第8話

 最初に、馬乗りするような体勢になって、両手を美奈の肩の横についた。映画のベッドシーンでよく見る体勢だ。

 とりあえず、一度、短めのキスをして、右手で、美奈の左胸をゆっくりと揉んだ。やわらかいが、下半分にはブラジャーの、ごわっとした手触りがある。


 キスをしながら、乳首はこのあたりだろうかと思って、人差し指と中指の指先で探ってみると、少し硬いものにふれた。くりくりと動かすように触っていたら、美奈が、んっ、とかすかな声を鼻から漏らした。乳首が硬さを増したようだ。


 美奈の服は首元が広かったので、そこから右手を入れて、ブラジャーの中に手を入れた。直に触る胸は温かくて、少ししっとりとしている。指先が乳首を見つけたので、人差し指でいじった。乳首は想像以上に固く、乳輪がぎゅうっと縮こまっている。美奈が、指の背で自分の口を隠すようなしぐさをした。


 美奈の服をたくし上げ、黒いレースのブラジャーにおさまった丸い二つのふくらみを、今度は両手で揉んだ。ブラジャーは、淡いピンク色の下地の上に、黒いレース生地が重なっていて、かなりおしゃれだ。なんだかそれが俺をひどく興奮させる。



 服脱いで、と俺が言ったら、美奈が、一回起きるね、と言った。二人は座って向かい合うような体勢になる。

 美奈が上衣を脱いで、髪を手ぐしで軽く整えた。

 と、その瞬間、美奈の上半身の造形美に目を見張る思いがして、思わず抱きついてしまう。美奈が、わあッ、と言った。そのままキスをして顔を離すと、美奈が、んふふっ、ブラも取っちゃうね、と言った。俺は、うん、と言った。ブラジャーの外し方なんて知らなかったから、内心かなりほっとした。


 美奈の胸は、美しいという形容をしても大げさでないような、バランスの取れた形をしていた。俺はすぐに左の乳首を口に含んだ。舌で舐めると、美奈は、ぅんッ、と鼻にかかったような声を出した。

 やはり人間には乳首を口に含む本能があるのだろう、俺は乳首を舐めることに夢中になった。

 両手を美奈の腰に回し、抱き着くようにして乳首を吸ったり舐めたりしていると、んぅっ、うぅ、と、だんだん美奈の声が漏れる頻度が高くなってきた。舌を乳首に絡みつけるように動かすと、美奈は俺の腕のあたりを、ぎゅっとつかんだ。              


 

 そろそろかな、と思って、その体勢のまま、右手を美奈のふくらはぎから膝に這わせた。そしてスカートの裾から手を入れ、すべすべと弾力のある、肉付きの良い太ももを経て、パンツの上から恥丘を触った。そこから下へ行って、中指で割れ目のあたりをなぞってみると、少し湿っている。濡れているのだろうか。

 俺は確かめるべく、今度は割れ目に指を少し押し込むようにして、何度かなぞってみた。すると美奈が突然、あぅうう、と、普通にしゃべるときくらいの大きさで声を出した。一瞬驚いたが、さらに割れ目をなぞり続けた。やはり、明らかに濡れている。ここまでの手順は良かったようだ。


 美奈を寝かせ、スカートをめくろうと手を伸ばしたら、美奈が、清太さんも脱いで、と言った。



 まず、着ていたラグランTシャツを脱いだ。それから左手の時計を外して、ベッドの枕元にある、小さな棚のようなスペースに置いた。ズボンを脱ぐと、トランクスの前がにょっきりと突き出ているのがあらわになった。さっきからずっと勃起しっぱなしだったので、先端が先走りの液でじっとりと濡れている。


 美奈の体をもっとよく見たいと思ったので、少し明るくしていい、と聞いたら、美奈は、ダメっ恥ずかしい、と言った。俺は黙ってほんの少しだけ、スタンドの光を明るくした。美奈の白い肌が、いっそう白く見えるようになる。


 美奈のスカートをたくし上げた。程よく肉のついた女らしい太ももと、ブラジャーと揃いの黒いパンツが露わになる。俺は美奈の右乳首を舐めながら、右手でパンツの上から、クリトリスと思われる場所を触った。ちなみに、いきなりパンツを脱がさないのは、女はじっくりと丁寧な前戯を求めているんだと、雑誌などでよく目にしていたからだ。

 俺はクリトリスがどこにあるのか、その大体の位置しか知らない。でも、指先に神経を集中させて、それらしきところを探り当てた。高校時代、麻雀の盲牌で指先の感覚を鍛えていたのが役立ったのかもしれない。


 割れ目をなぞったり、クリトリスを指でいじっていると、美奈が、ふぅぅう、んっ、とまた鼻から声を出し始めた。俺は美奈のスカートの横についているボタンを外し、チャックを下ろした。スカートを取り去ると、美奈は右手でへそのあたりを隠すようにした。

 俺はなぜか意地悪な気持ちになって、その手をどけた。真っ白で、きれいなお腹だ。思わず手で撫で、それでもおさまらずに舌でなめた。美奈の体が、少しピクッとした。



 また美奈の右乳首を舐めながら、パンツの上から触った。なんだか、さっきよりまた濡れたような気がする。そこで、今度は舌を入れるキスをしながら触る。


 もう十分だろうという頃合いで、パンツの中に手を入れる。

 最初に毛が触り、下に中指をずらしていくと、割れ目に届く前にぐっしょりと濡れている。まさかここまで濡れているとは。

 更に下に行くと、にゅるりとした割れ目に指が届いた。クリトリスをくるくると指先で撫でると、美奈は、舌の動きを止めて、鼻から大きく息を吐いた。しばらくそれを続けていると、鼻から出る声が、くぅゥん、と、一段高くなった。美奈の口の中の力は、だんだん抜けたようになり、鼻息が、深く大きくなりだした。


 そのままにゅるんと滑らせるように、中指を半分ほど膣に入れた。んぅぅ、と美奈がかすかな鼻声を出した。中は熱くて、口の中のようにニュルっとやわらかく、ソープ嬢のより、明らかに狭い。入り口周りの肉も、まるで指に絡みついてくるようだ。


      ◆                  ◆


 両手で美奈のパンツに手をかけ、下にずりさげた。陰毛がきれいなひし形に生えそろっている。膝の所までずりさげたとき、美奈が片足をパンツから抜いた。そのごく自然な動作は、美奈のセックス慣れの一端のように見えた。ちらと、この美奈を満足させられるんだろうか、と思う。


 引き続き美奈の右乳首を舐めながら、同時に下半身をまさぐった。このやり方しか思いつかなかったし、またこれが一番いい方法のように思えた。そんなに楽な体勢ではないので、少し汗ばんできたが、当然そんなことには構っていられない。

 パンツがなくなって、ずいぶんと手が自由になったので、俺は改めてクリトリスを触る。触りながら、その構造や膣との位置関係を指先で確かめた。


 クリトリスはもういいだろうと思い、今度は膣内を触ることにした。

 中指を曲げて上壁を触り、Gスポットであろう場所を探す。舌の裏を触っているような感触があり、手前から奥のほうへ触っていくと、つぶつぶとしている一帯を見つけた。何だろうと思って指先の腹で盲牌するように触ると、美奈が、ひぅう、と短い声を出した。顔を見ようとしたら、美奈は顔をのけぞらせるようにして、手で口を押えたところだった。ここがGスポットなのだろうか。俺が本や雑誌で得た知識では、もうちょっと手前のはずだったんだが。



 乳首から口を離して体を起こし、右手は指を入れたまま、美奈の反応を伺うことにした。つぶつぶ一帯や、さらにその奥、それから入り口付近、とそれぞれ触ってみるが、美奈はどこを触っても、同じように感じているように見える。とりあえずつぶつぶ一帯と、その少し手前に見当をつけて、指先を前後左右になすりつけるように触った。美奈が、息を止めて、何かを堪えるような様子を見せたと思ったら、口を押えた手の隙間から、子犬が鼻を鳴らすような、んぅぅぅぅう、という声を出した。やはりこのあたりなのだろうか。


 しばらくそのまま触っていると、一瞬、膣内が膨らむような動きをしたので、思わず手を止めた。指を抜いてみると、知らない間に、かなり手が濡れている。このにおいだろうか、辺りに、かすかに、海水を薄めたようなにおいが漂っている。


 もうそろそろ、入れてもいいんじゃないだろうか。そう思って、はっと気が付いた。コンドームはどうしよう。

 顔をそむけるようにしていた美奈の顔を覗き込んで、ゴムある、と聞いたら、持ってない、と言った。えっじゃあ、今からどうするんだと思って黙ったら、美奈が、今日私大丈夫な日だから、と言った。俺は心の中で、はあ!? と叫んだ。大丈夫な日って何だそれ。生理の関係だろうか。でもそんなの聞いたこともない。


 「大丈夫な日って何?」


 「妊娠しない日」


 痛いほどに勃起しておいてなんだが、正直かなりためらってしまう。今まで保健の授業でさんざん聞いてきたから、コンドームをつけるのは常識だと思っていた。つけなかった場合、どれくらいの確率で妊娠するかも知らない。


 美奈が、俺の背中に手を回して、きて、と言った。


 トランクスを脱いで、美奈に一度キスをして、その間に決心をつけた。

 100%ではないにしても、美奈が言うんだから高確率で安全な日なのだろう。どう考えてもここでやめるとは言えない状況だ。イク前に早めに膣から抜こう。


 美奈の膝を立てて広げると、左右対称な陰唇に挟まれた女性が良く見えた。ソープ嬢のよりも姿かたちが若々しくて、ぴったりと閉じている感じだ。 


 勃起して硬くなった亀頭を膣口にあてがい、上下に滑らせた。AVで見ているので、なんとなく入れる前はこうするものだという考えがある。美奈は、中指の背を口に当てて、ンっ、と言った。これも気持ちいいのだろうか。亀頭を半分ほどめり込ませるようにしてこすると、また、ンンっ、っと言う。亀頭の先と陰唇がぬらぬらと光っている。


 ゆっくりと挿入したら、美奈が手のひらで自分の口を押えて、ひぅううう、と言った。俺も、思わず、はあっ、とため息が出た。ニュルニュルとした感触の肉壁が、ぴったりとペニスを包んだ。一、二回ゆっくり前後に動かしてみると、気持ちよさで頭の中がふわっと浮いたようになる。

 動くよ、と俺が言ったら、美奈が、喘ぎ声のような声で、うんっ、と小さく言った。


 何回か動かすうちに、これは大変なことだ、と思った。ソープでゴム付きで、ゆるい膣に入れるのとは、全く別次元の気持ち良さだった。こんなに気持ちいいものが世の中にあっていいんだろうかと、真剣に思った。

 ペニスの挿入と連動して、美奈の鼻から、ンっ、ンっ、と声が出る。その高音のあえぎ声に、俺はますます興奮してしまって、もうエリナやユカリが起きようが知ったことじゃないと思って腰を動かし続けた。


 と、早くも射精感がこみ上げてきて、慌てて腰を止めた。まだイクには早すぎる。美奈は満足しないだろうし、何より俺がもっとこの快楽をむさぼりたい。美奈に覆いかぶさってキスをしたら、美奈の舌がとんでもなく積極的に動いた。


 もうちょっと激しく動いていい? と聞くと、美奈がいいよ、と言った。

 強く腰を打ちつけたら、美奈の太ももや尻がパコンパコンと音を出し始めた。美奈は、自分の手の平に、アンっ、アアンっ、と、声を吸い込ませた。

 また射精感が来たので、腰を止め、美奈を見下ろした。美奈が、見ないでぇ、と言って、枕で顔を隠そうとした。俺はそれを手で制止して、美奈の顔をじっと見た。別に勝ち負けではないのだが、勝ったような気分だ。


 また腰を動かし始めたが、数回のピストンで、すぐ射精感がこみ上げてくる。これはあまり長く持ちそうにない。一旦止めて、またキスをする。

 キスをしながら思った。体位を変えるついでに、一回膣から抜いて、射精感を鎮めよう。



 ペニスを抜いて、美奈に、後ろ向いて、と言った。美奈は黙ってその通りにした。

 俺はバックでするのは初めてだ。でも、実を言うと、AVなどでは、バックのシーンばかり見るくらい、バックが好きだ。女の体の中で、尻や、太ももが一番好きなのだ。

 後ろ向きになった美奈のくびれやしっかりした尻周りを見ていると、呼吸が荒くなるほどの興奮を覚える。陰唇の縦すじが、悪魔的に誘惑してくる。


 膣口を探すのに少し手間取ったが、指で確かめたらすぐに分かった。ペニスを挿入すると、ニチチッ、と、音がした。俺は美奈の腰を持って、パンパンと打ちつけながら、気が遠くなるほどの快楽を感じた。美奈は、枕に顔をうずめて、ずっとアンアン言っている。

 と、我慢する間もなく、急に射精の導火線に火がついたのが分かった。俺は急いでもう二回分だけピストンをむさぼり、ペニスを引っこ抜いた。手を素早く動かして亀頭をしごき、思わずふうっ、っとうなり声が出るほどの快楽に身を投じた。精液が、ピュッ、ピュッと飛び出し、美奈の尻どころか、背中、首元の髪の毛にさえ飛んだ。全身に鳥肌が立つ様な感じが走った。 


 美奈の腰をぎゅっと握りしめていた左手がようやくゆるみ、俺は呆然として抜け殻になった。部屋の中に、ハアハアという息だけが聞こえて、俺たち以外の何もかもが眠っているかのような静かさだ。


      ◆                   ◆


 はっと我に返って、化粧台の上のティッシュを取らないと、と思った。俺が、ティッシュ取るから動かないで、と言ったら、美奈が、うん、と言った。


 まずティッシュを二枚取って、ペニスの中に残った精液を絞り出して、拭った。次に、五六枚取って、美奈の尻や背中を拭き始める。

 自分の飛ばした精液ながら、その飛び散り具合が急におかしくなって、ふっ、と思わず笑いが漏れた。美奈が、えっ何と言って振り返る。


 「いや、相当出たなって思ってさ」


 美奈が少し照れたように、ほんとだよ、と言ったので、俺はハハハと声を出して笑った。


 「俺の精子、背中を越えて、髪まで飛んでるんだけど」


 「ええッ、うそ。拭いて拭いて」


 「ははは。下のほうにちょっとだけしかかかってないから、大丈夫だって」


 「ベッドにかかってない?」


 「ちょっとかかった」


 「拭いて拭いて、エリナに怒られちゃう」


 「あははは」


 「フフフフ」


 ティッシュを何重かに包んで床に置き、ベッドにごろりと横たわった。美奈は、毛布を引っ張りあげて、自らと俺とにかぶせた。俺のぼんやりとした頭が、毛布の滑らかな肌触りと美奈の素肌の感触を感知した。


 美奈が俺の腕に抱きつくようにして、くっついてきた。見ると、どこか従順な犬みたいな表情だ。美奈はどちらかというと、きりっとしたような顔つきだが、こんな表情もするのか、と思う。

 美奈が俺に、ちゅっ、とキスをして、にっこり笑った。俺は、五秒くらいのキスを返した。

 俺は天井の照明をぼうっと眺めた。美奈が、俺の顔を見て、俺の目線の先を見た。そして、うふっと小さく笑い、またあの照明見てるんだね、と言った。その嬉しそうな顔は、幼い子どもが面白いものを見つけたときの顔に似ている。



 俺が、ティッシュどうしようか、と言うと、美奈が、トイレに捨てようよ、と言った。


 「じゃあ俺、捨ててくるわ。エリナに怒られちゃうからね」


 美奈はそうだねフフフフと笑って、でももうちょっとゆっくりしてようよ、と言った。


 しばらく体をくっつけたままじっとしていると、美奈が、清太さん、と言った。


 「何?」


 「ジュース取って」


 俺はベッドから上半身だけ乗り出して、『桃リッチ』を取る。はい、と言って渡すと、美奈はありがとうと言って、一口だけ飲んだ。


 「それ、うまいの?」


 「飲む?」


 飲んでみると、少しとろみがあって、濃い。

 美奈が、どう、と言ったので、結構いけるね、と返した。


 「これ、二百二十円するんだよ」


 「高っけえ」


 「ふふふ。でもおいしいからいいの」


 「あっ、そういえばさ、パチ屋の中に、コーヒーレディっていう、コーヒー売りのお姉ちゃんがいてさ。知ってる?」


 「しらない。そんなのあるんだ」


 「うん。セクシーな衣装着て、客を惑わしながら高っけえコーヒー売ってるんだよね」


 「ふふ。惑わしてるんだ」


 「そう。でさ、その値段がさ、コインで交換するんだけど、金で言うと二百八十円もするわけ。小っちゃい紙コップのしょうもないコーヒーなのにさ」


 「清太さんは惑わされないんだね」


 「たまーに、惑わされる」


 「あはははは、何それ」 


  …… 


   ◆                 ◆



 俺は毛布の中で、美奈の胸に手をそっとのせてみた。


 美奈が、赤ん坊に笑いかける母親のような顔で、おっぱい好き? と言った。俺は思わず、ふはっ、と息を吐くようにして笑った。


 「何その質問?」


 「好きでしょ」


 「好きだけどさ」


 美奈は、うふふと笑って、胸を触っている俺を見た。照れくさいが、心のどこかがくすぐったくなるような、心地よさがある。


  乳首を指で触ると、美奈の体が、ピクッとした。顔を見ると、まだ敏感だから、と少し恥ずかしそうに言う。俺は思わず、どういうこと? と聞いた。


 「まだエッチが終わったばっかりだから、体が敏感なの」


 俺は、へえー、と言ってから、しまったと思った。そんなことも知らないんだと思われたかな。……まあ、いいか。



 「清太さんは、女の体の中で、一番どこが好き?」


 「お尻と、太ももかな。……と足」


 「えっ、何なに。どれ? 三つ?」


 「ハハハ。だめ?」


 「だめじゃないけど」


 「じゃあお尻から下全部。……あ、下半身、て言えばいいか」


 「そうなんだね。おっぱいじゃないんだ。じゃあ、順番つけるとしたら、どうなる? 一番は?」


 「うーん、やっぱお尻かな」


 「二番」


 「足。太ももとふくらはぎ、っていうか、足全部だな」


 「三番」


 「うーん。まあ、、胸かな」


 「やっとおっぱい来たね。……四番は?」


 「四番?! もうないでしょ」


 「あるある。全然あるよ」


 「うーん。……あっ、あるね。くびれ。腰だ。腰があるわ」


 「腰四番ね。じゃあ……」


 「ちょっと待って。俺、腰三番にするわ。腰三番の、胸四番」


 「へえー、珍しいね。男の子ってみんなおっぱい好きなのかと思ってた。……じゃあ五番」


 「ははは。まだくる? 何この質問タイム」


 「いいからいいから」


 「じゃあ、五番が、手。で、……六番が二の腕。七番が……ほっぺた」


 「ほっぺた!?」


 美奈が口を押えて、声を押し殺すようにして笑った。



 美奈が、パジャマとってこようかな、と言った。俺がそうだね、服着てなかったら朝大変なことになるもんね、と言うと、美奈が笑って、うん、と言った。


 美奈が半身を起こしてブラジャーをつけ始めた。俺はこんな場面を見るのが初めてだから、珍しくてじっと見入っていた。なぜか勃起してしまう。美奈が俺の視線に気づいて、もう、と言って、手で俺の目を隠した。本当はパンツをはくところも見たかったのだが、毛布の中ではかれてしまった。


 美奈が服を着てリビングからパジャマを持ってきた。パジャマは、水色地に紺色の小さなドット模様だ。俺が、二人とも寝てた? と聞くと、美奈が、うん、大丈夫だった、と言った。


 俺はズボンをはいてベルトを締めながら、帰ろうかな、と言った。美奈は、服を畳んでいた手を止めて、何で、と言う。


 「だって、明日の朝気まずくない? あっち部屋の二人にさ」


 「うーん……。別に大丈夫だと思うよ」


 「そうかな?」


 「うん。多分」


 「何て言うだろ」


 「えーっ。何て言うかなぁ」


 「ほら。絶対気まずいって」


 「普通にしとけば大丈夫だよ」


 「俺ウソつくのがすっげえ苦手なんだよね」


 「大丈夫。今帰っても危ないし、一緒に寝よ?」


 俺はまあ美奈がそう言うなら大丈夫か、と思って、一緒に寝ることにした。ポケットの中の、ケイタイ、財布、鍵束、パチスロ用の手帳、を時計の横に置いて布団に入る。



 美奈は十分もしないうちに眠ったが、俺はすっかり目が冴えて眠れない。第一、若い女と一緒に寝るのが初めてだし、今日は一日いろんなことが起こりすぎた。

 暗くなった部屋で、俺は涅槃仏のように肘をついて、美奈の横顔を見ながら考える。


 こんなにトントン拍子に事が進むこともあるんだな。付き合うまでには、もっと時間がかかると思っていたけど。いや、まだ厳密に言うと付き合ってはいないか。でもこうなった以上、付き合ったも同然だよな……

 こういう場合、付き合うという約束は、いつどうやってするのがいいんだ? さっき裸で毛布でくるまっているとき、今言ったらいいんじゃないかとチラと考えたけど、結局言わずじまいだったんだよな。OKもらう自信はあったけど、何か違うような気がしたんだよな……

 ……多分俺には、ちゃんとした告白をしよう、という考えがあるんだろうな。今までずっとそういうものだと思い込んできたからな。……


 ……うん、やっぱりスーツを着て告白しようが、トランクス一枚で告白しようが、誠意を込めて告白すればいいんじゃないのかな。結果的に気持が通じ合いさえすればいいんだから。

 ……いやでもやっぱりちゃんとした告白されたほうが、美奈も喜ぶのかなあ。



 美奈が、すう、と大きく一つ息を吸った。別に起きたわけではなさそうだ。


 俺は美奈の顔にかかった髪を、そうっとよけて、寝顔を眺めた。

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