第八話 「傲慢」

「!?」

リズはナイトメアが自分の術中にはまっていることに信じて疑わなかった。そのため投げられ避けるための動作を一瞬遅れてしまった。

アリスはリズを抱え、走ったが、リズの耳と左腕が切れてしまった。

リズのぬいぐるみの身体に入った綿めんが垂れる。

「ありえない。僕の術中にはまったらもう僕の玩具おもちゃのはずなのに!」

アリスが激然げきぜんと驚きを隠せないでいる。

「にいちゃん、にいちゃぁ!」

メアリーは兄の無事に心から安堵して涙が次々に流れていく。

キッザーもナイトメアが本当に無事意識を取り戻したかわからないためメアリーに駆け寄って怪我がないか確認する。

ナイトメアは黙ったまま答えない。

じっとメアリーを見つめている。

ナイトメアはようやくリズとアリスに振り向く。

「俺はメアリーに手を挙げようとした。それがなによりも自分が不覚だからだ。だが、人の弱いところをつく。お前が俺は許せない!」

アリスは乱れた髪を整え、リズの布地ぬのじを撫でる。

「子は親に弱い。それは事実」

リズがアリスを意味ありげに見つめている。

「だが、親を乗り越えるのは子だ!」

ナイトメアは姿勢を低くし、犬のうなる。

アリスはそう言われてナイトメアをにらみ付けた。

「仕方がない。これは僕の玩具が減るのが嫌だったけれど」

リズは念じに入った瞬間にリボがアリスの背後に周り、首にサバイバルナイフを突きつける。

「!」

リズはなにがなんだかわからなくなった。

「俺はおとりだ。おしゃべりが過ぎたんだよ。傲慢ごうまんな野郎」

ナイトメアは吐き捨てるようにいった。

「リズ、リズはこのアリスという子を大事にしているようだな。下手な動きをしてみろ。アリスの首がとぶぞ」

「そうか。負けた原因は僕の自己満足で怠信だしんしていたからか」

リズは降参し、全ての力を解放したようだ。アリスの死体は操り人形の糸が切れたように崩れ倒れた。

リズはぬいぐるみの肉体で着地した。

「僕の感情石は察する通りに傲慢の石。この綿の中にある」

リズはナイトメアとリボにはさまれて言った。

リボはリズを持ち上げてサバイバルナイフで腹を裂いたその時にアリスが突然動きだし、リボのポケットに入ったピストルを抜いた。

「馬鹿が!そんなおどしに僕は通用しない!」

ナイトメアは動けずにいた。

だが、リボは違う。

アリスは引き金を引こうとするとアリスはピストルを手から落ちてガラクタの玩具の人形のように胴体どうたいのみが倒れた。

「アリス……?」

リズは今見ていることが理解できない。

リボはサバイバルナイフでアリスの首をいだのだ。

「アリスゥゥゥ!」

リズは断末魔だんまつまのような叫び声をあげ、アリスの側に行きたがるように身体をばたつかせるが、リボの手は離そうとしない。

キッザーとメアリーはリボの敵に対して冷たさにゾッとさせられる。

ナイトメアは黙ってリズを眺めている。

「アリス、アリス、アリスゥゥゥ!!」

痛々しい叫び声を聞き続けるキッザーとメアリーはあまりにも良心に響き、耳をふさぎたくなる。

その瞬間リボは無造作にリズの裂いた腹部に手をまさぐり、貪欲どんよくで紫色に光るかたまりを取り出した。

そうすると続くように叫ぶような声もうっすらとしか聞こえなくなる。

リズはその時に思う。

(僕らは何処でどう間違えたんだろう?ねぇ、アリス、僕は……)

目がかすむ。口も重たくなる。そして手も足も。このような姿になってリズは生きていたときのアリスを思い出す。



僕が目を開けたら直ぐにアリスと会った。会った場所はベッドの上。アリスは生まれつき身体が弱く、寿命さえも医者にすでに言われた後に僕はアリスに作られた。寂しくをぬぐえるように。

アリスは手芸が上手く、父が残した趣味の骨董品こっとうひんの中に感情石があった。アリスは感情石のことを聞いて僕を製作したのだ。

アリスは僕が動き、喋り、知恵があるのを見て聞いているといつも嬉しそうだった。

アリスはよく外を見て、城のような家を見に来る子供達を眺めていることが多かった。

そんなときに僕はぬいぐるみなのに夢をみた。多分人間がいう夢、正夢なのかもしれない。

夢では女神と名乗る女が僕に言った。

「何か力を授けよう。1つだけいいなさい」

僕は迷ったが、こう願った。

「霊を操る力を下さい」

女神が笑った。

「そんなことでいいのね?」

「僕はそれでいい」

僕はアリスのことを思ったのかもしれない。じゃなかったら、僕はアリスに自慢をしたかっただけかもしれない。

女神が僕に光を与えた。

僕は受けとると女神は消えた。

そして目が覚めた。

力はすぐに使えてアリスに父と母の霊を呼んでアリスは家族3人で幸せのように見えた。

だけど違った。アリスには死の恐怖と言うものを実感させるだけだった。毎日少しずつ寿命が削れていくのに耐えられなくなりつつあった。食事も、僕にも会わなくなった。

ただ部屋には僕が呼んだ両親の霊だけ。

しばらくするとアリスの容態はおかしくなり、なにもできないままアリスは両親と共に行ってしまった。

僕を置いて。でも結局、アリスは僕の力を欲していたと僕は思っている。

アリスが息を引き取った直後にあのへらへらした僕と同じ感情石を持つ人形が来た。そいつが言うには死体を腐らせない液薬があるという。僕は直ぐにアリスを液薬の中につけてアリスの魂を入れた。

だけど、僕は呼び出したのはいいけどアリスを操る形としてになってしまった。僕が女神にそう願ったから。

そしてへらへら笑った人形はいつか手駒になって仕事をしてもらうという契約を交わし、僕は下町に子供の母に病気を流行らした。たちまち母親達は死んだ。僕は子供に母親の幽体ゆうたいを操り、子供の心さえも操ってアリスの遊び相手を作った。でもアリスは人形のように命じなければ動かない。そんなことを繰り返すと下町の父親どもがここをぎ付けた。

父親どもはその子供達を操り、殺させた。

それでもアリスは命じなければなにもしない。

僕はアリスに喜んでもらえると僕なら喜ばせてあげられると思ったのに。

僕は何処どこで何を間違えたんだろう。



「ぼぉ……くぅ…………はぁ」

リボはリズをアリスの死体の上に投げた。

リズは完全に力尽きようとした瞬間アリスの身体から輝かしく光だした。

「霊体が抜ける」

キッザーはボソッと呟いた。

リズは微かに首を横にする。

アリスの霊体は逃がしたくないのだ。

しかし、リズやその場にいた4人にもしっかりと少女の声が聞こえた気がした。

ありがとうと。

リズはぬいぐるみのボタンの目を輝かせたとおもうと、力尽きた瞬間にボタンに微々が入った。

そして部屋全体が淡く黄色い輝かしく染めた。

城から出られたのを喜んでいるように。

「キレイ」

メアリーはそれをみて呟く。

「そういえば、リボに幻は人形だから見えたかったとしてメアリーちゃんには何できかなかったんだろう?」

「私もわからないんです」

メアリーも知りたそうに聞いた。

「それはメアリーが親を亡くすのに早すぎたことだ。霊体を呼び出しすのは条件がいるんだろう。母親の記憶なんだろうな。だから下町の日記には子供は誘拐ゆうかいされたが赤子は無事だったのもそのせいなんだろうな」

リボがアリスの首からサバイバルナイフを取り出す。

「僕も幼い時になくして記憶はないよ」

キッザーがいうとリボが言う。

「キッザーは母親の写真だけでも姿形として覚えていたからだ。メアリーはそれさえもない。形見しかないのだから」

メアリーが側にいてもリボは気遣いもない。そこでメアリーは聞きたくなくなり、兄の側による。

「兄ちゃん」

ナイトメアは大剣をさやに直してメアリーを見る。

「お母さんを見たんでしょ?お母さんはどうだった?」

メアリーがチラチラと遠慮がちな目配せをして兄に聞いた。

「ああ。元気だったよ」

ナイトメアはただそれだけを言った。

そしてメアリーの目を見る。

「悪かった。メアリーにもう刃は向けないよ」

「あれは兄ちゃんが操られていただけで」

メアリーは困ったようにいうと兄は一方的に話す。

「俺が悪いんだ。精神が弱い俺が」

聞いて貰えないとわかるとメアリーはリボの側にいった。

「……」

ナイトメアはメアリーの様子を伺うように見つめる。

潜在能力せんざいのうりょくは君凄かったよ」

キッザーが意地悪っぽく笑うとナイトメアが鼻で笑う。

「しかしそれはあくまでも潜在能力であり、現在ない力だ。潜在能力が凄いだけじゃあメアリーを守れやしない」

ナイトメアは自分の弱さに頭を抱える。

「君は考えすぎだよ」

「キッザーのように俺は楽観主義者じゃないんでね」

「お、いうね」

「フン」

キッザーは笑うとナイトメアは連れなく、そっぽ向く。

「そう言えばプライドの石は?」

「もうない」

キッザーがリボに聞くと、リボは城の詮索せんさくに入る。リボのあとに3人は後を追う。

「ないだと?」

「どういうことですか?」

兄妹がリボに聞く。

「石は私が握り締めて取り出した瞬間に私の機内に透き通るように消えた」

リボは鍵がしまった扉をこじ開けては中を確認する。

中にはやはり死体の山だ。

寝室や骨董品まであったが、リボは目をくれやしない。

「なんだ。見れなかったのが残念だな」

キッザーはやっと2つ目の石を手に入れたものを見たかった。

「リボさん、一体何を探しているのですか?」

メアリーが恐る恐る聞くとリボは舌打ちをした。

「死体を綺麗なままできたものがなんなのか知りたいんだ。あまりにも自然を歯向かっている」

リボはまた部屋のドアを開けては探す。

「実験室みたいなのを探しているのか」

ナイトメアが納得したように頷く。

「そう言うことだ。まるで死体を人形みたいにしているのは何かある」

リボが説明するとあることに気がつく。

「キッザー」

「なに?」

「お前死体をみて平気なのか?」

キッザーは以前死体を見て気分を悪くしていた。

「ああ、もう免疫力めんえきりょくがつきつつあるのかな。それにこれは死体だけどまるでリボがいう人形みたいで死体だって意識はまるでないんだ」

リボは呆れて詮索の続きに入るが、成果はない。

「リズめ、一応こうなることを予想して移したか」

リボは悔しがっていると3人は驚いた様子で直視する。

「なぜそんな顔をする?」

リボはなぜこんなにも悔しがらない3人を理解できない。

「いや、だって……」

キッザーはリボから視線を外して、ナイトメアとメアリーを見る。

「リボが悔しがる顔を見たのが初めてだからだ。リボはいつも鉄火面てっかめんだからな」

「そんなことないよ。リボは微笑みは可愛いからね」

キッザーは慌て追加していうが、リボは聞いてない。

「つまり早速傲慢の石の効果が現れたということか」

「じゃあ、傲慢の能力を受け継いではいないのか?」

ナイトメアが聞くとリボは念じ始めたが、何も起こらず、首を残念そうに横にふった。

「ダメだ」

「なんだ。つまんないね」

キッザーは口をすぼめるとリボの機体の損傷そんしょうを思い出した。

「何もなかったし、次の旅の準備をはじめるまえにリボの機体を直さないと」

「大事な荷物は洞穴へ隠してあります」

メアリーはキッザーに言うとうなずいて玄関に向かった。

廃墟はいきょの町に灯油があったわ。直したら悪いけど、4人でまたここに運んではくれないかしら?」

「何をする気だ?メアリー」

ナイトメアが問うとメアリーは屋敷の中を眺める。

「ここは死体の山。あまりにも可哀想でひどい館。灯油を使って燃やしたほうがいいと思うの」

「そうだね。ぼくも賛成」

キッザーはメアリーが珍しくびくびくせずに物をいったことをしっかり見ていた。

「好きなようにすればいい。私には理解できない行動だからな」

リボは刺された機体を無関心に見つめる。

「じゃあまずリボの修復といこうか」

キッザーはリボの手を取り、先頭へ歩く。

ナイトメアも続くが、メアリーはアリスの死体を見つめる。

アリスは綺麗なまま焼かれるが、親の元にまたもどれてよかったとメアリーは思った。

そして兄をみる。

下唇を噛み、兄をうらめしげにみるメアリーは怒っているように見えた。

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