを外し、チャックを開け、ペニスの窮屈をいくらか楽にしてやると、美奈の顔にのった手をどけた。
美奈は、唇を内側に隠すようにして、「ん」の形にすると、前髪を整えるようになでた。一瞬、口を開いて無理やりフェラチオをさせて、その恥ずかしそうな顔に思いっきり精液をぶちまけることを空想した。もしそんなことをしたら、美奈は何と言うだろう。
レザーパンツとストッキングとパンツを半脱ぎにしているせいで、美奈の足は広がらない。俺は、ねじ込むようにして、太ももの間に手を入れた。狭小な空間に熱がこもっている。
なぜ俺が美奈の服を脱がせないか。それは、胸や陰毛という恥部だけを晒した格好に興奮するからだ。
膣に指を挿し込んで動かすと、美奈は、アン、ねえ電気、あンっ、と言った。俺はそれを無視して膣から出た粘液をクリトリスに塗りつけ、人差し指の腹でなでまわした。
「はぅン」
喘ぎ声というのは、独特の質感がある。普段の美奈の声とは、少し違う。そしてその声は、意図して出しているというよりは、勝手に出てしまう、といった感じの趣がある。
「アンッ」
(フン、何がアンッ、だ)
なぜか妙にむかっ腹が立ってきて、美奈をめちゃくちゃにしてやりたい気持ちになった。
美奈の女性に二本の指を入れ、上壁を指の腹で刺激した。奥から手前に、長めのストロークで揉みほぐすようにすると、美奈が、うぅぅう、と言った。
「どうした?」
美奈は少し笑って、どうしたじゃないよぅ、と言った。
「気持ちいいの?」
手を動かしながら聞くと、美奈は小さく、うん、と頷いた。俺は少し力を強くしてGスポットらしき微小なツブツブのついた場所を集中的に押した。
「あン、アッ」
もしこのまま刺激を与え続けたら、美奈はどうなってしまうんだろう。いわゆる、イク、という状態になるんだろうか。
(この淫乱女め)
俺は自分でもよく分からないうちに乱暴な心理状態になって、指の動きを速めた。
しばらくその動きを続けていると、膣内が膨らむように動いた。この前と同じだ。これは、もしかすると、感じているときの反応ではなかろうか。
さらに刺激を続けていると、膣内が膨らむせいもあって、粘液がちゅぐちゅぐと音を立てだした。
二度目に膣内が膨らんだとき、はたと気づいた。指をもっと多方向に動かしてみたらどうだろう。早速、下壁をさわり、横壁をさわり、さらにはぐるりと一周触った。
「あぅぅ」
美奈は声を出し、膣内はまた膨らんだ。このぐるりとした動きは、どうも効くらしい。俺は円や半円を描くように、膣壁をなでまわした。膣はまるで生き物のようにうごめき、腹はそれと連動するかのようにへこんだり膨らんだりした。
無理な格好で指を動かしていたので、手が危うくつりそうになる。俺は一旦指を抜き、筋肉を休めた。ふと見ると、美奈の女性のあたりのシーツが濡れて、小さくおねしょのようなしみができている。こんなに粘液が出ていたのか、と手を見ると、美奈が「見ないで」というように、自分の手で俺の手を拭きとるようにした。その仕草と表情を見た瞬間、俺の中で強烈な性欲が沸騰した。すぐに膝立ちになり、ズボンとトランクスを半脱ぎにして、勃起したペニスを取り出し、美奈の足を上げて、女性を丸出しにした。白い太ももの間で、ぬめりのある海洋生物めいた器官の淫らさが際立っている。俺は亀頭をクリトリスや陰唇にこすり付けた。これくらいなら妊娠もしないだろうと、半分だけ亀頭をめり込ますようにして上下に摩擦し、快楽を貪った。
俺はあらかじめ買っておいた、棚の奥に隠してあるコンドームのことを考えた。今立ち上がって棚からコンドームを取ってきたら、美奈は何と思うだろうか。「この人セックスする気満々だったんだな」と思わないだろうか。「私以外の女ともヤッてるんだな」と思わないだろうか。とは言え、もう俺も辛抱の限界だから、何と思われようが取ってくるしかない。
とりあえず、もう挿入前の準備は全て済ませておこうと、半脱ぎになっていた美奈の下の衣類を片足だけ脱がせて、足を自由に広げられるようにした。
(もう、上は脱がさずにいこう)
もう一度だけ、と思って、陰唇と亀頭のキスを楽しんだ。
と、美奈が俺のペニスを手で持った。えっ、と思ったら、その手に力が加わって、自ら膣内に導いた。亀頭が丸ごと膣にめり込む。思わず、う、と小さく息が漏れた。
一挿しだったら大丈夫だろうという考えがあったし、また一挿しでもいいから生膣が味わいたくて、そのまま奥まで挿入した。思えばこの時すでに理性は脳の片隅と追いやられていたのだろう。
(自分から入れたってことは、外に出せば大丈夫ってことだよな)
俺はそんな自分勝手な解釈で自分の行動に正当性を与えた。
腰を振ると、美奈がその動きに合わせるかのように、アンッ、アンッ、アンッ、と声を出した。蛍光灯のおかげで表情がはっきりと見える。美奈とヤッているんだ、と強烈に思った。視覚情報が明晰なら、実感まで明晰だ。
正常位において、腰を一定のリズムでスムーズに動かし続けるのは意外と難しい。前回のセックスで練習の必要を感じた俺は、家のベッドで夜な夜な練習してきた。その甲斐あって、今日は自分でも満足のいく動きができている。腰の動きを速めると、美奈が、あっ、あ、と言った。
明るいところで乱れた表情を見られ、生のチンコを挿し込まれ、腰を速く動かせばあっ、あ、と言う。俺はそんな美奈を、道端に捨てられた空き缶を見るような冷たい気持で眺めた。なぜだかわからないが、ざまあ見ろ、というような感情も伴っている。とは言え、快楽を感じていないのかと言えば全くその逆で、ペニスは、これ以上ないというくらいガチガチに硬くなっている。
◆ ◆
勃起したペニスを女の口に挿し込み、セックスするように激しく抜き差しする行為のことを、イラマチオという。俺は無論そんなことはやったことがないが、AVではそういう乱暴なシーンが好きで、他にも例えば、嫌がっている女を無理やりハメるなどのシチュエーションが好きだ。つまり俺の性欲は、「ざまあ見ろ」という感情と密接な関わりがあるのだろう。いや、俺に限らず、男の性欲というのは本質的にそういう色味を帯びているのかもしれない。AVを見ていると、あまりにもそういうシチュエーションが多い。
世界を征服したような気分で、美奈にペニスを抜き差しした。ここで言う「世界」とは、「世の中」あるいは「人生」と言い換えてもいいかもしれない。つまり俺が対峙している、この得体の知れない、思い通りにいかない、外界のことだ。
俺は口の端でかすかに笑った。右目が細くなっているのが、自分でもわかる。
腰を振りながら、まるでレイプするかのように、美奈の両手首をベッドに押さえつけた。
(ふん、俺がその気になれば、こうやって無理やりにでも犯すことができるんだぞ。服もちゃんと脱がせず、コンドームもつけず、こんな風に野蛮にヤラれるのが、お前ら女なんだッ)
美奈は、少し顔をそむけるようにした。しかしそれは、俺の性的圧倒がそうさせたというよりは、単に快楽に身をゆだねるための体勢づくりのように見えた。
(クソッ。なめやがって)
美奈の、感じながらもどこか余裕を感じさせる表情に、俺は腹が立つと同時に、ひどく興奮した。
これでもか、と腰の打ち付けを強めていく。一回一回のピストンに力を入れて、バチンバチンとペニスを突き刺すようなつもりでやると、美奈は、ひぅ、あぅ、と声を出した。ついには美奈を壊すようなつもりで乱暴にやったが、当の本人に痛がるような素振りは全くないどころか、快楽の度合いが増していくようだ。女とは、こんなにも丈夫で、壊れにくいものだったのか。女とは、こんなにも快楽を貪ることに長けた作りになっていたのか。俺は今まで、ひどい思い違いをしていたのかもしれない。女の本質は、楚々とした草花なんかじゃなく、ふてぶてしいトドだ。
ペニスを抜き、美奈の腰を持ち上げてぐるりと体をひっくり返す。強引なやり方だったが、美奈は従順に従い、女陰をはさんだ尻が俺の目の前に突き出された。明るい蛍光灯の下に、恥ずかしさの極地が晒される。極地はぬめぬめと濡れて、美奈の性を抽出したような動物的芳香を微かに放った。
バックでハメながら、美奈のまるい尻を見下ろす。安産型と言えばいいのだろうか、ゆたかに肉がついていて、横幅はゆうに俺の腰幅をこえている。ペニスを咥えこんでキュウキュウと絞りあげそうな、そんな形の尻だ。膣の具合もさることながら、美奈のこの尻の形が俺にはたまらない。
俺は、はぁはぁと息を吐きながら、美奈に聞こえないくらい小さな声で、あー、気持いい、と呟いた。
部屋の中に、美奈の尻と俺の腰がぶつかる音が響く。不思議なことに、性的な興奮は相当に高まっているのだが、ペニスはまるで石の棒のように我慢強い。
手で美奈の腰を持ち、引きつけるようにして思いっきり突いたら、パンッ、パンッ、と、派手な音が鳴った。尻の肉が、ぶるん、ぶるん、と美奈の意思とは無関係に揺れているのがいやらしい。
(どうだ、このトド女。ほらっ、ほらっ!)
腰を速めると、美奈の喘ぎ声はだんだん大きくなった。
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