エピローグ 「地下」

「王様! 正気なのですか?」

会議室ではグリフォン王国の大臣達が跡継あとつぎの事でセントラルシティーへとで向いていたのだ。

そして、王様のある言葉でその場の雰囲気が険悪である事がわかる。会議室で話声が飛びあっていた。

「正気じゃよ。何度も言わせるな」

王様は車椅子に座って大臣を宥める。

車椅子の後ろにはスーツに身をまとうあの女王がべったりと側を陣取っている。

眼鏡をかけて知的な女性のように見せかけている。

もそもそと口元を動かす王様は生前と変わりが無いように見える。

この前に女王に殺されたはずの何事も無くと一緒に居るのだ。

「しかし! このような小娘がこの国の主になるのは考えものですぞ。この国について何も知らないものが、この国の最高責任者には相応しくない。もう一度でいいですから考え直しください」

50代から80代の男性の大臣達の1人が言う。

「リヒト王!今しがた信じがたいことを言われましたな。伝統も何もかもつぶしてしまうような事を!」

威厳があるひげが特徴的な大臣が唾を飛ばしながら大声で怒鳴る。

「そうですぞ。考え直してくだされ。国を思ってこそ、王がすること。あなた様がやってるいることは一時的な感情で動きすぎている。冷静になってくだされ」

冷静かつ温厚な老婆の大臣が諭すようにいう。

「いや、訂正などせぬ。私の現妻であるエリナ王妃に国の権利すべてを譲渡じょうとした。以後言わせるでない」

その決意の固さに呆れるものや怒りを募らせるものがいた。

「エリナ王妃様。そなたは若い。若すぎる。そなたにそんな責任が負えるというのか? 村長ならまだましじゃ。いや、それも立派な事だ。だが、国は違う。国にはおよそ3億4千万人がおるのじゃ。そなたはそれを抱える事が出来るというのじゃな?」

温厚そうな老婆が優しく諭す。

それを聞いて女王でありエリナは口を開く。

背筋が凍るような独特な薄っぺらい笑みを浮かべる。

「正直に言おう。女王。貴様にこの大きな民や国を治められるような器じゃない。小娘にこの国の権力を握り締めていては国が崩壊してしまう。それこそ他国に攻め入れらる口実が出来てしまうわけだ。約2百年前の人形を使った戦争では容易に勝ったのはいいが、次はそう上手くいくかさえ保障はなかろう。それほどなる力なのだぞ。分かっておるのか?」

エリナはうつむいて黙って聞いているが、さすがに苛立ちを覚えつつある。私が人間に選りすぐれないわけがない。そう嫉妬心を燃やして。

「だまれ。それ以上愚弄ぐろうするな。大臣であろう者が、そちらのほうがよっぽど心が取り乱しておるのではないか? マリアよ」

王様はうなるようにいうとマリアというエリナに訴えかけた女の大臣は自粛じしゅくする。

「申し訳ありませぬ。私とした事が。しかし、王様……!」

「聞きたくもない。もう最終決定したことだ。決定権は私にあるのだ。エリナは心配などないのだから。黙って見ておれ」

王様は女王の手をさする。絶句した大臣たちを見せびらかすように。

「我がおきさきよ。寝室に連れて行ってはくぬか?もう疲れた。休ませてくれ」

「王様が望むのであらば」

病人をいたわるよう大事にその部屋を後にする。

部屋から出た2人は大臣たちが騒ぎ立てている声をしっかり聞き取っている。

すべての不満を聞き入れると、女王は王様の寝室へと向かった。


部屋に入ると、女王は素早く部屋の鍵と窓を閉め、カーテンをも締め切ってしまう。

部屋にはカーテンから漏れている太陽の光でどこに何があるか形だけがにとの場合わかるのみだったが、人形ドールである彼女はわかりきったふうにスーツを脱ぎ捨て、下着姿となる。

「もう、王様人形はいりませんよね?」

「ああ、そのとおりだよ」

女王はもう1人の人物が元々隠れていた事をお見通しのようだ。

あっさり分かられてしまったルーマスはつまらなそうに言う。

「完全にこの人形にだまされていましたわ」

女王は大臣たちの様子を先ほどのいたいけさなど無かったかのようにゲラゲラと笑う。

「仕上げに入ってもらってもいいかな?」

「ええ、そうね」

ぴたりと笑いをやめて、女王は王様の体を軽々と持ち上げて、ベットに仰向けに寝かせる。

すると、王様の背中にせみの抜け殻のように大きな口を開けており、内臓が無くまるでパペットの要領で細工していた。

王様の亡骸なきがらは女王達によって道具として存在しているだけだった。

「私が開発した液体によって死体は腐食や、筋肉の固まる事も無く、綺麗なままで残してくれる最高の逸品いっぴん。内臓や血液は腐るため取り除かなければならないが、細工するのにはちょうどいいわ。そして出来たのが王様のパペット人形。すばらしい出来だったでしょう?」

女王は自分の非道さに酔いしれている。

「あとは、王様を細工したものを取り除き内臓を戻して、死体に戻すだけ」

ルーマスは酔いしれている女王にそっと耳元で甘くささやく。

「はい、そうですの。他人のを詰めて済ませますわ」

女王は手術の道具を用意して天井裏に隠した死体を用意した。

「本当に人形は勝手がいいですわ。本や見ただけで同じことが出来るの出来るのだから」

「僕たち人形が人間なんかに支配されるべきじゃないんだ。これから最終段階に移るよ」

ルーマスはへらへらといつものように心から笑わず表面的に笑う。

「ええ、あなたの気持ちよくわかるわ」

女王はルーマスに対してうれしそうに返事を返す。

「これから本番に入るんだ。よろしくね」

「はい、こちらこそ」

女王は手術に取り掛かる。王様と年齢が変わらない男性の死体を解剖かいぼうし、必要である内臓を移植し始める。

ルーマスはそれを見届けると部屋を後にして、ある部屋へと向かう。

女王でさえも知らない部屋へと。

古くかび臭かった城の図面を見つけて、リヒト王や古き数々の王さえも忘れられた部屋だ。

いつものメリーさんの羊を口ずさんで地下深くまで降りていく。ひんやりした石段を降りていくと行き止まりになっていた。

ルーマスは石を積んだ石壁に触りあるスイッチをみつける。そのスイッチを押すと音を立てて壁は道を作る。

ルーマスは作られた道を進み変哲もない普通で装飾っけのないドアを開けた。

開けて入ると石の道は音を立てて壁へ戻っていく。

部屋に明かりをつけてた。

部屋も変哲へんてつもないひんやりとしたただ広い部屋だった。

あるものは沢山の蔵書と壁一面に貼られた写真、実験道具に電話のみだった。

壁一面に貼られた写真の数はおぞましく多々のサイズで貼られていた。

ルーマスはそれに近づいた。近づくと依存者のような笑みを浮かべた。

ディスクライトで特大サイズの写真を照らした。

「地位も金も手に入った。後は奴隷や兵器。僕が望むものすべて手に入れてみせよう。君もその中の一部に過ぎないんだから」

ルーマスが照らした特大サイズの写真を見上げた。写っていたのは戦争で涙を流し、苦しみ続けられただろうが、それでも完璧な無表情なリボの姿だった。

他の写真もすべてリボの写真で保存用カプセル内の写真までの写真が貼られていたのだ。

ルーマスはいつもと違い、沸々と感情を覗かせていた。細く糸目な目を開かせた目は深く深く暗い瞳はどこまでも緑色をしていた。

どこまでも欲する目はリボの写真を見つめる。

「久しぶりに君に会えたんだ。興奮でイってしまったよ。本物を見ると感情がたかぶってしまう」

ルーマスはブツブツ独り言を呟いて机の上においてあった水銀のような液体を人差し指で一度だけ混ぜた。

するとなんらかの映像がぼやけて見えてきた。そして徐々に映像がはっきりと映し出されると誰が映っているのかわかってくる。

まさしくメアリー、ナイトメア、キッザー、リボであった。

砂漠都市を離れて今は緑豊かな森林深くまできていた。

奥へ奥へ行く4人組みを見て、ルーマスはニタリとその場所を知っているかのように笑った。

「今そこにいたのか」

ルーマスは銀のお盆から指を離すと映像は途切れて、電話の受話器をとった。

ナンバーを押し、しばらく呼び鈴がこだます。

呼び鈴が途切れると可愛らしく澄んだ少女の声が「もしもし」と言った。

「やぁ、久しぶりだね。大分コレクションは増えたかい?」

「用件だけをはっきり言って頂けたい」

少女はルーマスだとわかると冷たく言い放つ。

「何か気に障るようなこと言ったかな?」

「いいから」

少女は苛立ちを覚えつつ、急かした。

「約束の事は覚えているよね?」

「ええ、もちろん」

少女は深くため息をつく。この事を予想していたかのように。

「僕が欲しいものがそっちに向かっているんだ。とりあえずプログラムを停めてこっちに送ってもらいたいんだ。後、人間の子供が3人いるからそれは好きなように使ってくれていいよ」

少女は人間が欲しいのか声のトーンが上がる。

「それはありがたい。なるべくあなたが欲しいものは傷つけないように努力だけしてみましょうか」

「無理だと思うよ。僕の欲しいものは人形でね。その機体は2世紀前の戦争で生き残った最高級の化け物に近い人形なんだ。2世紀経っても健全そのものだね。へたすると君もやられかねない希少性きしょうせいをもっているよ」

「厄介な約束を交わしたものですね」

少女はムスッと機嫌が悪くなり、ルーマスとした昔にちぎった約束をしたことに後悔を覚えつつあった。

「期待しておくよ。アリス」

ルーマスは受話器を置いて元に戻した。

沢山ある写真を舐めるようにして眺める。そして何がおかしいのか部屋中に響き渡るほどに笑い始めた。

「楽しもうじゃないか。2世紀近くかけたこのプランはもうすぐ終わりに近づいているんだから」

ルーマスは暗く深い緑色の目をぎらつかせて高々と笑った。

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